第2回 日本貿易会賞懸賞論文 入賞作品要旨
大賞
ジャパン・ブランドの可能性
エリック・マグナス・ハウアン氏(ノルウェー、25歳)
(仮訳・原文英語)
今から40、50年前は、「メイド・イン・ジャパン」というラベルから良い連想がされることはほとんどなかった。むしろ、悪い連想がされたと言ってもよいかもしれない。欧米の製品に比べ、日本の輸出品は安物で質も悪く、劣っていると考えられていた。そんな時代に、トヨタが世界屈指の自動車メーカーとなり、また日本企業が家電業界で革新を起こし、市場を支配するなどいったい誰が信じただろうか?今日では「メイド・イン・ジャパン」からは幾多の良い連想が生まれ、高品質、イノベーション、優れた価値のシンボルとなっている。本論文では、日本をここまでにしたものが何かを考察するとともに、今後の脅威と機会について論じることにより、「ジャパン・ブランド」の将来性について評価してみる。
日本社会は品質に対して独特のこだわりをもっている。これは、見事な公共交通システム、きちんと整然とした家庭生活、そしてこれほどの広がりは世界のどの場所でも見られない細部への意識など、日常生活のほぼすべての場面で見られる。こうした特質は日本企業とその輸出品に反映され、今日の日本ブランドの良いイメージを築くのに一役買っている。
「ジャパン・ブランド」のさらなる可能性は、そのユニークな文化に見いだすことができる。日本の文化、そしてポップカルチャーは、この数年で注目度を増している。「ジャパン・ブランド」の将来性を握るカギは、日本文化のもつ良いブランド・イメージを日本製品と結びつけ、有益なシナジー効果をもたらすことにある。
「ジャパン・ブランド」にとっての大きな脅威のひとつは、日本とアジアの隣国との間に広がる認識の隔たりである。日本は輸出依存国であり、繁栄の継続のためには外交関係が重要である。日中間の貿易関係が力強く発展を続ける中で、隣国に対して日本が自らの政治イメージを改善することはこれまで以上に重要である。
最後に、地球温暖化などの問題が重要性を増す中で、環境に優しい製品の市場が拡大する可能性は高い。環境技術の先駆者である日本は、こうした環境イノベーションを継続的に推し進めていくことにより、そのブランド・イメージと競争力を向上させる大きな可能性を秘めている。
優秀賞
守破離(しゅはり)
杉山 大輔氏(日本、26歳)
50年前に比べ、日本企業が海外進出することにより、世界との距離が縮まってきた。ボーダレスな国際社会で共存して生きていくには、それぞれの国で人々が個々に自分の国への帰属意識を持ち、明確な「国家アイデンティティ」を持つ必要がある。そのためには、「文化」=「ブランド」を国家レベルで考えることが、グローバル社会の中で他国との差別化を図り、強い競争力を作ることになると考える。ブランドの特殊性の「無形性」というものは、ブランドの価値が、人々の心の中にあるブランドに関する知識によって生み出されるものであることを示している。
日本の場合、その「心の中にあるブランドに関する知識」は、私が13年間のニューヨーク生活の中で始めた剣道がきっかけで知った「守破離」の思想に現れていると考える。「守破離」とは、簡単に言えば、「お手本を守り、その手本を完全にマスターする『守』の段階。その基本に基づき自分なりの創意工夫をして、自分としての確固たる技法やスキルが身につく『破』の段階。それを更に極める『離』の段階。」である。文化を形作る元である知識の伝播、即ち教育の原点は、日本ではこの「守」が中心になっている。過去から営々と引き継いできた「守」によって、基本が大切にされ、「心」や空気が大切にされた。日本が世界に誇るジャパン・ブランド、それは「守破離」の「守」だと私は考える。
優秀賞
ジャパン・ブランドの根底にあるもの-継承と変容の伝統とその将来-
菅野 良巳氏(日本、49歳)
「国名・ブランド」とは一企業・一商品を指すものではなく、その国の企業・国民性のイメージそのものである。各々のブランドの成功には企業の努力もあるが、それぞれの企業・製品が知らず知らずのうちに影響を受けた自国の文化・伝統と国民性が背景にあり、個々のブランドの積み重ねが「国名・ブランド」として結実したといえる。ジャパン・ブランドの背景には日本に古来より伝わるモノ作りに関する「匠」の伝承があり、極めて属人的な「職人の技」をも継承可能として受け継いで来た国民性がある。くわえて、むやみに伝統にしばられることなく、変容も良しとする考えが、更に付加価値を持った新しい伝統の創生へとつながっている。これらの作り手側の努力のみならず、販売と表裏一体となった総合的な「ブランド・イメージ」戦略こそが、ジャパン・ブランド成功の秘密であると考える。技術者がこだわる品質の良し悪しだけではなく、使い手・消費者が本当に必要な使いやすい物を作り、消費行動を精緻に分析した上で買いたくなる状況を作り、買い物がしやすい購買環境でもって販売を行い、顧客に満足してもらうという「思いやり」のようなものもジャパン・ブランドの特徴である。このジャパン・ブランドの根底にある国民性と日本の匠の伝統とを、国民共有の財産として後世に伝承する国家レベルでの体制作りが、今後のジャパン・ブランドの維持発展の為に必要不可欠であると考える。
優秀賞
日本ブランドの奥行き
佐藤 秀樹氏(日本、38歳)
国境を越えたM&Aが一般化し、長期的には企業利益が国家利益と同義でなくなりつつあるものの、現在も多くの企業は少なからずその出自とする国家への風評を共有する。日本に誕生し世界に展開する企業は、日本製品が一般的に有しているイメージ、日本企業への予見、政治や外交の影響を受ける中で、どのようなブランド資産を維持/強化し、自らのブランド戦略に活用し得るだろうか。
本稿では、まず現在のブランドを取り巻く環境を概観した後、日本ブランドの価値を増大させるブランド施策の主軸をなすと考えられるコミュニケーションのあり方について、コミュニケーションの要素であるSender、Receiver、Message、Mediaのそれぞれについて検討する。
インターネット上での個人の情報発信が増大し、ブランドへの風評の範囲と速度、不確実性が増大する中で、東アジアにおける反日ムードに代表されるように全体で見れば日本ブランドの基盤は脆弱な面も持つ。しかし各要素に分解して検討すれば、日本には逆風となる風評に対しても頑強なブランド資産構築の可能性を見出すことができるだろう。日本政府はブランド資産を要素毎に定量客観的に把握し公表する一方、日本企業は経営賞の強化拡大等による企業レベルの価値観の発信や個人レベルでの「伝道者」の育成により、日本ブランドの「奥行き」を設計し構築すべきである。