第1回 日本貿易会賞懸賞論文 講評
第1回日本貿易会賞
懸賞論文審査委員会
委員長 中谷 巌
懸賞論文で競う「日本貿易会賞」が発足して、初めての論文募集ということで、当初、どのくらいの論文が集まるのか、皆目見当がつかなかったが、ふたを開けてみると、日本語による応募が86点、英語による論文が48点、合計134点と予想を上回る応募を頂いた。また、日本国籍の方の応募は76名、外国国籍の方の応募は55名/29ヵ国(国籍の記載なし3名)であったが、このような国際色豊かな懸賞論文の試みは我が国ではこれまでほとんどなかったのではあるまいか。
「グローバリゼーションと日本企業」というかなり広いテーマであったためか、実に様々な観点からの論文が集まり、審査委員の皆様には相当奮闘して頂いた。幸い、きわめて興味深い論文が多数あり、受賞作に関してはかなり票が割れたが、最終的には全員異議なく受賞作が決まった。
大賞に輝いた田村暁彦「『コーポレート・フォーリン・ポリシー』の勧め」は、グローバル化が進む中、国際的な取引ルールの設定を政府任せ、外国任せにせず、ビジネスの実態に通暁している日本企業がもっと積極的に関与すべきだという論点を説得的に展開している。文章力、論理構成、説得力、提言のタイミングの良さなど、どの点においても完成度が高く、大賞受賞となった。日本企業は誰かに決めて貰ったルールにどう対応するかという「対応能力」という点では優秀だが、どのような国際ルールが望ましいかという点に関してはほとんど発言してこなかったのは事実であり、この点に関して時宜を得た提言をして頂いた。今後の日本企業の対外活動にも参考になる提言であり、全員一致で大賞に決まった。
優秀賞は3点。まず、Lauma Skruzmane "Globalization's New Face -Corporate Social Responsibility"は23歳の在福岡のラトビア国籍の方による力作。若さにもかかわらず、日本企業の諸問題をよく勉強している。日本企業が国際社会でより高く評価されるには、積極的なCSR活動が不可欠だが、中でも、人材活用という点におけるイノベーションが重要という指摘は審査委員の多くの共感を得た。
依田 慎「日本企業に求められてきている異文化マネジメント力」は、読んでいてもっとも面白い論文という評価だった。それは、依田氏の海外における様々な体験を通して異文化コミュニケーションの難しさが印象深く語られているためだと思う。もう少し、論文としてのまとめ方に工夫があれば、大賞も不可能ではなかったと思われる作品であった。
稲澤 定「地方企業のグローバリゼーション-その具体的事例と方向性について-」は、グローバリゼーションとの関連では取り上げられることの少なかった地方企業の進むべき方向について提言をまとめたものである。官依存の地方経済がいかに主体性を取り戻し、地方活性化が達成されうるかを熱く語った優秀作である。
来年度以降も「日本貿易会賞」は継続されると理解しているが、この試みがグローバリゼーションが進む中、日本の産業界が抱える諸問題への理解を深め、解決策を模索する上でのヒントを提供してくれることを確信するものである。応募されたすべての方、審査委員の皆様に感謝の意を表して、審査委員長講評とさせて頂きます。