大学における環境講座の実施(2008年度前期 横浜国立大学大学院)

(地球環境委員会)
 地球環境委員会では、2002年度より環境面における社会貢献活動として、大学での環境講座を実施している。2008年度前期は、4月24日に、横浜国立大学環境情報学府において、修士・博士課程の学生約40名を対象に、地球環境委員会委員会社の2名の方が講義を行った。講義終了後は、学生から専門的かつ具体的な質問が多数続き、テーマに対して高い関心や興味がある様子がうかがえた。
4月24日(木)
建元章 氏 「『水素エネルギー』」の現状と事業化を見据えた岩谷産業の取り組み」
岩谷産業(株) 水素エネルギー部長上級理事 
建元 章(たてもと あきら)

講義を終えて
 水素エネルギーは、エネルギーと地球環境問題の解決策として導入が期待されている。また、導入されれば大きなマーケットが出現することにもなる。水素エネルギー普及に向けての課題は、コスト、耐久性や インフラ整備などたくさんある。
 水素は「危ない、爆発する」などマイナスのイメージが浸透している。このため、いわゆる「社会受容性」を高めるよう 普及啓発を行っていく必要がある。水素事業を始めてから半世紀を迎える当社としては、これが使命と考え、活動している。
 特に、今後、水素エネルギー時代において中核になっていくであろう児童、生徒たちに、水素の正しい理解を得るための活動 を始めた。このほか、普及のための仲間づくりも必要と考え、ネットワークづくりを行っている。水素エネルギーがビジネスにな る日が来るまで、これらの活動を息長く継続していく。
 参加者の方々の関心の高さを感じた。ありがとうございました。

講演要旨

(エネルギー戦略と水素エネルギー)
わが国のエネルギー戦略は「新・国家エネルギー戦略」を基本とし、目標を、@省エネ30%改善、A石油依存度低減(全体40%)、B原子力発電比率30〜40%としている。
エネルギーと環境にかかわる問題では、世界中で地球温暖化防止(CO2削減)とエネルギー安定供給(脱石油)をめざしており、この解決策として水素エネルギーの導入がある。燃料電池の意義には、@環境負荷低減効果(CO2削減)、A高効率、Bエネルギー供給源多様化、C新規産業・雇用創出、D電源分散化があり、燃料電池は21世紀のエネルギー・環境分野におけるキー・テクノロジーと位置付けられている。現在の日本の水素量は約200億m3程度と考えてよい。水素の日本市場規模は現在、400億円程度と小さいが、燃料電池ハイブリッド車両をはじめ、多岐にわたる用途で採用され始めている。

(水素ステーション、家庭用燃料電池と実証プロジェクト)
  燃料電池実証プロジェクト(JHFC)で建設された水素ステーションは、首都圏に9ヵ所、首都圏以外に3ヵ所あり、1ヵ所当たりの建設費用は約3億円である。水素ステーションの充てん回数は、一番多い有明水素ステーションでも年500回程度で、商売になる状況ではまだない。水素ステーションの課題としては、@ステーション建設コストの低減(現在約3億円を1億円未満へ)、A水素供給コストの低減(目標値40円/m3に対し、現状の水素は約100円/m3)、B水素の安全性に対する認識への啓蒙、C既存のインフラを最大限活用した線から面への展開、DCO2フリーの水素供給などがある。
  燃料電池システムメーカーが大規模実証事業としてエネルギー企業を通して、一般家庭に供給した燃料電池は、2007年までの累計で約2,200台である。家庭用燃料電池の市場価格は2005年で1台800万円であり、40〜50万円まで下げる必要がある。2009年までに120万円台まで下げるのは厳しく、国の補助が必要である。

(燃料電池導入目標と実用化への課題)
 燃料電池戦略研究会が設定した燃料電池自動車の導入目標は、開発・導入期で5万台、普及期500万台、本格普及期1,500万台であり、チャレンジングな目標で、現実とはかい離している。この数値を基に、燃料電池車用だけの水素関連市場規模を試算すると、2010年は320億円で、2030年には約7,000億円になり、水素ステーション市場(建設費)は8,500億円となる。燃料電池システム全体の市場規模は2020年で1兆円を上回ると予測されている。2020年における燃料電池車数の導入目標は500万台だが、シンクタンクの予測で30万台という見方もある。燃料電池の実用化、商用化への課題は、@コスト、耐久性、A燃料、インフラ、B法規制、C水素の認知の4点がある。

(イワタニの取り組み)
 当社は1958年に水素の製造会社である大阪水素工業を設立して以来、2008年で半世紀を迎える。水素エネルギー社会に向けての方針は、@液体水素供給事業の拡充、Aエネルギー用途への対応、B新規水素需要の創出、C普及啓発活動である。当社としては水素の需要創出が必要であり、そのために、技術開発、仲間づくり、水素の正しい理解の啓蒙を行う。当社は、水素ステーションをはじめ、燃料電池自転車の開発、水素自動車キャラバン等に取り組んでいる。

(水素エネルギーと事業化)  
燃料電池車の普及のめどは2015〜2020年、家庭用燃料電池は2015年との見方がある。燃料電池ビジネスが確立されるか否かは、自動車用では石油価格、最適な水素貯蔵法の出現等、家庭用ではガス・石油会社の市場投入時期と方法、価格レベル達成等、携帯機器用では重量、スペース、コストでの優位性確立等が焦点である。水素エネルギー事業は実現に時間がかかるといった問題点はあるが、「『水素社会』の実現は人類と地球を救うプロジェクト」であると確信している。



浅井繁 氏 「資源循環型ビジネス―国内外の都市鉱山有効利用―」
豊田通商(株) 東京金属部鉄鋼原料グループ課長職 
浅井 繁( あさい  しげる)

(講義を終えて)
  今回、大学院生の生徒に、当社が取り組んでいる鉄スクラップビジネスの中でも、特に使用済み自動車のリサイクルビジネスについて説明させていただいた。私たちが日常で使用している自動車のリサイクルということで、講義後も質問をいただき関心の高さを感じた。
 自動車リサイクル法が施行されて3年経ち、自動車リサイクルを取り巻く環境は、循環型社会への実現に向けて、さらなるリサイクル率の向上を迫られると思われる。今回の講義によって当社の自動車リサイクルへの取り組みを説明する機会をいただき、感謝したい。本講義が今後、生徒の皆さんの研究のお役に立ち、また何らかの形で自動車リサイクルの推進に関与していただければ幸いである。

(講演要旨)
  当社では8つある本部の中で、金属資源を扱っている金属本部の中に4つのSBU(サブビジネスユニット)があり、その中の一つである鉄鋼原料SBUが金属スクラップのリサイクルに取り組んでいる。
  わが国における金属製品の流れとその中での当社の事業を以下、説明する。
  一つの流れとして、高炉メーカー等の金属(母材)製造業から供給を受け、当社グループの鋼材加工センターが加工し、自動車メーカーのような金属加工産業に納入する。そこ(加工産業)で発生したくずを当社で回収し、二次資源として金属製造業に戻す。これが工場くずリサイクルの環である。
  もう一つの流れは、金属加工産業で生産された製品が消費者にわたり、使用後、廃棄されたものをグループ内の会社が分別回収・処理のうえ、金属製造産業に二次資源として納入するもので、廃車のリサイクルが一例である。
  まず、廃車のリサイクルについて説明する。2006年度には国内で約350万台の車が廃棄処分された。回収された廃車は分解され、価値のあるものから順に取り出されていく。解体業者により部品と触媒が取り外され、部品は中古部品業者へ、触媒からは貴金属が取り出され、素材として再利用に回される。次に、残った車体はシュレッダー業者に渡り、粉砕選別処理され、鉄くず、非鉄くずを回収し、各素材へと再生される。こうした最終的な残さをシュレッダーダスト(ASR)と呼ぶ。これが最終処分事業者に渡り、一部、防音材、燃料として再利用されるものを除き、埋め立て処分される。埋め立て処分されるのは、全国平均で車体重量比約20%といわれている。当社グループでは中古パーツ販売のエコライン、廃触媒回収の豊通リサイクル、シュレッダー事業者の豊田メタルがこれらの業務に従事している。
  廃車の処理に関連して発生するASR埋め立て処分場不足、環境汚染、作業者への危険等の問題に対処するため、2005年1月から自動車リサイクル法が施行された。これは、ASR、フロン類、エアバッグ類の3品目の引き取り、リサイクルを自動車メーカー、輸入業者に義務付け、その処理費用はリサイクル料金として、自動車の最終所有者が負担するものである。ASRについて言えば、実際には自動車メーカー、輸入業者が処分を行うのではなく、専門業者に委託する。
  本法の施行にともない、当社本体でも「全部利用」という新たなスキームの事業にも取り組んでいる。これはシュレッダーレス・ルートといわれ、解体作業の中で銅分の回収を行い、直接製鉄メーカーに納入しようとするものである。
  最後に当社の海外での工場くずのリサイクルへの取り組みについて簡単に紹介する。くずが発生する加工工場隣接地に当社の直営ヤードを設け、製鉄メーカーに鉄鋼原料として加工納入することにより、鉄くずリサイクルにおける資源の管理を達成しようとするものである。具体例としては、2000年4月に米国ケンタッキー州に直営ヤードを開設したのを皮切りに、欧米、中国を中心に、グローバル展開していることが挙げられる。