日本貿易会賞懸賞論文 Awards JFTC Essay Competition

第2回 日本貿易会賞懸賞論文 講評

第2回日本貿易会賞
懸賞論文審査委員会
委員長 中谷 巌

昨年に続いて今年度の懸賞論文にも118点もの多数の応募が寄せられた。特徴的なのはそのうち68点が外国人による投稿(ほとんどが英語による投稿)であった。それも特定の国に偏ったものではなく、ノルウェー、ドイツ、フランス、ポーランド、スペイン、スロバキア、米国、カナダ、豪州、ニュージーランド、ブラジル、メキシコ、ベネズエラ、ホンジュラス、イラン、フィリピン、パキスタン、インドネシア、マレーシア、ベトナム、インド、韓国、中国、ナイジェリア、ケニア、ウガンダ、ガーナなど、まさに世界五大陸から論文が寄せられたのである。このような国際色豊かな懸賞論文は、私の知りうる限りにおいては、日本では他に例をみない。本当に嬉しいことである。このようなグローバルな広がりを持った応募者を世界中から集めることができたのは、審査委員の大変な努力の賜である。審査委員長としては深く感謝申し上げたい。

テーマは「ジャパン・ブランドの可能性」である。日本という国はどのようなイメージで見られているのか、そのブランド価値はどこにあるのか、それは将来どのように創られていくべきなのか。このような論点について、熱い議論が沸騰した。日本人の繊細さ、高品質なモノづくりへの高い評価がある反面、少子高齢化が進行する中でのイノベーション能力、対中国政策、日本社会の閉鎖的体質など、危惧の念を示す論文も多かった。

そんな中で大賞を射止めたのは 

Erik Magnus HAUAN :
"The Potential of Brand Japan "

であった。彼はデンマーク在住の25歳の大学院生でノルウェー人。彼は日本での生活体験を通じて感じ得た文化性の高い日本ブランドの素晴らしさに言及しつつ、今後の日本が国家としてより高度のブランドを獲得するには、第1に、中国をはじめとする近隣諸国との関係を改善すること、第2に高度の環境技術を持つ日本が地球温暖化などの課題にもっと積極的に取り組むことの2点を挙げた。審査員一同がこの作品を大賞に推した主たる理由は本論文の「バランスの良さ」であった。著者の人柄が自然に伝わってくる素直な文章、明快な論理展開、そして提言の適切さが見事に調和しており、論文の完成度を高めている。

優秀賞は次の3点である。

杉山大輔:
「守破離(しゅはり)」
菅野良巳:
「ジャパン・ブランドの根底にあるもの-継承と変容の伝統とその将来-」
佐藤秀樹:
「日本ブランドの奥行き」

まず、杉山大輔氏の「守破離」は、ニューヨークでの生活体験を基に、剣道で使われる「守破離」の精神に日本ブランドの根元を見いだそうとするきわめて意欲 的な作品で、著者の強い想いが審査員に強い印象を与えた。菅野良巳氏の「ジャパン・ブランドの根底にあるもの-継承と変容の伝統とその将来-」は、日本ブランドの根底にある日本の文化・伝統・匠の精神を磨く国家レベルでの体制づくりを説得的に提唱した。佐藤秀樹氏の「日本ブランドの奥行き」は、日本ブランドの価値を世界に伝達していくためには、日本人のコミュニケーション能力を強化すべきだというユニークな提言をした力作である。いずれも甲乙つけがたい個性的な論文であった。