大きく動き出したインド
“政治そして経済大国への道”

インド三菱商事社長

原 佑二

三菱商事ニューデリー駐在事務所長

吉野 宏

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1.インドは変わったか?

 インドはこの10年あまり年間5〜6%の安定した経済成長を遂げている。それを見て、「21世紀は中国とインドの時代」と言われインド市場に大きな期待はしてみたが、正直そんな大きな期待は禁物というのがこれまでのビジネスの結果ではなかったであろうか。

 2001年、米国エンロン社のダボール発電事業が挫折した。昨年5月、カシミールをめぐるパキスタンとの紛争が一触即発の危機にまで発展し、大半の在留邦人と多くの外国人が国外退去するに至った。核戦争が勃発かと騒がれもした。インドの国際的信用と政治的安定が厳しく問われた。

 最近、昔のインドを知る人たちから「インドは大きく変わった」という感想を聞かされる。それとは裏腹に、「少しも変わっていない! いまだに50年間モデルチェンジしない車が走っているではないか!」との反論もある。「いやいや遅々として変わっている。それがインド」と好意的に言う人もいる。

 首都デリーでさえ停電や断水が日常茶飯事で、いまだにインフラ整備の改善の遅れが目立つ今日ではあるが、こんな中でインドに住み、日々仕事をしているわれわれの中でさえ、最近、「インドが変わり出した、いよいよ動き出したようだ」との実感を持つ人たちが増えてきている。大国インドが、まだまだ多くの問題を抱えながらも大きく動き出していることをぜひ皆さまにお伝えしたいと思う。

2.政治・経済大国への道

 現在、インドは、各種の規制緩和、公営企業改革・民営化、関税の引き下げ、税制改革、労働法改正、各種補助金の削減と撤廃、外国直接投資の誘致、先進国レべルのインフラの構築等、政府も民間も痛みを伴う経済改革の途上にある。経済の自由化と市場経済原理の導入の道を選択し、動き出したのである。各種の規制緩和で経済を活性化し、外国直接投資を呼び込むことで経済発展させるという基本方針は国民に幅広く支持されている。カシミール問題の解決と経済発展の持続が政権の二大テーマである。

 昔から、政治大国として国際政治では存在感の大きいインドではあるが、悲しいかな経済面では存在感がこれまで希薄であった。そのインドが動き出したのである。その実例を見ていきたい。

(1)政治面

  • 今年、バジパイ首相は中国との関係の修復に注力した。中国を訪問し、貿易関係の拡大と国境紛争の平和的解決の話し合いで合意に達した。また、カシミール問題から敵対関係にあるパキスタンへの和平攻勢、対テロへの共闘を掲げ対米関係改善・強化にも必死に取り組んでいる。一方、インドネシアのバリで開かれたASEAN首脳会議でASEAN諸国との関係強化を図り、タイといち早くFTA協定を正式に締結するなどの経済外交を積極的に展開している。
IT産業の中心バンガロールで
IT産業の中心バンガロールで

(2)経済面等

  • 最近のインド経済の発展を支えているITソフト産業の輸出額は、90年代には毎年50%以上、2000年代に入っても20%以上の伸びで、ついに2002年度には約100億ドルに達し、外貨獲得のトップに躍り出た。

  • 外貨準備高は着実に増えて、今日、900億ドルを突破し1,000億ドルの大台に到達する勢いである。為替は、この10年間、一貫して対米ドルでルピー安であった。昨年5月、1ドル49ルピーを底にして現在45ルピーにまで上昇している。

  • 自動車の排ガス規制として、主要都市ではすでにEURO IIが導入されている。市民の足であるバスとオートリキシャの燃料はすべて天然ガスCNGに切り替えられている。2005年にはさらに厳しいEURO IIIが主要都市で実施される旨が公約されており、現在その準備が進められている。
    デリーの地下鉄 カシミールゲート駅にて
    デリーの地下鉄 カシミールゲート駅にて

  • デリー地下鉄事業が大方の予想を超えて、計画より3ヵ月も早くスタートし、昨年12月に一部の区間で運行が開始された。立派に大型インフラ事業を立ち上げたことで海外の投資家の見る目が変わってきた。一方、デリー市民はいち早くこの新たな乗り物を大歓迎し、大量輸送手段としての有効性が示されつつある。全線の営業運転開始は2005年10月であり、本件には日本政府より円借款が供与されている。

  • インドの航空業界は、93年に民間に開放された。新規参入したジェットエアウェイズが新しい機体、欧米の一流航空会社に匹敵する機内サービスそして定時運航でついに国内シェアの半分を押さえるに至った。

  • デリーやムンバイの飛行場へのアクセスロードが整備されつつあり、交通混雑も緩和されてきている。

  • 経済発展とともに増加するエネルギー需要に対応し、いよいよ2004年初めにLNGの輸入が開始される。さらに、インド東海岸でリライアンス財閥により国内需要の半分近くを賄える大ガス田が発見され、2006年をめざして商業化の動きが急ピッチで進んでいる。

  • インド経済のダイナミズムを物語るリライアンス財閥の発展ぶりからは、伸び盛りの勢いと自信にあふれた誇りが感じられる。この財閥の2002年度売り上げは137億米ドルと1兆円を優に超えて、純利益も8億6,400万米ドル。創業者である故デイルバイ・アンバーニの一代であっという間に、今や当国筆頭財閥にまで上りつめた。現在、積極的に事業の拡大を図っている。

  • インドの財閥と言えば、これまでタタとビルラが定番で、両者共に由緒ある名門である。しかるに、リライアンスの創業者のデイルバイ氏は、当国の古い体制の中でグローバルスタンダードを掲げて、一民間企業として巨額投資が必要な新興産業に果敢に挑戦し、大成功を収めた、いわば、インドの松下幸之助と言える存在である。

  • 四輪・二輪車産業の成長は堅調で、本田自動車のインド現地合弁二輪車会社であるヒーローホンダの生産台数は、一会社の生産台数として世界No.1となっている。この業界は今、関連部品メーカーと一緒に国内市場の拡大とインドからの輸出拡大を狙い、それぞれのグローバル戦略の中で将来を見据えた拡張計画を着々と進めている。

  • デリー市の隣のハリヤナ州グルガオン、そしてムンバイの郊外、ニューボンベイには、新しいインテリジェントビルが立ち並ぶ光景が出現、拡大・発展している

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