大学における環境講座の実施(2004年度後期 横浜国立大学大学院)

(地球環境委員会)
 日本貿易会地球環境委員会では、2002年度より環境面における社会貢献活動として、大学での環境講座を実施しています。2004年度後期は、横浜国立大学大学院環境情報学府において、修士・博士課程の学生約45名を対象に、地球環境委員会委員会社の4名の方にご講義いただきました。
 講師4名と横浜国立大学大学院環境情報学府 周佐しゅうさ助教授の講義後のご感想を紹介します。

1月13日(木)
「パソコンでの燃料電池の利用」
台湾住友商事(株) 化学品部 合成樹脂・有機化学品課 経理
今井一雅 氏
〈講義を終えて〉今回、学生の皆様に対し、商社における直接メタノール型燃料電池(DMFC)に関するお話をさせていただきました。DMFCは燃料電池の中でも市場形成が目前となっており、また現在20世紀の化石燃料社会から21世紀の水素燃料社会へのパラダイム転換の中、同時に環境問題を考慮した点においても学生皆様の燃料電池への関心は大きく、この中で商社の果たす役割につきさまざまな議論をさせていただいたことはわれわれにとっても大きな収穫でした。
今井一雅


「水素社会」
住友商事(株) 機電事業開発本部 新規事業開発部 部長付
(兼)アキュメントリクス・ジャパン(株) 取締役
森 一晃 氏
〈講義を終えて〉小職は理系の学士、米国でMBAで修士ですので、米国と比較して、今回の修士および博士課程学生に対する印象は、まず、話を真剣に聞いているのでしょうが、反応が返ってこない。質問もほとんどない。その意味では、大学院以上の教育で「講義」を中心として「論議」がないという部分は、実社会での事例をケーススタディとして年間数百ケースこなし、「自分だったらどうするか」を考えさせる米国教育の方が即戦力につながる印象はありました。
森一晃


1月20日(木)
「燃料電池自動車用水素ステーションの開発」
岩谷産業(株) 産業ガス・溶剤本部 ガス技術部 副長
神山直彦 氏
〈講義を終えて〉皆様には大変熱心に講演に耳を傾けていただき、エネルギーと環境問題への意識の高さを感じました。講演後の質疑応答についても、質問が途切れることなく、その反応の多さに、講演させていただいたものとして非常に嬉しく感じました。最後は時間切れとなってしまいましたが、なぜ水素エネルギーなのか、なぜ当社が水素に力を入れているのか、もっと明確な説明ができればと反省するとともに、自分自身、その意味を再認識することができ、よい機会をいただき感謝しております。ありがとうございました。
神山直彦


「地球温暖化と排出権取引」
(株)三井物産戦略研究所 環境プロジェクトセンター長
一宮將人 氏
〈講義を終えて〉講義後の質疑応答では、学問的な質問のみならず、「何故商社が排出権ビジネスに乗り出すのか」、「(小員の所属する)シンクタンクが何故ビジネスに関与するのか」といった質問もあり、商社活動に関する受講者の興味の一端がうかがわれました。このたびの講座は日本の京都議定書目標達成のために海外ネットワークを活用し、CDM実施や排出量取引等で貢献していく環境関連での商社の機能と役割等について受講者に興味を持ってもらうよい契機となりました。
一宮將人


受講生の様子   法政大学市ヶ谷校舎
   


日本貿易会主催 環境講座を開催して
横浜国立大学大学院 環境情報学府 助教授 周佐喜和しゅうさよしかず
 本学府で、年1回、日本貿易会のご好意により環境講座を開催するようになってから、今回で3回目を数えます。今回も例年通り4名の講師の方から講義を賜りました。内容としては、過去2回分との重複を避けたこともあり、燃料電池関係のテーマにやや偏った観もありましたが、40名以上の参加者を集め、講師と参加者との間の質疑応答も予想以上に活発でした。関係者各位のご協力に、心から謝意を表します。
 毎年環境講座に出席して思うのですが、地球環境問題への取り組みの中で、商社が多岐にわたる活躍をしているという事実には、改めて驚かされました。かつて、日本の総合商社は、「ラーメンからミサイルまで」多岐な事業を扱うことで世界的にも知られていましたが、事業の多様性は時代を超えて受け継がれていることには、認識を新たにしました。同時に、現状の事業に決して満足せず、常に新規事業に貪欲に取り組む「企業家精神」が健在であることには、参加者も感銘を受けたのではないでしょうか。
 今回の講義では、これに加えて「何故日本の商社が環境ビジネスへの取り組みの上でイニシアティブをとっているのか」、という点の理解が深まったと思います。考えてみますと、今日の環境問題は、「地球環境問題」とも呼ばれるように広範囲で複雑な要因が絡んでいます。その解決のためには、数多くの専門知識や技術が要求され、どの企業や組織も単独では行えません。そこで、これら企業間・組織間を連結する主体として、商社の役割がクローズアップされてくるのです。それは、多様な業種・機能を手がけ、多くの企業や組織との関係を築いてきた日本の商社の経験が、貴重な貢献をもたらすということなのです。実際、今回の講義の事例には、どれも多数の関連企業・組織が絡んでいました。
 ただ、前回までの講義でもそうだったのですが、今回の講義に関しても、講義のメインの聴講者が大学院生であることを考えると、もう少し工夫の余地があることも感じました。大学の学部学生レベルであれば、日本の商社が社会的に見て良いことを積極的にやっているということをアピールする啓蒙活動だけでも、十分成果があると思います。しかし、大学院生は、「一応?」日本の最高学府で研究に従事している人たちです。ですから、もっと彼ら・彼女らと同じ目線で議論するという視線(教えてあげるという視線に加えて)も必要なのではないでしょうか。何故、環境がビジネスの対象になってきたのか?それは、果たして正しい方向なのか?環境ビジネスの成功要因は、従来の事業とはどこが同じで、どこが異なるのか?など、深いレベルの問題は必ずあると思います。このレベルで、「公式見解」から踏み出した、「本音の議論」を展開していただくことを、次回以降、期待しております。