第1回 日本貿易会賞懸賞論文 入賞作品要旨
大賞
「コーポレート・フォーリン・ポリシー」の勧め
田村 暁彦氏(日本、38歳)
グローバリゼーションの時代は、「不確実性の時代」であり、予見可能性の向上のために、通商、投資、通貨、標準等多岐に亘る経済分野において国際秩序・規律が求められている。しかしながら、将来起こりうる問題に対処するための秩序・規律の構築には、イマジネーションに裏打ちされた予防的アプローチが必要であるところ、これは我が国が官民共に不得手として来た手法である。
グローバリゼーションは、また、国際秩序における構成員に変更をもたらした。伝統的な構成員である主権国家に加えてNGOや企業も主要構成員となった。官民の相違が相対化した。この結果、企業も国際秩序の構築・維持に責任を負う立場になった。国際秩序は公共財であり、その構築・維持行為は公益的性格を有する。国際社会における公益実現に対する産業界の取り組みは、欧米企業に一日の長がある。
以上の2点を踏まえ、本稿では、我が国企業が国際秩序、殊に国際経済秩序・規律の構築の主体的担い手となるべきことを唱導する。かかる考え方を「コーポレート・フォーリン・ポリシー」と呼ぶ。「コーポレート・フォーリン・ポリシー」は、企業による単なる公益実現行為ではなく、国際経済環境に秩序・規律の網を出来るだけ張り巡らすイニシアティブである。企業の自主規制による場合もあれば、政府間レジームに企業が実質的に影響を及ぼす場合もあり、企業の関与の形態や規律の強度はイシューにより様々であろう。
優秀賞
グローバリゼーションの新たな側面-企業の社会的責任(CSR)
ラウマ・スクルズマネ氏(ラトビア 23歳)
(仮訳・原文英語)
効率的な製造法で全世界の市場を席巻してきた日本企業は今、市場のグローバル化に対応する必要に迫られている。本稿は日本企業と、グローバリゼーションの新たな側面であるCSRに焦点を当てる。欧米では近年CSR論議が盛んだが、日本企業にとっては、CSRの枠組みで生じる問題への対応は目新しいことではない。日本企業はすでに長期にわたって、国内外の事業に関わる全てのステークホルダーに配慮することで企業価値を上げるというCSRの基本原則を実践してきた。一方の欧米企業は、ステークホルダー全般には関心を払わず、株主のための短期的な利益創出を重視する傾向がある。環境を意識した企業経営という点では、日本は世界のリーダー的存在になっている。しかし、CSRのなかでも「人材」に関連した問題はまだまだ見過ごされている感がある。多様な人々の活力を生かす強靭な社会と強靭な経済の両立というビジョンを実現するには、日本のCSR活動は人材に関わる問題への対応にもっと目を向けるべきである。
優秀賞
日本企業に求められてきている異文化マネジメント力
依田 慎氏(日本、47歳)
海外に進出している日本企業の駐在員の話を聞くと、現地の人が『ホウレンソウ(報告・連絡・相談)』をやらない、という話が出てくる。当たり前の事が出来ない様ではなかなか大事なことを任せられない、ともいう。しかし、考えてみれば日本人だって会社に入ってから『ホウレンソウ』を学んできたのではないのか。問題は、自分がそうやって“学んだ”ということ自体を忘れてしまって、海外の人も当然のごとく出来るものと思い込んでしまうことではないか。『ホウレンソウ』をやってほしいなら、それがどういうもので、何故必要で、どういう効果があるのか、それを伝える必要性に「気づく」必要があるのではないか。
ここであげた「気づく」ことのように、文化背景の違う人たちに、正しく意味を伝えたり、信頼に基づく人間関係を作っていける能力を『異文化マネジメント力』と名づけ、本文では今求められてきている主なスキルの内容と、それを身につけることの意味を論じた。本文では「気づく」以外に「説明する」、「我慢する」というスキルを説明し、これらの能力がこれからの日本人と日本企業にいかに大事な意味を持っているかを示した。グローバル時代の日本企業と日本人のあり方そのものを『異文化』をキーワードに論じた。
優秀賞
地方企業のグローバリゼーション-その具体的事例と方向性について-
稲澤 定氏 (日本、29歳)
世界的に企業のグローバリゼーションが進展して久しいが、日本の地方企業がその中で語られることは少なかった。しかしこれら企業自身や立地する地方の活性化を考える上でも、今後の積極的な取り組みが求められている。
そこでこれまで語られることの多かったモノやカネといったハード面ではなく、ヒトと情報という観点を基として、いかにして地方企業がグローバリゼーションを果たしうるかの方法論を当稿で述べる。具体的には産官学の連携による地方を挙げての取り組み、外資系企業の誘致、留学生の人材活用の3点が軸となる。
1点目については名古屋や九州の事例を取り上げながら、地方企業が人材や施設などのリソースを共有することについて触れる。2点目については誘致・被誘致双方の意識の変化を調査から取り上げながら、地方においても異なる言語や文化を持つ外資系企業を誘致しようとする機運が醸成されつつあることを述べる。3点目については採用のみならず、その前段階として相互理解などのメリットのあるインターンシップ制度の積極的な導入・活用について述べる。
これらの取り組みを通じて、地方企業が各地域経済において主体的な役割を担いうると考えられる。それはまた、日本の地方で多く見られる官依存の経済構造を変革させる突破口が形成される契機としても見ることができる。