第5回 日本貿易会賞懸賞論文 講評
第5回日本貿易会賞
懸賞論文審査委員会
委員長 中谷 巌
第5回日本貿易会賞懸賞論文は、例年通り、世界各国から146点の応募があり、厳正な審査の結果、大賞1点、および優秀賞2点を選出した。例年通り、英語による論文が全体の64パーセントを占める国際色豊かなコンテストとなったが、それに加えて、回を重ねるにつれて論文の水準が上がってきたという印象を多くの審査委員が共有することができた。これは審査委員会としては大いに歓迎すべきことであり、もしこのコンテストが継続されるとした場合、今後もこの傾向が続くことを大いに期待するものである。
今回の懸賞論文テーマは「グローバル資本主義をどう修正すべきか~日本の役割と使命~」であったが、論文の中身としては、世界経済危機の原因分析を通じてアメリカ主導の金融資本主義への懸念、市場機能を支えるべき倫理観の衰退を指摘するものが多かった。また、日本がもともと長期的な信頼関係をベースに経済社会を築いてきたという実績は貴重なものであり、その点、アングロサクソン型のグローバル資本主義を補完することがきるのではないかという提言も数多く寄せられた。それぞれ、非常に興味深い議論が展開されており、審査委員会としてはかなりの時間をかけて入選作品を選ばせていただいた。
「大賞」に選ばれた論文の著者と表題は以下のとおりである。
三浦 清志:
「グローバル資本主義の修正と日本の使命-経済危機がもたらす二つの危機の克服に向けて」
本論文は現在の経済危機の課題として、「グローバル化によって進行した社会の安心感の喪失」と、「新興国への経済シフトや国家資本主義の台頭という新たな問題」の2点を挙げ、この課題をどう克服するかを考察している。日本の役割については、「日本人自身が必要と考える改革を継続して実施し、世界に魅力ある資本主義のひな型を示すこと」だと地道ながら説得力のある主張を展開しており、審査委員の共感を呼んだところである。
「優秀賞」に選ばれたのは以下の2点である。
Michal Olewnik:
"Restoring Stakeholder Trust - Lessons from Japan’s Consensus Capitalism"
茂木 創:
「グローバル資本主義への処方箋 -経済騎士道は日本より甦るか」
Michal Olewnik氏は、世界の資本主義が信頼を取り戻すには利他主義的な側面、長期的なコミットメントを重視する側面など、日本型の資本主義の経験が役立つとしている。氏はポーランドからの留学生であるが、日本についての知識も豊富であり、知的水準の高い習作として優秀賞に輝いた。
茂木創氏の論文は、グローバル資本主義を修正するための処方箋として、A.マーシャルの「経済騎士道」や渋沢栄一の「士魂商才」などにみられる公共的精神の重要性を指摘し、その可能性を検討している。「制度化された経済学」ではなく、各経済主体の意識改革こそグローバル資本主義修復のカギとなるという主張は興味深い。