会長挨拶・コメント

定例記者会見

2014年9月17日に開催された会長定例記者会見要旨

先日、第2次安倍政権が誕生してから初めての内閣改造が行われた。新内閣は経済最優先で取り組んでいくということであるが、日本経済はまだデフレ脱却の途上にあり、これを持続可能な成長軌道に乗せるには戦略的な財政、金融政策とともに規制改革を積極的に推進して、企業活動を活性化していくことが必要であると思う。

その意味で、まずはいわゆる「第三の矢」を構成する日本再興戦略改訂版が新内閣の下で、速やかに実行に移されていくことをおおいに期待しているところである。その中でも特にEPAやFTAなどの経済連携の締結推進、インフラシステム輸出の国際競争力強化に向けた支援の充実、農林水産物の輸出促進といった攻めの農林水産業の推進などは、当会としてもかねてから要望していたものであり、是非スピード感を持って実行していただきたいと思う。

私はこの数カ月ほどの間に、日本でインドのモディ首相にお目に掛かる機会を得たほか、安倍総理の外遊に随行し、オセアニア、中南米、西南アジアを訪問した。そこで各国の首脳や経済界のトップとお会いし、日本に対する期待の大きさを強く感じたところである。これらの国々との間でEPAを結ぶ、あるいはインフラシステム輸出を進めることは極めて重要であり、商社業界としても各国との経済関係強化に精いっぱい貢献していくつもりである。

また新内閣には短期的な政策にとどまらず、30年先、50年先といった将来の日本のあるべき姿を見据えて、大きな仕事に取り組んでいただきたいと思う。具体的には日本が、今後もずっと安心、安全が保たれ、活力にあふれて世界に誇れる国であり続けるように、日本の経済社会の構造を大胆に改革していくことが必要である。それはさらなる規制改革に加えて、内なるグローバル化を進めて外国人や外国企業の活躍の場を広げることや、あるいは女性やシニア層なども実力を十分発揮できるような多様性、柔軟性のある社会を実現していくことではないかと考えている。新内閣にはこうした中長期の方向性を意識した政策の立案、実施をお願いしたいと思う。

続いて、日本貿易会の活動について、2点報告したい。すでに皆様にはご案内しているが、来月10月3日に丸の内の東商ホールで、当会主催のシンポジウム「商社ビジネス最前線」を開催する予定である。お手元のパンフレットに記載されている通り、有識者や現役の商社関係者をパネリストとして、商社とは何かについて活発に意見交換をする予定である。商社のビジネスは分かりにくい、とよくいわれるが、このシンポジウムでは具体的な事例を通じて活動内容の一端をご紹介するため、記者の皆様にはぜひご来場いただきたいと思っている。

最後に第10回日本貿易会賞懸賞論文の募集結果についてご報告する。本年度の募集は先週締め切ったが、今年も国内外から多数のご応募をいただき、応募総数は195点に達した。これから厳正に審査し、12月12日には審査結果を発表する予定となっている。どのような論文が表彰されることになるのか、今から楽しみにしている。

私からは以上です。

質疑応答

(記者) 足元の為替レートが107円となり、超円高の時代から、かなり円安が進んでおり、財界では急激な円安に懸念を示す向きもあるが、あらためて現在の円相場について、ご感想をお聞かせいただきたい。また、スコットランドで英国からの独立を問う住民投票が今週行われるが、仮に独立ということになった場合、商社ビジネスへの影響をどのようにご覧になっているか、お考えをお伺いしたい。

(会長) 円相場や株価の見通しは、あまり当たらないものであり、一喜一憂しないことが基本ではないかと思っている。現在の状況としては、米国経済が順調に回復していく中で、FRBが金融緩和からの出口戦略を進めるなどの動きも出てきており、やはり市場においては強いドルへの期待が見て取れるという感じがする。アメリカ経済の成長に対応できるように、日本経済も成長路線、経済の再興戦略を具現化していくことが大事であると考えている。

円安に対しては、色々な見方があると思うが、全体としては必ずしも悪くないのではないかと考えている。例えば輸入物価が上昇するなどと言われるが、個別にみれば、プラスの会社もあれば、マイナスの会社もある。それよりも大事なのは、変動が急激すぎないことであり、その意味では、「安定的な変動」を望みたいと思う。

スコットランドについては、エディンバラは各商社のトップが毎年IRで訪れるくらい金融界の投資家が集まる場所であり、商社のIR活動では重要な場所であると共に、非常になじみ深い地域である。しかし、商社そのものがスコットランドに大きな拠点を構えているということではない。

報道でも言われているように、英国という国全体がスコットランドの独立によって混乱し、経済的にも色々な影響を受けるのではないかと思う。欧州全体の経済政策にも影響を及ぼす可能性があり、経済面ではプラスというよりも、マイナスが極めて多いのではないかと考えている。そういう意味で我々はもちろん安定を望むが、これだけは選挙の結果によって決まるものであり、このように色々なことが想定されるため成り行きを心配している。

現在50社弱の日本企業がスコットランドに進出しており、例えば電機メーカーも工場を設け、操業しているため、独立となった場合には、そのような産業の方に直接的な影響があるかもしれない。それ以外には、先ほど申し上げたように、英国全体、さらにはEUという観点からとらえておく必要があり、事の成り行きを注視しているところである。

(記者) 消費税増税には景気面で不安なところもあるが、これをやらなければ財政再建は進められないという議論がある中で、どのような点に注目して最終判断をしてもらいたいと考えているか、お伺いしたい。

(会長) ご指摘のように、4~6月の景気は想定された状況であったとはいうものの、消費税を5%から8%へ引き上げたことの影響が明らかに出ていた。その後、8月の天候不順などの影響もあったため、7~9月も、楽観的な数字が出るという感じは受けていない。

4~6月に比べれば7~9月は改善すると思われるが、例えば昨年の状況に比べてどの程度の水準なのかなど、色々な見方があると思う。また、現在までの7~9月の数字の動きを見ていて、実質賃金が上昇していないことの影響が大きいという印象を受ける。この点に関しては、安倍総理自身からも「政労使協議を通じて、色々なことをやっていこう」というお話があるように、国としても、賃上げに向けた対応を考えていかなければ、非常にスローな成長にとどまる可能性がある。これまでのところ、景気回復が良いモメンタムにあることから、ここは一気にいい方向へということで我々も期待しているし、そういう後押しをしなければならないと思う。

そういう状況の中で、来年10月の増税の是非を決めなければならない段階にあるが、やはり財政再建という軸足は外せないため、基本的には、国際公約に近い10%への引き上げという方向性を踏まえ、後は、どのような景気の下支えができるのかという景気刺激策との抱き合わせで、かじ取りをする必要がある。その点に関して、我々としてもできる協力をしなければならないと感じている。

(記者) 昨年も賃上げの議論がかなり行われたが、来年の春闘についても交渉の時期が近くなりつつある。どのような協力ができると考えているかお伺いしたい。

(会長) 具体的な方法に関しては、各企業で、その産業全体を見ながら、国民全体を元気付けるような方策を取っていくことではないかと思う。

(記者) インフラ輸出に期待をされているというお話があったが、安倍政権は海外への経済ミッションが多く、商社の方も随行されるケースが多い。今後、開拓をしていくべき地域、あるいは、まだ十分に手が付けられていない地域など、インフラ輸出を進めていく上で、攻めていく分野としてどのようなところがあるとお考えかお伺いしたい。また、安倍総理のトップ外交は、現時点ではインフラ分野が中心と見ているが、このインフラを足掛かりにして、今後裾野の広いビジネスを展開するにはどのようなことが必要であるのか、お考えをお伺いしたい。

(会長) これは各社によって考え方が異なると思うが、例えば、米国でも高速鉄道計画の話がある一方、アジアでは高速道路計画があり、あるいは中近東、アフリカでは淡水化事業の話がある。このように、地域によって内容は異なると思うが、世界的にインフラのリニューアル、あるいは新規プロジェクトが目白押しであると言える。その意味では個社が自らの得意分野で色々なところを攻めていくということであると思う。

商社業界がおそらく最も注目しているのは電力分野であると思う。米国では、すでに電力グリッド網がしっかり整備されており、いまさら新たな電力を米国内でどんどん作るという感じではないのも確かであるため、どちらかというとアジア、あるいはアフリカにおいて、ニーズが高まるのだろう。

その商品、あるいはそのインフラの案件の種類によって地域性があるけれども、世界的に色々な案件があるのは確かだと思う。インフラは、基本的にその国民、地域の住民が利用するため、基本的にハイリターンという発想はあまりないと思う。リスクを張る方もハイリスクでは非常に困るため、ローリスクにしなければならない。よって、ローリスク、ローリターンという発想、且つ、非常に長期間に亘る事業である。

基本的にインフラ事業は発展途上国、しかも政治的に不安定な国が多いという観点からすると、そのリスクにどのように対処するのかが我々にとっての大きな課題であると思っている。その意味で安倍総理以下、国として当該国へ出向いていただき、国同士の合意をした上で、民間の色々な案件を進めていくというやり方は、我々にとっては背中を押していただいているという感じを受けている。

政府自身が“地球儀を俯瞰する外交”戦略を取っており、我々の知る限りでは、既に安倍総理は49カ国を回られたということで、本当に精力的に動いておられ、我々も感謝している。

また、トップ外交ではインフラ案件と共に、経済連携協定、自由貿易協定関連の話について必ず言及いただいていると伺っている。EPA、FTAを進めることによって、いろいろな意味で裾野が広がり、我々企業としてもその国の社会の発展に貢献できるようになる。電力インフラを作ることももちろん大事ではあるが、それに加えて、衣食住に関連したことでも、いろいろなことができると思う。特にインド、あるいは東南アジア諸国では、冷凍品物流や低温物流がほとんど整備されていないため、新鮮な野菜が傷んでしまうなど、損失も発生している。食品の物流網をつくることに関しても、日本は過去にネットワークを構築してきており、その技術を持っている。政府には投資協定の締結や、関税率の引き下げなどを通じて、取引を進めやすい環境づくりにご尽力いただければと思う。

貿易・投資活動の進めやすい環境を整えるという意味では、まだ改善の余地の大きい地域・国も結構残っている。我々商社業界としては、次の発展市場として、インド、ASEAN諸国に加えて、中近東、中央アジア諸国にも非常に興味を持っている。政府と一緒になって、インフラ関連に加えて、衣食住の生活水準引き上げなども進めていきたいという思いである。

(記者) 秋のAPEC首脳会談の場で、日中間の関係改善への動きがあるのではないかという期待感もあるが、最近の中国側の、例えば地方政府などから、どのような感触が得られているのかお伺いしたい。また、インフラ輸出の関連で、8月にJBICやNEXIに対して要望も出されていたが、どのような点を政府金融に期待されているのかお伺いしたい。

(会長) APECが 11月10日-11日、北京で開催予定であることから、我々としては当然、首脳同士が会談できるような状況になれば良いという思いを強く持っている。地方政府も含めて、我々はいろいろな立場の方とコミュニケーションを取っているが、少なくとも「Worse」という方向ではなく、「Better」という方向には動いているのだろうと考えている。

ただ、首脳同士の話は、我々の想像の域を超えるものもあると思われ、外交当局、あるいはさらに上のレベルで色々な話がされていると思う。地方政府をはじめとして、我々がお会いした方たちに関しては、将来の展望を描くときに、やはり色々なところで日本の協力が必要で、日本が不可欠と感じているのではないかという印象を受ける。特に「環境問題に対処するためには経済成長を犠牲にしても仕方がない」ということを李克強総理も言われており、そういう中で日本に対する期待は非常に大きいと思う。

日本からの中国投資は今年になって激減し、日本から中国への旅行客も減少している。日本国内で、中国へのパック旅行の募集をしているところがほとんどないという話も聞いている。一方、中国から日本への旅行客は増加しており、アンバランスな状況にある。日中関係全体が改善することが中国の将来にとっても非常に良いことであるし、我々も日中のトップレベルでの関係正常化が進むことで、もっと中国との仕事が増えるようになればいいという強い期待を持っている。

政府金融については、インフラ輸出に関して、従前はどちらかというと「部分最適」のようなことで、日本企業の力だけで色々やろうとしたが、これからは「全体最適」、つまり日本企業の持っている能力に加えて、海外の企業が持っている能力もうまく組み合わせることによって全体最適をオファーしていくということになると思う。

そういう中で、政府金融にもまだ色々な制約があることから、外国企業との連合にも政府金融の支援を得られるようにするという柔軟な姿勢があれば、さらに事業の機会が増えていくのではないかと思う。また、政権が不安定な国での長期にわたる事業において、リスクをいかに最小化するのかということを、色々な機会に政府とも話していきたいと思う。

(記者) 会長は経済同友会副代表幹事として9月8日~10日にかけて、北京を訪問され、その際、習近平主席と幼なじみであり、中国人民対外友好協会会長を務める李小林氏にもお会いされて懇談されたが、肌感覚として、どういうようなご所感を持たれたのかお伺いしたい。

また、2013年の対中投資が激減したと言われたが、これは2011年~2012年の投資がかなり増えたため、その反動という指摘もある。会長ご自身はどのように分析されているか、お伺いしたい。

(会長) お会いした李小林氏は、習近平主席と幼なじみで非常に近い方であると存じており、そういう思いで我々も期待をしてお話を伺った。非常にフランクな方で、しかも非常に優しい語り口でお話しされる方であった。ただ、基本的にはやはり中国政府が発言することの延長に近い内容が多く、それほど甘い状況ではないという感じも受けた。一方で、李氏が何度も言われたのは、「政治は政治としてあるとしても、経済、あるいは文化、スポーツなど、いろいろな分野で交流しながら両国関係をうまく持っていこうではないか」という趣旨のことであった。また、「両国は2,000年のお付き合いがあるのだから、それに関してはぜひもっと好転させなければいけないし、そういう役目を我々が果たすべきではないか」という問い掛けもあった。これに関して私自身も同じ思いを持ったものである。

対中投資の減少については、前年、前々年が多かったということもあるのかもしれないが、それでも明らかに減少している。特に今年の第1四半期、第2四半期の減少は半端ではない減り方を見せており、これに関しては、中国側もどういうことなのかという印象ではないかと思う。

概算で2万3,000社の日本企業が中国で操業しており、これらの企業がすぐに消えてなくなる事はあり得ないし、必要な追加投資も含めて色々な動きがあるはずである。したがって、現在の2国間関係の停滞を受けて、対中投資を避けた企業があったのではないかという気もするが、まず、2万3,000社の操業をうまくすすめなければならないし、それに加えて中国市場に参入する企業の裾野がもっと広がることを期待したい。

以上