商社が分かる

商社のダイバーシティ~Diversity & Inclusion~

~Voice~ 活躍する商社ウーマン
「何でもチャレンジすることが大切」

2017.12.15女性活躍推進

茅野ちの みつる

伊藤忠商事株式会社 執行役員
伊藤忠インターナショナル会社EVP
(兼)伊藤忠インターナショナル会社CAO
(兼)伊藤忠カナダ会社社長

米国で名門女子大スミス・カレッジ卒業後、コーネル大学の法科大学院を修了。カリフォルニア州弁護士資格を取得して現地有数の国際法律事務所に入社。サンフランシスコ、香港、東京で勤務し、1999年にパートナーに昇格。2000年伊藤忠商事入社。2010年法務部長代行、2013年4月執行役員・法務部長、2017年4月より現職。

伊藤忠商事で企業内弁護士として活躍され、2013年4月に同社最年少、女性としては大手商社初となる執行役員に就任。さらに、2017年4月の人事異動で、伊藤忠商事の米国ビジネスを見る経営陣に大抜擢され、新たなチャレンジをされています。

世界経済フォーラム(ダボス会議)で2003年に「次世代のグローバルリーダー100人」、2005年に「若きグローバルリーダー」に選ばれ、また2006年にはNewsweek誌で“世界が認めた日本人女性100人”にも選ばれており、国際的に活躍する女性リーダーとしての功績が世界的にも認められています。実績を積み重ね、女性総合職のロールモデルとして先頭を走り、後進に大きな希望を与えている茅野さんにお話をお伺いしました。

伊藤忠商事の魅力

営業の現場に近いところで仕事がしたいと思うようになり、2000年に伊藤忠商事に入社しました。伊藤忠は以前私が所属していた法律事務所のクライアントでした。案件の多様さや、常に新しいことにチャレンジしている商社が魅力的でしたし、何より当時、一緒にお仕事をした営業の人たちが魅力的でした。また、伊藤忠は財閥系とは違って、何でもチャレンジさせてくれる文化があります。エピソードはたくさんあるのですが、例えば、ダボス会議の後、丹羽社長(当時)に会議の報告をメールで行ったのですが、「商社は女性の登用が遅れているので、ダイバーシティ委員会を作りたい」と伝えたら、すぐ呼んで頂き、それがきっかけで実現しました。個人の意見をとても大切にしてくれる会社だと思います。

新たなチャレンジ


第54回日米財界人会議@ワシントン

現在のポストの内示を受けた時、「よろしくお願いします」と即答しました。チャンスがあっても、女性はどうせひるんじゃうという言葉を聞いたことがあったので、もしも自分に何かを頼まれたら、できるできないは置いておいて、とにかく引き受けようと決めていました。1991年から26年間、弁護士として法務畑で働いてきましたので、今回の米国ビジネスを見る経営のポジションは私にとってチャレンジでした。社内の女性総合職向け研修等で「何でもチャレンジすることはとても大切」と話しています。自分で限界を作り拘束すべきではないと思っています。

今回の人事でも、岡藤社長から新たな成長の機会を頂いたと思っています。その期待に応えられたらと思います。また小林会長には、今回日米財界人会議(11/2・3@ワシントン)へ出席する機会を頂きました。実は父も昔、この財界人会議に出席していたことがあり、親子二代での出席となりました。岡藤社長、小林会長ともに、いつも私の殻を破り、成長の機会を与えてくれることに感謝しています。

ニューヨーク・経営陣として

ニューヨークに来て良かったと思うことが2つあります。1つ目は女性のネットワークが広がったことです。ニューヨークには金融機関や商社の女性駐在員がたくさんいて、色んな情報交換をしています。また、日本支部で参加していたWCD(Women Corporate Directors)※1の母体がアメリカにありますのでNY支部 にも参加して、女性の取締役のネットワークも広げることができています。2つ目は、DirectorやOfficerとしての役割や会社経営において大切なスキル等を磨ける機会が多くあることです。現在は、伊藤忠インターナショナルのカリスマ社長について修行中です(笑)。役員としての物事の考え方等が学べて、とても勉強になります。また、勉強会やネットワークに自ら出かけて行って、色んな人と出会い、色んな意見を聞く事で、気づきがあり、自分磨きをし、人として成長していきたいと思います。

※1 … Women Corporate Directors (WCD)は、各国企業の取締役会に所属し、活躍する女性たちにより構成されるグローバル・ネットワークであり、ボードにおけるダイバーシティの重要性を基本理念として掲げ、女性取締役の相互研鑽によるコーポレートガバナンス機能の向上を目指して活動する組織。

女性活躍・働き方における日米の違い

日本企業はとても女性社員に対して優しいです。優しいのはいいことですが、それがむしろ女性のキャリアにマイナスなことがあります。ニューヨークに赴任した際、約150人の従業員の中で妊娠中の女性が4人いました。米国人と日本人2人ずつ。彼女達は「普通に」出産ぎりぎりまで働いていました。そして、2-3か月で戻ってくるのです。同時期に妊娠していた2人の日本人女性は、おそらくとてもencourageされたと思います。企業は女性にもいろいろと期待していますし、大切な戦力です。そのことを女性自身が認識して自分のキャリアに対するコミットメントをきちんと持つことが大切だと思います。
日本企業には、まだまだ女性が少ないので、あらゆる階層に普通に女性がいるということが特別視されないためにも大切です。まずは数を増やすことだと思っています。

スポンサーを見つけよう

社内でいわゆる「スポンサー」を見つけてほしいと思います。特に女性が男性の多い組織の中で働いていこうと思ったら、スポンサーは必要だと思います。この場合のスポンサーというのは、「後見人」や「メンター」になってくれる上の人のことです。日本の企業社会は、男性の場合は仕事ができれば誰か上の男性が必然的にスポンサーになって、その人のキャリアアップを後押ししてくれていると思います。一方、女性に関しては、つい最近まで日本の社会では、女性が企業の中でキャリアップすることが少なかったので、女性社員のスポンサーに誰かがなるという風土がまだ育っていない。私がラッキーだったのは、法務部時代からスポンサーとして目をかけてくださった方がいたということです。日本企業においては、女性社員も、もっと積極的に自分のスポンサーになってくれる上司を見つけようと意識してもいいかもしれないですね。私も組織の上に立つようになって、部下のことやその人をいいポジションに就けるために何かしないといけないとも考えるようになりました。今回日本を離れるに当たり、3人の女性部下を昇格させてきました。もちろん、彼女たちが優秀であったからです。彼女達が活躍してくれることを期待しています。

ポジションは大切~昇進すると違う景色が見えてくる

昇進にひるむ女性や責任あるポジションは大変だと考える女性が少なくないと聞きますが、ポジションは大切です。同じ発言でもポジションがより上の人が言った発言の方が重みがあると思いませんか。また、ポジションが上になればなるほど、大変...と思っている方がいますが、実はその逆なのです。自由になれるのです。なぜなら、仕事を任せられる部下がどんどん増えるからです。それから、仮に自分が昇格を拒んで、自分より能力の低い人が上に立ったらフラストレーションになりませんか。良い仕事をし、チャンスが巡ってきたら、ぜひ掴んで欲しいと思います。父が、私が執行役員になった時言ってくれたのですが、「キャリアは山登りと一緒。上に行けば行くほど、風当りは強くなるかもしれないけど、景色がよく見えるようになる」と。そのとおりだと思います。

ポジティブ思考で

心掛けていることは、これも親の教えですが、人の噂や悪口は言わないこと、また極力ネガティブ思考に触れないようにすることです。先日ニューヨークで、偶々暗いオペラを見たら、一週間どんよりした気分を引きずってしまいました。物事の明るい側面を見るようにしてポジティブ思考でいられるようにしています。伊藤忠の各カンパニーのトップもネアカな人間が多いような気がします。

出張の機会に、その地で活躍されている商社の女性駐在員の方々から色々なお話をお伺いしています。魅力的な方ばかりで、いつも勇気づけられます。しなやかにご活躍されるロールモデルの皆さんをご紹介させて頂きたく、ご一読いただければ幸いです。一期一会を大切に。(聞き手:政策業務グループ 中村 志保)