日本貿易会賞懸賞論文 Awards JFTC Essay Competition

第6回 日本貿易会賞懸賞論文 講評

第6回日本貿易会賞
懸賞論文審査委員会
委員長 中谷 巌

第6回日本貿易会賞懸賞論文は、世界各国から過去最多数の応募があった。日本を除けば、インドからの応募が最多であったこと、20歳代の応募が最も多かったことなどが特徴である。厳正な審査の結果、下記の通り、大賞1点、優秀賞3点、さらに、審査委員長特別賞1点を選出した。

大変喜ばしいことに、回を重ねるにつれて論文の水準が明らかに上がってきており、そのため、入賞作品の選定には非常に苦労した。審査委員の方々のご尽力を多としたい。今年度の懸賞論文のテーマは「日本再立国論 ~縮小ニッポン脱出の処方箋とは~」であったが、このような大きな構想力を求めるテーマであったにもかかわらず、大賞受賞者が34歳、その他受賞者は22歳から31歳に分布しており、例年に比べて大きく若返ったことは大変喜ばしい。

応募作品のほとんどは、日本という国の再認識から始まり、その長所と欠点を歴史的視点を交えて分析しながら、現代日本が陥っている苦境を脱する方法について、多岐にわたる有益な提言を展開していた。応募作品のすべてが実に興味深い論点を含んであり、審査委員会としてはかなりの時間をかけて入念な読み込みと討議を重ねたうえで入選作品を選ばせていただいた。

「大賞」に選ばれた論文の著者と表題は以下のとおりである。

大庭 弘継:
「世界を変えて、日本を変える:アントレプレナー国家を目指して」

この作品が大賞に選ばれた最大の理由は、大庭氏の、戦後日本が直面している根本的な問題に対する分析の確かさにある。すなわち、戦後日本が国際社会において常に世界の中心(ニューヨーク)への受動的対応に終始したため、現代日本が「自立の喪失」に陥っているということを大庭氏は的確に指摘した。この点について、審査員から高い評価を得た。さらには、それを克服する具体例として、世界60億の人間がかかわるBOPビジネスに日本が国家として主体的に取り組んでいくべきことを提言した。現代日本の「辺境思想」が抱える本質的な問題を見事に抽出し、それに対する具体的な解決策を提示することに成功したことは高く評価できる。

「優秀賞」に選ばれたのは以下の3点である。いずれも傾聴に値する貴重な提言が展開されている。

Samuel Guiberteau:
“Reconstruction of Japan: prescription to transcend a downsized Japan”
Yu Noda:
“A smaller, but happier country with increased mobility”
Phetkeo Poumanyvong:
“Internal Reforms as a Prescription for the Revival and Reconstruction of Japan”

Samuel Guiberteau氏は、悲観的なムードに入り込んでいる日本が立ち直るには、日本が本来持っている優れた革新能力や文化的遺産を利用しつつ、教育改革、経営改革、政治改革などに取り組むべきことを提言した。
Yu Noda氏の論文は、日本が「小さくても幸せを感じられる国」を明確な国家ビジョンとして掲げるべきこと、さらにそのような国づくりの方向性について、国民のmobilityを高める必要があるなど、貴重な提言をしている。
Phetkeo Poumanyvong氏は、明治維新や戦後の期間、未曽有の危機を見事に乗り切った日本の改革能力の高さを再評価し、中でも、現代日本では少子化への歯止めをかけること、女性の活用を強く推進すべきことにその改革能力を活かすべきことを提言している。

なお、今回は特別賞として「審査委員長特別賞」を設けることとした。これは数ある応募作品の中から、審査委員長が特に推薦し、審査委員会の承諾を得て特別賞として顕彰することに決したものである。

Ramesh Krishnan:
“Reconstruction of Japan: prescription to transcend a downsized Japan”

この作品の魅力は、著者が22歳と非常に若いにもかかわらず、その圧倒的な文章力と問題点を指摘する際の「目線の高さ」にある。近代化を遂げる過程で、日本人が固有の「日本的価値」を喪失してしまったことが問題の根源にあるとして、「伝統の見直し」の必要性を説得的に展開している。

以上が入賞作品の紹介であるが、いずれにしても、このような国際性豊かな懸賞論文コンテストが日本貿易会によって長く継続されてきたことを委員長として高く評価するものである。