第4回 日本貿易会賞懸賞論文 入賞作品要旨
優秀賞
環境リーダーとしての日本ブランドの強化:企業の役割
カミラ・パイチャラ(ポーランド、24歳)
(仮訳・原文英語)
私が本稿で述べようとしているのは、日本企業が環境ビジネスの最先端にいるということである。これはさまざまな分野で明らかになっている。重要なのは、日本はこれまで培ってきた専門知識や技術的解決力のおかげで、自信を持って環境リーダーとしての役割を担えるということである。日本企業が環境保護の面でこれほど進歩したのは、いくつかの要因による。
第1に、1960年代の急成長にともなって環境面で複雑な問題が生じた。原油市場のひっ迫と相まって、日本にはより効率的な解決方法となる施策を導入するインセンティブが働いた。このプラスのトレンドは、研究開発への多大な投資により後押しされ、日本の民間部門はその促進に大きく貢献した。第2に、21世紀になって、環境変化の規模だけでなくその前例のない質によって、人類がおびやかされている。地球規模でのアプローチでなければ、地球規模での生態系の変化に対応することはできない。企業のレベルでは、新たな環境負荷の源とも考えられる成長著しい東アジアにあって、日本はとりわけ積極的な取り組みを行ってきた。最後にとりわけ、日本企業には、文化に由来する「ソフト」力が備わっており、それが長期的な思考と行動をもたらしている。地球を保護するためには、数十年先をにらんだ計画が必要とされるため、これは極めて重要な資質である。
日本企業が、21世紀において特徴的な制約要因である環境問題に立ち向かう用意ができていることは明らかであるが、こうした制約をビジネスチャンスに転じることがカギであり、日本の起業家が収益性と地球環境保護との絶妙なバランスを確立しつつある事例は、豊富に見られる。自動車部門とリサイクル活動の両分野は、地球環境保護に向け、大企業と中小企業の双方に取り組みが見られる。消費者が「環境に優しい」製品を求め、環境への配慮が行き届いた企業を評価するという環境市場の拡大がなければ、こうした展開はあり得なかった。環境市場における競争とは、環境に優しい製品が価格的に利用しやすくなるということである。例えばハイブリッドカーの例がある。
最後に忘れてはならないのは、このような進歩は、リサイクルに努め、環境に優しい製品を選ぼうとする一般の人々の取り組みがあったからこそ可能になったということである。こうした姿勢は、日本の国内外で環境意識を高める貴重な「促進剤」であり、地球規模での持続可能な発展を促すものである。
優秀賞
日本企業の分析:持続可能な成長に向けて
王駿耀(中国、30歳)
(仮訳・原文英語)
地球規模の環境問題および持続可能な成長は長く全世界の課題であり、G8サミットや国際連合の会合でも重要な議題となってきた。世界銀行グループ等の機関は、国家間の協力や、公的部門と民間部門との協力が重要であることを明らかにした。世界は持続可能な成長という目標に向けて、多額の資金を費やし、徹底した取り組みを行いながら、地球規模での環境問題に対応しようと苦慮している。そのような国の中で日本は、京都会議の開催に見られるように、先頭に立って地球規模で環境意識を高めている国のひとつである。日本の経験は、技術や政府の政策、民間の積極的な活動によって、いかに資源の効率を高め、世界が直面する資源の制約を克服できるかを示している。日本企業は、技術の導入や技術能力開発の追求を通じて、環境問題に大胆に取り組んできた。環境面での目標を達成しただけでなく、環境技術という新しい市場にも進出したのである。トップダウンによるマネジメント、事業戦略への環境ビジョンの取り込み、人材や会計システムの活用など日本固有の最先端の管理システムと合わせて、日本企業には途上国、先進国のいずれもが手本とし、活かせる部分が数多くある。
地球環境問題への取り組みで、日本は今後も世界の一歩先を行くであろう。あらゆる状況の下で効果を発揮する、万能な、唯一の手段があるとは考えられない。しかし、日本型ビジネスは、他の国への適用可能性を排除するものではない。
地球環境は悪化しているものの、今が最悪の時というわけではない。むしろ最良の時かもしれない。楽観的な見方をすれば、企業家や技術者は、環境を改善しながら、人々の生活を飛躍的に向上させようとしている。最も人気が高い英国の小説家の一人であるチャールズ・ディケンズは、『二都物語』の中で、「それはおよそ善き時代でもあれば、およそ悪しき時代でもあった」と述べている。これはまさに、現在の世界の状況を物語っているのではないだろうか。
優秀賞
日本の環境・エネルギー・サービス-ダークホース
アナーニャ・ムコパディヤ(インド、41歳)
(仮訳・原文英語)
途上国の人口急増や経済活動の拡大により、持続可能な発展と合わせて天然資源、エネルギー、環境の保全が必要になっている。環境規制の圧力が高まる中、途上国は環境・エネルギー技術の分野におけるインフラ開発に注力している。しかし、途上国の大部分はこうしたインフラプロジェクトを独力で推進する技術力、マネジメント力を持たず、場合によっては財力もないことから、外国の支援を望んでいる。日本は、環境・エネルギー技術の事業分野で、とりわけ設備部門において、非常に進んでおり、国際競争力も高い。インフラプロジェクトに注力する途上国が何よりも必要としているのは、エンジニアリングコンサルティング、設計、開発、法務、検査など「サービス」分野における支援である。プロジェクトをサポートする設備調達は、その後である。残念ながら日本は、環境技術ビジネスのサービス分野において国際競争力があまりない。現在、サービス分野はこの部門の収益の半分を占め、急拡大を続けている。日本が、持続可能な発展という目標を達成するために、途上国と協力していくにあたって、設備分野とともにサービス分野における競争力の確立が必要である。本稿では、環境サービスについて、日本企業が直面するその取引上の課題を論じたうえで、それらの困難を克服するために日本企業が取るべき対策を提言する。
優秀賞
「微分型経営」から「積分型経営」へ-3つのパラダイム転換-
安部直樹(日本、25歳)
資源価格の高騰は需給逼迫という事実だけではなく、将来に対して2つの示唆を与えてくれる。一つ目は、自然資本(資源)が人工資本(インフラ、機械設備など)や金融資本(資金)よりも重要性を増していくこと、二つ目は、資源価格の高騰が供給ショックではなく、需要サイドの要因によるものであるため、しばらく継続するということである。
これら2つの示唆から導かれる日本企業のとるべき戦略は、(1)いかに資源を確保し、資源小国から脱するか、(2)短期的発想ではなく、長期的な発想で考える、の2点である。(1)に関しては、資源をその性質から1次エネルギー、金属、穀物の3つに分け、それぞれについてパラダイム転換を提案する。キーワードは「ストックからフローへ」、「地下から地上へ」、「使うから造るへ」の3つである。このキーワードに基づけば、日本は資源小国であることを宿命として受け入れる必要はなく、資源が重要な位置を占める資源時代に適応することが可能になる。(2)に関して、キーワードは「微分型経営から積分型経営へ」である。日本企業は資源価格の更なる上昇を見越して、長期的な視野を持ち、単年での収益最大化ではなく、数十年単位での収益最大化を目指すべきなのである。
以上をまとめると、日本企業は3つのパラダイム転換に沿って、長期的な視点での経営を行うべきである。さらに、こうした日本の新たなビジネスモデルを世界の太宗を占める非資源国へと広げることができれば、日本企業の商機になると同時に、地球規模での持続可能な成長が可能になるのではないだろうか。
審査委員長特別賞
地球と経済のための日本の環境技術
シェレン・ハーリム(インドネシア、19歳)
(仮訳・原文英語)
近年、自然保護の必要性は、単なる予測を超えて世界的な課題となっている。環境被害は(中国、米国など)多くの国々に何十億ドルもの損失をもたらしている。この数字は年々急増しているため、もはや見過ごすことはできない。徐々にではあるが確実に、世界中の指導者やエコノミストは環境上の影響を考慮しはじめている。世界は明らかに革命を経験しつつある。今回、それは環境問題である。
環境と経済成長のどちらを優先すべきかという議論が常にある。この問いかけは、両者が全く別ものだということを前提としているが、その考え方は果たして正しいのだろうか。本稿では、環境保護と経済成長が実は密接に関連しあっていることを明らかにしたい。なぜなら、一方をおろそかにすれば他方が負の影響を受けるからだ。
今、世界に必要なのは、持続可能性という価値観を取り入れたビジネスモデルである。そうした要素を取り込むだけでなく、これを収益機会にも転じる枠組みである。環境に優しい技術(グリーン技術)を通じて、日本は21世紀の市場をリードする競争優位性を獲得している。
本稿ではまず、環境条件がいかに経済成長の中で決定的役割を果たすか、それが将来的にいかに新しい経済のあり方をもたらすかを説明する。さらに、環境技術や利益を出す事業哲学を通じて、日本はこれを大きなチャンスととらえることができるし、そうとらえなければならないことを論じる。環境技術の市場は主に途上国、とりわけ中国になるであろう。これら途上国は現在、急激に成長しており、最大のエネルギー利用国、そして汚染物質排出国にもなるであろう。したがって日本は、投資、資金提供(とりわけ研究開発、そしてその実践者)、技術移転などさまざまな方法で、途上国とのパートナーシップを強化することがきわめて重要である。本稿ではまた、意識の啓発、専門性の最適活用など、日本がその立場を強固なものにするうえでとるべきアプローチについて検討したい。最後に、「持続可能な成長、環境、生活」という日本の最大の目標にあらためて言及し、全体をまとめ、結論を導きたい。