「アジアにおけるバイオ燃料と農業資源」
株式会社双日総合研究所
事業コンサルタントグループ主任アナリスト
森本 郁徳 氏
講義を終えて
講演を終えて、数名の方から受けた質問から、やはり、食料とバイオ燃料作物との競合の問題に強い関心があることが分かった。バイオ燃料に関して言えば、現在、農産廃棄物などのセルロース系からのバイオエタノール、バイオブタノールの研究や非食用植物の研究が米国や日本で進められている。将来、多くの化学品、プラスチック、医薬品が非食用バイオマスを原料として製造される時代が到来すると私は考えている。環境に関する研究をされている学生の皆さんには、科学の進歩という観点にも目配りをいただき、科学者の方々との交流も深めていただきながら、人類のあるべき姿を描いていただければと思う。
講演要旨
(地球の気温推移−京都議定書)
地球の気温は1860年から過去140年で0.8度上昇しており、温室効果ガスの濃度は1800年ころから急激に上がっている。地球の温暖化は温室効果ガスの影響と考えてほぼ間違いないだろう。
92年、ブラジルのリオデジャネイロで開かれた地球サミットを基点とし、97年、COP3が京都で開催され、京都議定書が採択された。京都議定書において、日本は目標期間(2008〜2012年度)にCO2排出量を90年度比6%削減することを定められているが、2005年度実績で90年度比7.8%増加しているのが現状である。
(バイオ燃料−バイオエタノール/バイオディーゼル)
バイオ燃料は大きくバイオエタノールとバイオディーゼルに分けられる。バイオエタノールの原料には、トウモロコシ、サトウキビが多く使われる。最近は、トウモロコシのしん、サトウキビのバガス等のセルロース由来のバイオエタノールの開発が話題となっている。バイオディーゼルの原料には、ナタネ油、パーム油等の植物油脂が使われる。生成過程での副産物グリセリンの有効利用は化学業界のテーマの一つとなっている。
(バイオ燃料と食品価格)
2007〜2008年にかけて食料価格は値上がりしたが、食料価格の高騰の原因は、投機マネー、中国をはじめとした新興国におけるおう盛な実需、バイオ燃料の3つであるといわれている。2008年6月からいろいろな農産物、食用油の値段が下がったことを見れば、最も高騰した時の原因は投機マネーであると考えられる。バイオ燃料の影響を重視する見方もあるが、その影響は軽微であると考えている。
(セルロース系バイオエタノール)
稲わら、麦わら等をソフトバイオマス、木等をハードバイオマスと呼び、セルロール由来のエタノールは、リグノセルロースを前処理したセルロースを糖化することでグルコースにし、これに酵母を加え、発酵させてエタノールを生成するのが基本フローとなる。ハードバイオマスはC6成分が多いがリグニンも多く、ソフトバイオマスはリグニンが少ないがC5成分が多いのが特徴である。ハードバイオマス利用では、リグニンを取り除く作業にコストが掛かる、ソフトバイオマス利用では、酵母はC5を栄養源としないという問題点がある。C5、C6共に栄養源とする酵母を遺伝子組み換え等により作り出せれば、収率の良いエタノール生産ができ、ビジネスになり得ると考えている。
(アジアにおける農業資源)
セルロースからのエタノール技術が確立できた場合の、アジアでのエタノール生産の可能性について見ると、インドの穀倉地帯はガンジス川流域や南部に集中しており、2030年にはセルロース系廃棄物としてサトウキビからのバガスが最も有用となると考えられる。中国では華北東北地方のトウモロコシ、コメ廃棄物、華東〜長江流域のコメ廃棄物、華南のサトウキビ、コメ廃棄物にエタノール生産の可能性がある。バイオディーゼルの研究開発においては、食料と競合しない植物油の利用がここ数年進められており、食用にはならないナンヨウアブラギリが注目されている。
また、特に米国ではバイオブタノールの研究が進められている。エタノールに比べ、水との親和性が低い、発熱量が高いことに加え、蒸気圧が低いため、大気中に出ても光化学スモッグのリスクは低いという利点がある。また、バイオエタノールはガソリン車にしか使えないが、バイオブタノールは、軽油車にも利用できる。
(今後のエネルギー利用)
近未来のエネルギー利用について考えてみると、先進国では電気自動車の普及が進み、充電式のガソリンスタンドや充電機能付きのマンションができる、一方、開発途上国では、バイオ燃料が使われることが予想できる。また、日本でのバイオ燃料の利用は、主に小型の漁船、農業機械、飛行機ではないかと考えている。
長い歴史の中で先進国が森林を伐採(CO2吸収源を消失)して農地を得てきたことを考えれば、今後、開発途上国が森林を伐採することについて、先進国がストレートに非難する権利があるのかどうかを考える必要があるだろう。
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