商社が分かる

商社のダイバーシティ~Diversity & Inclusion~

~Voice~ 活躍する商社ウーマン
「What’s your background?― 個として輝ける社会に」

2018.3.15女性活躍推進

清水しみず 梨江子りえこ

北米三菱商事会社
ワシントン事務所課長

2000年外務省入省、3ヵ国の海外駐在等を経て、2012年に三菱商事に入社。業務部、調査部を経て、2017年3月より米国・ワシントンに駐在。世界の政治経済情勢や米国のビジネス環境等に関する調査・情報収集等を行う。

外務省時代に、英国、南アフリカ、インドネシアで駐在される等、外交官としてのキャリアを積まれた後、三菱商事に転職された清水さん。とても聡明で人も羨む華麗なキャリアを積み重ねてこられています。政府と民間両方の視点から見た女性活躍の認識や日米の違い等についてお話をお伺いしました。(政策業務グループ 中村志保)

外務省から三菱商事へ

外務省12年間のうち、海外・国内にそれぞれ約6年ずつ勤務し色々な経験をさせていただいて外務省の仕事はひと通り経験することができました。外務省の仕事にはやり甲斐を感じていましたが、ある時ふと、自分には足りないものがあると思うようになりました。当時、日本は世界第2位の経済大国。政府では政策や方針を作ってはいるけれども、日本を支えるビジネスの現場のことは何も知らない、頑張って作った政策や方針がビジネスの現場にどう影響しているのかも分からない。外務省で政治がどのように回っていくのかは学ぶことができましたが、経済が回っていく仕組みを知らないことに気づいたんです。また、海外におりまして、日本から来たと言いますと「日本製品っていいよね」とよく言われます。日本という国をトヨタやソニーといった日本製品の名前で理解されているんですね。海外で日本ブランドを支えているのは、経済活動だと思い、日本を世界第2位の経済大国に成長させた民間企業で経済の仕組みを学びたい、お金の稼ぎ方を知りたいと思ったのが、転職のきっかけです。入社後は調査部や業務部で経験を積んでおり、相変わらず直接お金を稼ぐことはしていないのですが、インテリジェンスという観点からビジネスを支え、各国の政策や方針がどのようにビジネスに影響しているのかを知ることができるのは、非常に楽しいです。転職には勇気が要りましたが、政府と民間、両面を見られたという意味で、転職して良かったと思います。

女性活躍という点では、2012年に三菱商事に入社した当時、管理職の女性は多くありませんでしたが、この6年で若手女性職員の数も、女性管理職の比率も着実に増えてきていますし、女性が長く働ける組織となるよう、社内の取組みが急速に進んできていることを実感しています。

What’s your background?


2018年全米知事会レセプションにて
マコーリフ前バージニア州知事と

米国で働いていて、日本人のコミュニティでご挨拶すると「駐在員の奥様ですか?」と尋ねられることが多くありますが、米国人と話して、その様な聞かれ方をすることはまずありません。米国人からは「What do you do?」「What’s your background?」と聞かれます。このくらいの年齢になると、色々経験してきて当然という前提のもと、「どういう仕事をしてきたの?」「これまでのキャリアは何?」という会話から始まるわけです。女性に対する認識が大きく違うのだと思います。自分のbackgroundを説明することで認められたり、関心を持たれたり、ということが普通の社会になっています。そのため、女性・男性関係なく、自分が個人として何をやっていかなければならないのか、この社会でネットワークを作っていくために、どの様な専門性を高めていく必要があるのか、ということに意識が向くようになります。個人として、どのような人間なのかが問われるのだと思います。このような環境は、性別に関係なく働きやすいと思いますし、やらなきゃという土壌に立っている気がして、とてもencourageされます。

日本で「総合商社で総合職をしています」と申し上げますと、「すごいですね」と言われて、そこで終わってしまう。個人の専門性やbackgroundまで聞くことは少ないですよね。男性には「総合職とは、すごいですね」とは言わないのに、女性だから「すごいですね」と言われる。その環境に自然に違和感を抱くようになり、性別関係なく、「何をやってる方ですか?」と関心が広がるような社会になったら、女性としても働きやすいと思いますし、本当に男性と対等に働ける環境になるのだと思います。そこまで、社会が成熟するには、まだ時間が掛かると思いますが、そういう社会が来たら良いなと思いますし、どの職場でもそこに辿り着くよう、認識を変えていくことが出来たら理想的だと思います。女性・男性、女性比率何%というような点にフォーカスするのではなくて、「この分野の専門家はこの人です」という時に、普通に女性が入っているような環境が一番理想です。女性活躍という名のもとに、女性にゲタを履かせて地位を上げるということには、様々な意見があることはよく理解しています。ただ、単に「女性だから」という理由だけでポジションを与えられることがあるとしたら、それは女性にとっても、心地良くないと思います。女性・男性関係なく、正当に評価されて、能力に応じた立場を与えられることが大切だと思います。そのために、女性が辞めないで、きちんと専門性を高められるような環境や道筋を作ってあげることが、一番大切なのではないでしょうか。そして、女性自身も、その環境の中で正当に戦っていけるよう、与えられた、もしくは与えられるチャンスがあるポストに見合った実力をしっかりつけていかなくてはいけないと思います。

女性が海外で働くこと


私にとっては今回、外務省時代を含めて4度目の海外駐在になりますが、三菱商事では、総合職は全員研修生として、入社8年目までに、一回は海外に行くような制度になっています。海外で働くという肌感覚をつかむには、とても良い機会だと思います。海外勤務は女性にとって、全く足かせではありません。海外に出てみると、日本以外で女性がどのように働いているかを見る良い機会でもあります。日本ではロールモデルが多いとは言えませんが、海外で働く女性を見ると、産休・育休をどれくらい取っているのか、小さな子供がいながら活躍している女性は、どの様に日々をやりくりしているのか等、目からうろこが落ちることも多々あります。女性も働いて当たり前という世界に触れると、自身の考え方も変わります。経験上、女性も男性に劣らず海外への対応力が高く、厳しい環境に行けば行くほど、たくましいです(笑)。チャンスがあれば、積極的につかむべきだと思います。