中欧の大国ポーランドの発展を願いつつ
  近藤 秀樹(こんどう ひでき)
豊田通商欧州会社(ポーランド支店)支店長
(兼)ポーランドスメルティングテクノロジー社 社長

1.中欧の大国ポーランド

筆者
1989年、広く知られているポーランド北部の港町グダンスクでのワレサ連帯議長(当時)の活動に端を発した一連の民主化運動により、隣国ドイツでのベルリンの壁崩壊、さらには周辺諸国までを巻き込んだ「体制変換」がなされてから、すでに20年近くが過ぎようとしています。
 その間、決してすべてが順風満帆というわけではなかったものの、2004年にはポーランドを含む、チェコ、ハンガリーといった主要中欧10ヵ国が新たに、無事にEU加盟を果たし(その後、さらに2ヵ国が新規加盟し、現在のEUは27ヵ国から構成)、その各国ともが、それなりに経済発展を成し遂げ、また、国民生活そのものも、着実に、より豊かなものへと変わりつつあります。そして国民のほとんどが、この体制の変換をポジティブに受け止めていることを実感しています。
 主要中欧7ヵ国の状況は、図1のとおりで、ポーランドは、その国土、人口ともに他に抜きん出ています。そのような意味で、ポーランドは「中欧の大国」と呼ぶにふさわしいのではないでしょうか。
 私が、7年の米国駐在(1994〜2001年)を終えた後、このポーランドに着任したのが2003年3月と、すでに5年近くになるわけですが、これまでに感じてきたこと、また、最新のポーランド事情等を、ここにご紹介したいと思います。

図1 ポーランドと他中欧諸国
ポーランドと他中欧諸国
(出所)人口、面積はウィーン比較経済研究所(2002年)、GDPは世界銀行(2004年)

(参考)EU15との比較
EU15との比較
(出所)人口、面積は外務省ホームページ、GDPはOECD (2002年)
2.「作業服を着た」商社マン

ポルスト社全景
ポルスト社全景
まずはじめに、私どもの仕事について、少しご紹介したいと思います。
 主要業務は、一般的な商社の輸出入中心といったものとは若干異なり、日系製造業の新規進出支援、および現地で困っている分野への各種サポート等になります。
 具体的には、進出検討のアドバイス、サポートに加え、製造設備等の調達と現地での据え付け、原材料や(産業廃棄物を含めた)スクラップ材の取り扱い、物流支援等々になります。
 また、少し変わったところでは、この中東欧の地では調達することの難しい自動車エンジン用アルミ合金(高性能な再生アルミ合金)を製造する会社(ポーランド スメルティング テクノロジー社)を直接に立ち上げて経営をしています。ちなみに、このアルミ合金は、溶けた状態(アルミ溶湯)で、そのままお客さまへ納入するので、再度溶解するためのコスト、および周辺環境への負荷の低減に大きく貢献しています。
 日本人駐在員(関連会社、技術支援先からの駐在員含め)5名、ポーランド人総勢200名で、いわゆる「作業服を着た」商社マンとして奮闘中の毎日です。

(1) 活況を呈す下シレジア地方
 ポーランドと聞いて、一般的に知られているのは、ショパン、アウシュビッツ強制収容所(ポーランド語ではオシュウェンチム)、アンジェイワイダ映画監督、都市としてはワルシャワ、クラコフあたりではないでしょうか?実は、そのいずれもが、ポーランドの東部に位置(関連)しています。
 それに対し、私ども含め多くの日系企業、特に自動車産業が、最近多く進出している地域は、ドイツとの国境に近い西南部地域になります。この辺り一帯は下シレジア地方と呼ばれ、ポーランド南東部に源を発し、その後、北東に流れる大河オーデル川の下流に位置しています。
 この地域は、EU(主にドイツ)、チェコ等に比べて労働力コストが優位であることから、日系をはじめ多くの西側企業が投資を盛んに行っています。また、この地方の中心都市であるブロツラフ市には、数多くの大学もあり、多くの若者が集まる町としても、ここ数年、大きく変ぼうしています。
 そのようなわけで、この地域は文化的にも、広い国土の中で、西欧的であり、東部地区とは依然、大きな違いがあります。仕事をする面においても、ここ数年で西欧との差(不便さ)はかなり解消されてきていると感じます。
 
(2) 製造業に適した国
少しずつ整備されつつある高速道路
少しずつ整備されつつある高速道路
ポーランド全体として見た場合、単一民族、単一宗教(90%強がカトリック)ということもあってか、大変まじめな国民気質であると感じます。また、広い国土に4,000万人近い人口、EU(隣国ドイツ)と長い国境で隣り合わせということもあり、製造業に適した国といえるのではないでしょうか。今後、その期待に沿うべく、道路を中心としたインフラの整備、および諸制度の改善がなされることが望まれます。
 
(3) 新会社(特に製造会社)立ち上げの苦労話
   製造業に適している、また、西欧との差が解消されてきていると申し上げたばかりですが、ポーランドは米国と同様、地方自治体に大きな権限があったため、ポーランド東部地方では、依然、多くの苦労があります。
  具体的には、ソフト面として、
各種規制:実に多くの規制が張り巡らされ、それを処理する役人の数、およびその非効率な業務には驚かされるばかりです。この分野では、周辺中欧諸国と比較しても、正直その遅れを認めざるを得ない状況です。
言葉の壁:ポーランド語は、大変難しいスラブ系言語の一つであり、われわれが簡単に覚えられるものではありません。英語のより一層の普及を期待します。
旧社会主義的考え方(発想):これは、ある年齢以上のポーランド人に特に感じることです。効率、カイゼン、CS(顧客満足)といった概念を持ってもらうことは、決して簡単ではありません。
 また、ハード面としては、何といってもインフラの不備です。特に道路事情は、まだまだです。EUからの資金による積極的な改修工事が望まれます。

 EU加盟後の多くの西側諸国の、ポーランド人に対する労働市場の開放(ちなみに英国では現在、100万人以上のポーランド人が働いているといわれています)、急激な失業率低下と、それに伴う賃金上昇等々、さまざまな権利意識を強く意識するようになったポーランド人のマネジメントには、今後より一層、デリケートな人事労務運営が求められるのではないでしょうか。

3.ポーランド最新事情
(1) 大変な親日国家・国民
 ポーランドがその歴史的背景もあり、親米であるのは周知のことですが、同様に大変な親日でもあります。ワレサ初代大統領が「第2の日本をめざせ」と言った言葉も有名ですが、戦時中のポーランド難民を日本が受け入れた事実等も、若い人たちにもきちんと伝えられていることには驚きます。
 当然ながら、当地に住む日本人には、その期待を裏切らない姿勢が求められています。
 
(2) 困ることの少なくなった日常生活
ブロツラフ郊外のショッピングセンター
ブロツラフ郊外のショッピングセンター
現在、ポーランドには約1,000人強の日本人が住んでいます(同様に、日本に住んでいるポーランド人も1,000人程度)。その約50%がワルシャワ地区、約25%が下シレジア地区、残りがその他主要都市周辺(クラコフ、ポズナン等)に居を構えています。
  そのような日本人駐在員にとって、西側資本(大手スーパー等)の急激な進出等により、ほとんどの物が、それほど苦労することなく入手できるようになってきています。また、治安の良さもあり、生活環境はかなり良くなってきていると思います。
  さらに、この年末からは、ポーランドもシェンゲン条約*に加盟し、国境でのパスポートチェックが完全になくなり、より一層、西側との行き来が便利なものになる計画です。
(*) シェンゲン条約を結んだ両国間の国境では、パスポートチェック等を全くなしでの移動が可能。ポーランドはEU加盟後の現在でも、空路、陸路ともに入国検査が必要
 
(3) 子女教育事情
 当然ながら学齢期のお子さんをお持ちの方々にとって、最大の関心事であると思いますが、残念ながらポーランドでの日本人学校はワルシャワに1校あるのみです。しかしながら、主だった都市には、インターナショナル校(アイビープログラムが一般的)があり、そこに子女を通わせているご家族が一般的です。
 
(4) 食事情
 ポーランド料理は、周辺の中欧の国々同様に、基本的には豚肉を使い、塩をやや多めにし、保存性を高めた料理が主になります。日本人にとっては、決して口に合わないわけではないのですが、毎日というわけにはいきません。アジア系レストラン(日本・韓国・中華料理等)での外食、または自炊にならざるを得ません。
  ちなみに、日本食材の入手は、近隣の西側主要都市(ベルリン、ウィーン)からの買い出し、ないしは、各種郵送による日本食材サービスを利用することになります。

ポーランド版味噌汁(?)ジュレックスープ
一見餃子風ピエロギ
ポーランド版味噌汁(?)ジュレックスープ   一見餃子風ピエロギ

(5) 自動車事情
 当地では、ほとんどすべての駐在員は、自分で運転をしています。一部に若者の荒っぽい運転は見受けられますが、一般的にはその国民性同様に、運転マナーについても問題ないレベルです。
 ただ、道路整備の方は、車の増加にいまだついていけていない状態で、特に冬場では雪道での運転に注意が必要です。
 
(6) ゴルフ等の娯楽事情
 ポーランドには10ヵ所ほどのゴルフ場があります。プレーフィーは200ズロチ程度(約8,000円)で、コースは新しいところが多く、整備もされており、結構混みあっています。
 また、映画館、ボーリング場等も、年々整備されつつあります。

ブロツラフ リネック(中央広場)
ブロツラフ リネック(中央広場)
5.最後に

 米国で言えば、一つの州と同じくらいの広さに、欧州では、それぞれに異なった言語、文化を持つ、異なった民族が隣り合わせに国土を構えています。そのようなポーランドは、よく知られているように、周辺列強諸国との間において、複雑、かつ不幸な歴史があります。今後も、急速な経済発展によるさまざまな問題(社会の二極分化等々)も、あり得るでしょう。
 この地に住む機会を得た1人として、ぜひとも、引き続きビジネス、物づくり分野での貢献を通し、ポーランド、およびこの中欧地域の発展に寄与していきたいと思っています。
 また、併せて、1人でも多くの方々にポーランドを含むこの中欧の地を訪れていただき、その姿に実際に触れていただきたいと願う次第です。

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