「『水素エネルギー』」の現状と事業化を見据えた岩谷産業の取り組み」
岩谷産業(株) 水素エネルギー部長上級理事
建元 章 氏
講義を終えて
水素エネルギーは、エネルギーと地球環境問題の解決策として導入が期待されている。また、導入されれば大きなマーケットが出現することにもなる。水素エネルギー普及に向けての課題は、コスト、耐久性や
インフラ整備などたくさんある。
水素は「危ない、爆発する」などマイナスのイメージが浸透している。このため、いわゆる「社会受容性」を高めるよう
普及啓発を行っていく必要がある。水素事業を始めてから半世紀を迎える当社としては、これが使命と考え、活動している。
特に、今後、水素エネルギー時代において中核になっていくであろう児童、生徒たちに、水素の正しい理解を得るための活動
を始めた。このほか、普及のための仲間づくりも必要と考え、ネットワークづくりを行っている。水素エネルギーがビジネスにな
る日が来るまで、これらの活動を息長く継続していく。
参加者の方々の関心の高さを感じた。ありがとうございました。
講演要旨
(エネルギー戦略と水素エネルギー) わが国のエネルギー戦略は「新・国家エネルギー戦略」を基本とし、目標を、@省エネ30%改善、A石油依存度低減(全体40%)、B原子力発電比率30〜40%としている。
エネルギーと環境にかかわる問題では、世界中で地球温暖化防止(CO2削減)とエネルギー安定供給(脱石油)をめざしており、この解決策として水素エネルギーの導入がある。燃料電池の意義には、@環境負荷低減効果(CO2削減)、A高効率、Bエネルギー供給源多様化、C新規産業・雇用創出、D電源分散化があり、燃料電池は21世紀のエネルギー・環境分野におけるキー・テクノロジーと位置付けられている。現在の日本の水素量は約200億m3程度と考えてよい。水素の日本市場規模は現在、400億円程度と小さいが、燃料電池ハイブリッド車両をはじめ、多岐にわたる用途で採用され始めている。
(水素ステーション、家庭用燃料電池と実証プロジェクト)
燃料電池実証プロジェクト(JHFC)で建設された水素ステーションは、首都圏に9ヵ所、首都圏以外に3ヵ所あり、1ヵ所当たりの建設費用は約3億円である。水素ステーションの充てん回数は、一番多い有明水素ステーションでも年500回程度で、商売になる状況ではまだない。水素ステーションの課題としては、@ステーション建設コストの低減(現在約3億円を1億円未満へ)、A水素供給コストの低減(目標値40円/m3に対し、現状の水素は約100円/m3)、B水素の安全性に対する認識への啓蒙、C既存のインフラを最大限活用した線から面への展開、DCO2フリーの水素供給などがある。
燃料電池システムメーカーが大規模実証事業としてエネルギー企業を通して、一般家庭に供給した燃料電池は、2007年までの累計で約2,200台である。家庭用燃料電池の市場価格は2005年で1台800万円であり、40〜50万円まで下げる必要がある。2009年までに120万円台まで下げるのは厳しく、国の補助が必要である。
(燃料電池導入目標と実用化への課題)
燃料電池戦略研究会が設定した燃料電池自動車の導入目標は、開発・導入期で5万台、普及期500万台、本格普及期1,500万台であり、チャレンジングな目標で、現実とはかい離している。この数値を基に、燃料電池車用だけの水素関連市場規模を試算すると、2010年は320億円で、2030年には約7,000億円になり、水素ステーション市場(建設費)は8,500億円となる。燃料電池システム全体の市場規模は2020年で1兆円を上回ると予測されている。2020年における燃料電池車数の導入目標は500万台だが、シンクタンクの予測で30万台という見方もある。燃料電池の実用化、商用化への課題は、@コスト、耐久性、A燃料、インフラ、B法規制、C水素の認知の4点がある。
(イワタニの取り組み)
当社は1958年に水素の製造会社である大阪水素工業を設立して以来、2008年で半世紀を迎える。水素エネルギー社会に向けての方針は、@液体水素供給事業の拡充、Aエネルギー用途への対応、B新規水素需要の創出、C普及啓発活動である。当社としては水素の需要創出が必要であり、そのために、技術開発、仲間づくり、水素の正しい理解の啓蒙を行う。当社は、水素ステーションをはじめ、燃料電池自転車の開発、水素自動車キャラバン等に取り組んでいる。
(水素エネルギーと事業化)
燃料電池車の普及のめどは2015〜2020年、家庭用燃料電池は2015年との見方がある。燃料電池ビジネスが確立されるか否かは、自動車用では石油価格、最適な水素貯蔵法の出現等、家庭用ではガス・石油会社の市場投入時期と方法、価格レベル達成等、携帯機器用では重量、スペース、コストでの優位性確立等が焦点である。水素エネルギー事業は実現に時間がかかるといった問題点はあるが、「『水素社会』の実現は人類と地球を救うプロジェクト」であると確信している。 |