第3回 日本貿易会賞懸賞論文 入賞作品要旨
優秀賞
トリプルウィンのグローバル化と日本企業
ヘング・ディナ氏(カンボジア、24歳)
(仮訳・原文英語)
金融のグローバル化は、グローバル経済を再構築する中で重要なトレンドの1つになっている。一方で各国は、これまで以上に相互依存を深め、競争を激化させてきた。資本フローの急増、開発途上国の興隆、グローバルな競争激化が起こる中、日本企業はどのように競争し、成功を収めるべきなのか。
日本企業が次のステージで成功を勝ち取るための極めて重要な要因は、金融のグローバル化に伴う日本の技術力と人材のシナジー効果であると考える。このシナジー効果には次の3点が必要である。第1に、日本は国際資本フローを活用する必要がある。資本の獲得は日本が優位な地位を確保するのに資するものである。第2に、日本企業は常に技術、金融、人材面の競争力とレバレッジ能力を強化することにより、今後も「雁行型経済発展をリード」し続けなければならない。第3に、「雁行型経済発展をリード」することにより、日本企業はブランドイメージを強化し、新興国の資源とのコラボレーションと活用とを通じて自社製品に対する需要を高めることができるのである。
日本経済は輸出主導型である。日本企業にとっての脅威は外国企業からもたらされるばかりでなく、日本とアジア諸国との経済力の巨大な格差からももたらされる。持続的な成長、更なる成長を下支えするには、日本は格差の解消に向けて支援しなければならない。この点については、日本企業はアジアにおける安定と貧困削減に貢献することにより需要の創出とブランドイメージの刷新を同時に成し遂げることができると確信する。日本の人口は減少に転じているだけに、開発途上国における低賃金労働の有効利用と優秀な人材の獲得は、労働力問題の解決とグローバル経済における日本企業の事業、シェア、ブランドの拡大に寄与する。
日本の技術とグローバル資本を結合させることで、参加する利害関係者にトリプルウィンの成果をもたらし得ると確信する。この結合は日本企業や資本家にメリットをもたらすばかりでなく、投資受入国の貧困脱却を支援することにもなる。つまり、この結合を実現することは日本企業の利益になるのである。
優秀賞
ガンダム経済学-グローバル資本主義の挑戦に応えるための日本株式会社の変身
ピン・チュエン・ホァン氏(シンガポール、22歳)
(仮訳・原文英語)
2007年8月、日本でマイケル・ベイ監督の映画「トランスフォーマー」が公開され、第1週目の興行収入が6億3,130万円となり、国内興行成績のトップに立ったことは驚くべきことではない。ベイ監督作品の発想の基となった「トランスフォーマー」は1980年代のテレビ・アニメシリーズに始まった。こうしたアニメシリーズは日本の玩具メーカーのタカラによるデザインをベースに東映アニメーションによって製作されたばかりでなく、百獣王ゴライオン、超時空要塞マクロス、機動戦士ガンダムなどの巨大変身ロボットという古典的な日本アニメのジャンルにも影響を受けていた。これが、日本経済が戦後、世界の経済大国へと変貌していく成功物語の比喩だとしたら、トランスフォーマーは日本文化の創造力の一端であるばかりでなく、日本株式会社の歴史であり、そしておそらくその未来でもあるともいえる。
「失われた10年」が過去となるのにともない、日本株式会社はグローバル資本主義のダイナミックな挑戦に応えるべく新たな戦略的変貌を遂げる時期に来ている。本稿では、資産バブルの崩壊とその後の金融危機が日本の政治経済や諸制度に抜本的な制度変革をもたらし、国際資本市場と世界経済の動向への感度を高めたことを指摘する。こうした挑戦は日本企業に対し、外国人や女性を活用する人事管理策への調整、より実力主義的で柔軟な企業文化の採用、コーポレートガバナンスへの取り組みの変化により、モノ、カネ、人的資本の効率的配分を成しうることを求めている。
優秀賞
グローバル資本主義への対応-今日における日本企業の最優先課題
セフォラ・ボルシー氏(フランス、22歳)
(仮訳・原文英語)
第2次世界大戦により壊滅的打撃を受けた後、日本は目覚しい経済復興を遂げたが、国家の再建とその成長率は目を見張るものであった。その後、この不死鳥のような回復は1997年に始まったアジア危機におけるデフレにより深刻な影響を受けた。このような厳しい時期は1929年の世界恐慌さえ思い起こさせるものであり、とりわけ、好調な日本経済に打撃を与えた。
今日、日本はグローバル化に直面せざるを得ない状況にあるが、日本企業がこのような複雑な経済環境に対処できるかどうか危ぶまれている。本稿では、現在の資本主義制度に適応するために日本企業が検討しうる取り組みを提起することを意図したが、もちろん、企業レベルで実行できる様々な方策を取り上げている。
グローバル化によりかつてほどの影響ではなくなっているものの、一国の経済の方向性は今でもその国の政治力により決定される。このため、政府や諸規制が果たし得る戦略的役割についても若干触れている。実際、日本では国家が経済主体に対し、大きな力を持っていることが歴史的に証明されている。日本は外国との競争を常に監視したがり、自国市場を過度に保護する傾向がある。
ここではまず、日本の経営スタイルを理解する上で疑いなく役立つものである日本の文化と、グローバル資本主義の諸原則との整合性について分析した。
次に、現在の経済状況においては、日本にとって、近隣諸国はもとより他の大陸諸国とも質の高い関係とパートナーシップを構築することがいかに重要であるかを明らかにした。海外で信頼され、良好なイメージを示すことがビジネスを行う上で極めて重要であることは明らかである。
結論として、日本は自らにとっての資本主義の定義を再考し、グローバル市場を捉えるには本当に米国モデルしかないのかをあらためて思考すべきではないかと考えた。
優秀賞
日本企業への提言-緊張感のある企業への変革を
神谷 渉氏(日本、33歳)
日本企業を取り巻く環境は、グローバル資本主義化の流れとともに、大きく変化した。日本企業における株主重視の姿勢は大きく高まることとなり、旧態依然とした潜在価値を引き出せていないような日本企業は、外国のファンドに買収を仕掛けられることも普通のこととなった。その一方で、グローバル資本主義への適応によって日本企業が海外資本の食い物になってしまうのではないか、という懸念も依然として根強い。近年、グローバル資本主義から日本企業を「守る」という姿勢が企業及び政府の中に見られるのもこのような懸念を反映したものであるといえよう。本論では、このような環境の中で日本企業としてどのように対応していけばよいのか、日本企業の抱える課題を明確化した上で提言を行う。
まず、グローバル資本主義の流れの中で日本企業が抱える大きな課題として、これまでステークホルダーへの「甘え」によって成り立っていたビジネスルールが立ち行かなくなっている点が指摘できる。具体的に本論では、競合・従業員・取引先との関係を取り上げ、日本企業がこれまで「甘え」によって成り立っていた部分が大きいことを示す。
さらに、日本企業に対する提言として、前述のような課題を踏まえ、(1)「甘え」の是正、(2)内向きの発想からの転換、(3)長期的視点の確保という3つを実践する「緊張感のある企業への変革」を提案する。
まず、1点目の“「甘え」の是正”については、「公正」という概念を軸に説明責任の意識の徹底や内部統制の考え方を活用した社内の意識改革が必要である。また、2点目の“内向きの発想”からの転換については、日本企業を「守る」という姿勢を取り続けるのではなく、むしろ積極的にグローバル資本主義の流れに適応し、活用をしていく視点を持つべきである。最後の“長期的視点の確保”については、グローバル資本主義の流れに適応することで、やや軽視されがちな長期的な視点の確保の必要性と、その方策として「人材の長期的な雇用・育成」と「現場への権限委譲」の2つを提案する。