第8回 日本貿易会賞懸賞論文 講評
第8回日本貿易会賞
懸賞論文審査委員会
委員長 中谷 巌
第8回日本貿易会賞懸賞論文コンテストのテーマは「人口減少社会・日本への処方箋」であったが、日本の将来がかかるこのテーマに対して、世界各国から過去最多の216点の応募があった。応募論文の内訳は、日本語による応募が74本であったのに対して、世界各国からの英語による応募が142本に上った。誠に喜ばしいことと言わねばならない。日本貿易会の懸賞論文コンテストが真にグローバルなコンテストであることが今年も証明されたことになる。
多くの論文に共通していたのは、日本という国に対する関心が非常に高く、日本の事情に精通している人が非常に多いということだった。人口減少に悩む日本の窮状をどう救うのか、それぞれ真摯な政策提言をしていただいたことに深く感謝したいと思う。
また、216本の論文を丁寧に読み込み、厳正な審査にご協力いただいた審査委員の皆様にも深甚なる謝意を表したい。お陰で今回は、大賞1点、優秀賞3点を選出することができた。以下、受賞作品の概要をご紹介したい。
大賞
Mr. Michael Sullivan:"Strategies for a Depopulating Japan"
A British Model and a Japanese Legacy
本論文においては、「縮小国家・日本」に戸惑う日本人の閉塞感をいかにして克服し、日本人が心機一転、現状を克服するためには何をなすべきか、という点に関して、英国の体験を参考にしつついくつかの参考になる提言がなされている。子供を産みたいと思っているのに生むことができない、経済的に困窮している両親を積極的に支援する方法や、日本が好きで日本語の勉強に励む世界の若者を日本に誘致し、積極的に移民として受け入れることなど、説得力のある提言がちりばめられており、審査委員の圧倒的支持を得た。日本の大学や大学院が国際化のためと称して英語で授業をし、外国人留学生が日本語を学ばなくても卒業できるといった、日本における誤った大学の国際化についての考え方、方向性を鋭く批判しているところも素晴らしい。
優秀賞
Ms. Kadri Metspalu: Strategies for a Depopulating Japan -
Towards a More Inclusive and Happier Japan
本論文では、女性がキャリアの追求と出産・育児を両立させることにできる社会の構築、高齢者の有効活用、雇用の安定性確保、さらに、移民政策の転換など、人口減少に対処する包括的な提言がなされており、世界と共存できる新日本への期待が表明されている。非常にバランスの良い作品として評価された。
優秀賞
Mr. Anil Nirody: Japan's Declining Population:
The Need for a Comprehensive Approach to Reversing the Trend
本論文の著者は69歳の米国人、元エンジニアの方である。元エンジニアだけあって、論文の書き方がロジカルかつ包括的であり、人口減少を克服するための様々な政策が余すところなく網羅されている。とりわけ、日本における「ひきこもり」や「フリーター」の増加が少子化の原因になっているといった指摘は興味深かった。
優秀賞
浅野 孝志 氏: カバーリングとシェア型社会の構築
本論文は、日本における人口減少が急速な高齢化とセットで起こっていることに注目し、「全員攻撃・全員守備」という総力戦の形で、各人が社会におけるそれぞれの役割を果たしながら、互いにカバーし合い、仕事をシェアしながら社会保障制度の崩壊を防ぐべきという興味深い提言をしている。
以上が入賞作品の紹介であるが、このような国際性豊かな懸賞論文コンテストが日本貿易会によって今後も継続されていくことを期待したい。