日本貿易会賞懸賞論文 Awards JFTC Essay Competition

第8回 日本貿易会賞懸賞論文 入賞作品要旨

大賞

"人口減少社会・日本への処方箋"英国型モデルと新しい日本の遺産の創出

マイケル・サリバン氏(英国、30歳)
(仮訳・原文英語)

政治の強いリーダーシップの欠如と相俟って、日本の国民性は、常に人口減少社会・日本への処方箋における制約である。事実、これらの課題は、長年にわたる経済停滞や改革への抵抗の要因である。しかし私たちは、中東での「アラブの春」やアメリカでオバマ大統領が選出されるなど、変化へのメッセージがもたらす力を、世界の至るところで目撃している。今年は英国においてもその変化のメッセージが見られ、ロンドン・オリンピックのプラットフォームに設けられたそのメッセージは、ひとつの遺産としての概念と同義となった。オリンピックは開催国に恩恵を与えるだけのものではなく、来るべき次の新しい世代を鼓舞することにあり、永遠に変化に対応することが世界に示された。

日本が人口減少と低出生率への対策に取り組む上で、日本が取りうる処方箋はある。すなわち、英国を1つのモデルとして活用することで、雇用、児童手当、移民、教育分野における 鍵となる考え方を 把握することができる。これらの政策は、数年間で純移民流入数の増加とともに、英国の出生率を回復させ、人口の持続的な増加にも寄与した。

英国と全く同じ政策を日本に当てはめることは出来ないが、同様の成果を生み出す上で、そのアイデアを移植することは可能である。諸法律の改正とともに、雇用や移民政策の改善や教育改革を含めて、国民性をも生まれ変わらせるには、特別な行動を開始する必要がある。言い換えれば、日本は、その国民と将来世代にとっての新しい国作りのため、自国特有の「遺産」の創出を始めなければならない。日本にとっての新しい遺産の創出、すなわち変化を求める声は、社会に大きな影響を与え、改革を進めるための能力、意欲をもたらすものである。母親たちを労働力として呼び戻すためには性別の社会的役割を見直す必要があり、移民政策を緩和し、新しい国際化のブランドを確立することが必要である。世界が「日本化」する時であり、同時に、新しい日本は、明日の子供たちにとっての「遺産」を通じて創出されるものである。

優秀賞

人口減少社会・日本への処方箋 - 包括的で幸福な日本に向けて

カドリ・メツパル氏(エストニア、27歳)
(仮訳・原文英語)

日本は、豊かな文化財とイノベーション産業に恵まれ、高い生活水準を誇る。しかし、その未来は、少子・高齢化により明るいとは言えず、長期的には日本にとってのリスクである。本稿では、この下向きの方向性を転換させるための可能性について提言する。

はじめに、日本は既存の人口の潜在性をもっと活用する必要がある。一方において、社会における女性の役割を変え、人口減少の傾向を止めるようにする必要がある。これには人口増とともに、女性の労働市場への参加が必要である。現在の問題は、女性たちがキャリアを維持するため、家族をもつことを先延ばしにすることである。キャリアを維持することは、子供を持つと難しくなる。それは、仕事を見つけることや柔軟な就労時間を確保することの障害になるためである。それゆえ、女性が子供を持った後にも既存のポジションが保障されることで、女性たちは、キャリアの維持と子供を生むことの両立を図ることが出来るであろう。

その一方で、若年層やシニア層の雇用の安定についても改善を図る必要がある。これは、若年者も高齢者も将来の不安を抱えることなく働ける環境を整えた、ベルギーでの「ジェネレーション・パクト」によって達成が可能である。また、高齢者も、介護施設や集会センターにおいて新たな形でより広範内な役割を果たすことが出来る。その業務は、活動的な高齢者、介護の専門家、そして日本の高度技術の活用の分業が含まれる。こうしたモデルは、高齢化社会に直面している他国にも輸出することが出来るであろう。

しかし、社会的費用の増大や労働力の不足という問題にも対処していくには、日本は、移民にも門戸を開く必要がある。これには、就労・旅行ビザを携えた若者の短期滞在のほか、日本社会に溶け込む長期滞在が含まれる。移民の受け入れは、新しい才能を持つ人たちの流入をもたらすほか、世界的なネットワークの創出につながり、上昇する社会的費用の負担がカバーされ、結果として日本の国際競争力も高まるであろう。

既存の課題にうまく対処するためには、日本は現在の悲観的な見通しの代わりに、積極的なビジョンが必要である。新しい日本は、柔軟性を備えた社会階層と、労働者にとって安定的な制度を備え、包括的で寛容な社会を創出するべきである。そのような社会の中で、人々はより貢献的でありたいと願い、大きな家族を持とうとするし、また、日本の明るい将来を保障することにもなるであろう。日本個人の潜在能力に価値を置きつつ、移民の増加を伴うより幸福で、安心できる社会において、日本は、少子高齢化社会を克服できるであろうし、世界の中でリーダーとしての地位を確保し続けるであろう。

優秀賞

日本の人口減少-人口減少の傾向を転換させる包括的アプローチ

アニール・ニロディ氏(米国、69歳)
(仮訳・原文英語)

序論
日本で人口減少問題が叫ばれるようになって、20年以上が経つ。一部記事によると、2060年には8,700万人にまで落ち込むとの見通しをしている。予想される余命の伸びを考慮すると、2060年には65歳以上の高齢者が占める割合は40%に達することが予想される。

人口減少の原因
人口減少の現象は新しいものでなく、その原因について多くの議論がなされてきた。その原因は3グループに大別することが出来る。

  • 1. 出生率の低下
  • 2. 「引きこもり」、「フリーター」、「ニート」といった社会問題
  • 3. 移民受入への抵抗

これらの各々の原因には、強調すべき多くの要因があり、現実的な対処に向け言及される必要がある。

問題解決策
下記取り組みを構成した総合的なアプローチが求められる。

  • 1. 女性が子供を出産、育児をしやすい環境を整えること
  • 2. 育児を終えた女性がキャリア復帰しやすい環境を整えること
  • 3. ワーク・ライフバランスを改善すること
  • 4. 雇用機会を創出し、若年層に将来への希望を与えること
  • 5. 移民政策を変え、多様で動的な社会を創造すること
  • 6. これらの変化を国民に周知させるためテレビや他のメディアを活用すること

2060年の日本に関する私のビジョン
幸福で、柔軟性に富み、生産的な国民が自国文化に誇りを持ち、世界の中で安心な生活を享受する、ダイナミックで多様性に満ちた国家

優秀賞

カバーリングとシェア型社会の構築

浅野 孝志氏(日本、44歳)

人口減少社会の問題点は急速な高齢化とセットで進行していることである。そしてこの高齢化とセットで進む人口減少は生産者人口の減少という問題を抱える。生産者人口の減少は社会保障の担い手が少なくなることに直結してくる。現代社会では担い手が減少したからといって社会保障制度を放棄してしまうわけにはいかない。一方ですぐに人口が増やせる即効策はないので既存の枠組みを積極的に見直すことが必要になる。社会の枠組みを見直すことで支え手を増やしていかなければならない。この見直しの基本コンセプトは「カバーリングとシェア型社会」の構築である。スポーツで例えるのなら「全員攻撃・全員守備」である。

もちろん各人によって体力面など様々なバックグランドが異なるのに同じやり方を求めてはいけない。各人が各々のバックグランドに応じた役割を果たしていくために社会の方も様々な仕組みを変えていかなければならない。例えば企業社会ではジョブディスクリプションの導入と解雇規制の緩和を行い、思い切ってワークシェアを進め、多くの人が仕事をカバーし、シェアできるような状況を作り出す必要がある。「カバーリングとシェアシェア型社会の構築を」論じると経済的な縮小をイメージするが、多くの人が参画できる社会を構築することで新しいサービスや需要を掘り起こすことができる。またカバーリングとシェア型社会は多くの年齢に関係ない健康人口に支えられる。日本は予防医療の分野では他国よりバランスがとれており、このソフトノウハウを広めていくことも役割として求められる。

カバーリングとシェア型社会の構築を阻むのは「それは実際には難しい、そんなことは効率的ではない」という後ろ向き発想である。人口減少社会対応の処方箋は目新しいことはない。国の政策的な誘導も含めてあとは如何に覚悟を以って踏み込んで実行していくかである。