会長挨拶・コメント

定例記者会見

2016年7月20日に開催された会長定例記者会見要旨

この2カ月の動きを振り返ると、まさに世界は激動を続けている。英国のEU離脱(ブレグジット)の選択と首相交代の影響を受けた金融市場の混乱。そして、やむことのない世界各地でのテロ活動があり、トルコでもクーデターがあるなど、企業活動には向かい風とも言える現象が次々に起こっている。

また、世界経済の牽引役が期待される米国の景気にいまひとつ勢いがない。中国経済も足取りが重く、残念ながらまだまだ晴れ間は見えてきていない。

一方、日本では、相対的に安全な資産という評価を受けて円が買われ、年初から進んでいた円高が加速し、株価も一段と下落した。現時点では落ち着きを取り戻しているが、消費増税の延期に象徴されるように、日本経済の先行きも決して楽観できる状況ではない。このままではデフレに逆戻りすることにもなりかねないので、政府や日銀には引き続き景気への十分な配慮を期待している。

さまざまな経済連携協定に関しても、その進捗に不透明感が表れている。TPPについては、米国大統領選挙との兼ね合いもあって、批准手続きが進まず、協定発効への道筋が見えにくくなっている。そこで先週、経済4団体連名で安倍総理に提言を手渡したが、我が国が率先して批准を実現することにより、米国をはじめとする他の参加国の国内手続きを促すことができればと考えている。

さらに日・EUのEPAについても、ブレグジットの影響により交渉はかなり流動的な様相を持つことになると思われるが、早期締結に向けて引き続き関係当局にご尽力いただきたい。このように不透明感に満ちた世界情勢であるが、各国政府や民間企業は、貿易や投資、国際協力の推進といったグローバル化の歩みを止めてはならないと考えている。

来月には第6回アフリカ開発会議がケニアのナイロビで開催される。アフリカは、今世紀末に向けて急速な人口増加と経済の急拡大が予想されている。我々日本企業にとっても、アフリカは新しいフロンティアとしてさらに注力すべき市場であると判断している。そのような観点で、アフリカ開発会議が実りある討議となり、その成果として、日本による更なるアフリカ経済の成長支援の実行に強く期待している。商社業界としても、インフラ整備や資源開発など、できるだけの貢献を果たしていきたいと考えている。

最後に日本貿易会の活動について2点ご報告する。まず、日本貿易会賞懸賞論文の募集についてである。今年の募集テーマは「いま問われる貿易と日本企業の役割」とした。例年、国内外から多数のご応募をいただいているが、本年も幅広い層から斬新で示唆に富む論文が多く寄せられることを期待している。

2点目は商社シンポジウムの開催についてである。正式には9月にあらためてお知らせするが、今年も商社に関するシンポジウムを10月28日に開催することで準備を進めている。このシンポジウムを通じて、とかく分かりにくいと言われる商社について、具体的な事例を交えつつ、その機能や役割などをご紹介できればと思っている。私からは以上です。

質疑応答

(記者) 米国大統領選においてTPP離脱を明言してきたトランプ氏が正式に共和党候補者となった。TPP推進を求めている日本貿易会としてはどう受け止めているか。また、クリントン氏もネガティブな発言が多く、TPPの批准、発効が危ぶまれる状況にあるように思うが、どのように感じているか。

(会長)  最終的に大統領選挙の結果がどうなるかは分からないが、共和党、民主党、いずれの政権においても、日本は日米同盟の延長でさまざまなことを考えていかなくてはいけない。

TPPについては、もともと共和党は否定的ではないので、現実的で柔軟な対応がなされるのではないかと期待を込めて注視している。トランプ氏は実業家であり、現実を直視する経済人としての強みを持っていると思うので、これまでの否定的な発言も現実を踏まえた上で肯定的な方向に向かうことを期待している。

大統領選挙との兼ね合いで、米国でのTPP関連の動きはややネガティブな状況になっており、協定発効に向けて日本政府には強力なリーダーシップを発揮してもらわないといけない。その意味で、先週、経済4団体が共同で政府に提言を提出したもの。

(記者) TICAD関連で伺いたい。アフリカへの進出において、商社は独特のネットワークと機能を活用し、先兵としての役割を果たしている。一方で商社は事業投資や事業経営に傾注している。アフリカの成長に対して商社が果たす役割、あるいは会長が考えるこれからの商社によるアフリカ進出とは、どのようなものか。

また、中国がアフリカで存在感を増している。日本が進出するに当たって大きなライバルになると思うが、その中国に勝つために日本ができること、商社ができることは何か。

(会長) これからのアフリカで重要なものは、食料と水の確保、及びインフラの整備である。資源の生産や輸出は従来の延長線上で事業を継続していくことになろうが、水と食料に関しては、日本のさまざまな技術やノウハウが力を発揮するのではないか。

インフラ整備も商社がイニシアチブを取りながら貢献できるところである。「質の高いインフラ輸出」については、政府とさまざまな連携を取りつつ進めているが、多少時間を要すると思う。

一方、アフリカにおいて日本の存在がまだ小さいことは事実で、旧宗主国である欧州諸国、あるいは米国、インド、中東諸国などと連携して日本ブランドを確立していくことが大切である。我々はそういう手助けが十分できると思っているので、今後注力していきたい。

高速道路やインフラの建設において、アフリカにおける中国の存在感が圧倒的に強いのは確かだと思う。アフリカに駐在している日本人は1万人弱と言われている。我々としては、安心、安全、環境に配慮したモノ、サービス、技術に象徴される、日本ブランドをきちんと理解いただくことが中国との差別化につながるのではないかと考えている。しかし、日本だけですべてをカバーできるわけではないので、米国やインドなどと連携しつつ、さまざまな知恵を出していきたい。そうすることで、結果として中国に劣後しない展開を果たしていきたいと思っている。

(記者) 英国のEU離脱と首相交代、トルコのクーデターなどの動きで、商社が受ける影響は?

(会長) 英国のEU離脱問題は、離脱後の体制がEUとの間でどのように最終合意されるかが大きなポイントになる。商社に限らず、日本企業の多くは欧州の本部機能をロンドンに置いている。英国は英語が公用語であるから日本人には非常に馴染みやすかったが、EUの一員ではなくなってさまざまな制限を受けることになると、かなり大きな問題になる。ブレグジットはこれから2年かけて交渉が行われるが、今回の離脱で格付け会社が英国債の格付けを2ランク下げるなどの動きも既に出ている。しかしながら、各企業はより長期の視点に立ち、交渉のさまざまな進捗を見ながら判断していくことになろう。

トルコのクーデターは大変に驚いたが、これからはこういうことまで想定に含めて、平生からきちんとシミュレーションを行い、注意を払っていかなくてはいけないと感じた。

(記者) バングラデシュでのテロに関連して伺いたい。邦人の安全管理について、大手商社は現地法人から得る情報を豊富に持つと思うが、中小企業の海外進出が増えている中、政府に対する提案、要望はあるか。また、日本人もテロのターゲットになることが分かった以上、日本企業も安全、安心の確保のために経営資源をより注ぎ込んでいかなければいけないという指摘もあるが、どのようにお考えか。

(会長) 昨今の世界情勢を見ると、日本人といえども安心、安全が脅かされていることは確かであり、人命第一でさらに注意深く対応していくことが求められている。

商社は総じて充実した海外ネットワークを有し、現地政府や大使館、さまざまな企業との接点が多いので、より情報が得られることは確かである。中堅、中小企業など、これから海外に進出していこうと考えている企業にとって、テロは大きな懸念事案だと思う。日本貿易会は各種のセミナー等で会員に対して情報提供をしているが、基本的には外務省を中心とする政府からの情報が重要であり、中小企業も含めて、そうした情報が正確に政府から各企業に伝わるようにすることが大切である。おそらく、商工会議所等を通じた話になると思うが、そうした働きかけも行っていきたい。

また、ここ2~3年の動きを見ると、日本人がその国の発展に貢献しているからといって、テロのターゲットから必ずしも外れる訳ではないことが分かる。従って、駐在員は出社時の通勤ルートを毎回変える、事務所はゲートから建物までの距離が充分にあるところに入居するなど、スタッフの安心、安全を確保するためにより多くの経営資源を配分し、注意深い対応を続けざるを得ないのが現状だと思う。

(記者) 一般的な商社論をお聞きしたい。いわゆる「背番号制」、入社してから同じ事業部門で20年近く働くのが一般的であるようだが、部門長やカンパニー・プレジデントクラスになると全く異なる事業も運営しなければならない。これは、いわゆるプロ経営者のステージに近いのではないかと思うが、商社の人材育成はそうした流れへの対応という面でうまくいっているのか。

また、総合商社はイメージと異なり、かなり日本的な企業であり、本社は日本人が多く、役員も日本人が多い。企業活動は非常にグローバルに展開しており、海外子会社には外国人も多いが、本体が極めて日本的というのはなぜなのか。

(会長) 30年くらい前までの商社は、全体のバリューチェーンの中では、川中にいて、金融や物流、保険などの機能を提供していたが、その頃は背番号、例えば何かの商品のプロという人はそれほど多くは必要でなかった。どのような商品、国、市場であれ、それは川下、あるいは川上の企業に任せて、川中でサービスを提供していればよかった時代であった。そして、いわゆる「商社冬の時代」、「商社不要論」等いろいろな議論がある中で、新しい商社の在り方が模索され、川上から川下まで、川中も含めて商流全体で商社が事業展開をするように変わってきたのである。

商流全体を見ることは、川上に対しても川下に対してもそれなりの知識や知見が必要となるので、その業界のプロでなければ、全体のバリューチェーンの構築はできない。その意味で、商社の人材は、企業によって少し異なるが、少なくとも20年程度はプロの世界を経験し、小さなオペレーションから徐々に経営を勉強していく。部門長、あるいはカンパニー長になると、何百人、何千人というオペレーションになり、実際にプロの経営者になるが、経営という観点では、個々の商品の詳細までつかまなくても全体を把握して適切に判断できれば経営はできる。その意味で、商社の人材育成は2つのフェーズに分かれてきているのも事実である。

商社は不断に変化していく。過去は、明らかに日本中心のオペレーションだった。これは日本から例えばインドに物を輸出する、あるいはインドから日本に物を輸入する際に、日本国内はもちろんとして、インドにおいても日本の企業、商品、文化を知っている人間の方が物事を進めやすかったということがある。また、あるインドの商品が日本で売れるかどうかを判断するときは、インドに駐在している日本人の方が、インド人よりも判断材料を多く持っていたというようなことも確かにあったと思う。

しかし、これから、例えばインドからアフリカ、アフリカから米国への輸出入、あるいはインド国内での事業展開というように活動がよりグローバル化していくと、その事業運営は日本人中心である必要はなくなるため、本来のグローバル化に向かって商社全体が動いていくことになる。今は、その過渡期にあると言える。

以上