日本貿易会賞懸賞論文 Awards JFTC Essay Competition

第9回 日本貿易会賞懸賞論文 講評

第9回日本貿易会賞
懸賞論文審査委員会
委員長 中島 厚志

今回から日本貿易会賞懸賞論文の審査委員長を中谷巌先生から引き継がせていただいた。日本貿易会賞懸賞論文は、日本貿易会、中谷前委員長および歴代の審査副委員長・委員のご尽力で、内外の重要課題について良質の論文が集まる国際性豊かな賞となっており、その審査委員長を拝命したことは大変光栄に思う次第である。

今年の第9回日本貿易会賞懸賞論文では、「グローバル経済における日本の針路 -新たな成長のための戦略と世界への貢献-」の題目で、アベノミクスの下でこれから日本がどのような針路を歩めばよいのか、骨太に論じてもらった。応募点数は昨年に次ぐ186点であり、特に海外国籍者の応募点数が20歳代を中心に応募総数の71%と過去最高割合を占めたことは、本懸賞論文の趣旨から見て大変喜ばしい結果となった。

今回の応募論文では、多くの海外の若い方々が日本の競争力をその文化力にあるとし、クールジャパン的な日本文化に高評価を与えていたのが特徴的であった。その上で、日本経済の復活と活性化は国民がもっと前向きになる点にあるとするような見方も多く、それは日本国民みずからが沈滞してきた日本を変革できるかが問われているとの見方でもある。

残念ながら大賞の該当論文はなかったものの、今回の入賞論文はいずれも独創的な視点を提供しており、3点が優秀賞に選出され、また審査委員長特別賞として1点を選出した。多数の論文を読み込み、厳正な審査をしていただいた審査委員に大いに謝意を表したい。

優秀賞
水沼 徹夫氏:
Is it possible to replicate Silicon Valley in Japan?

シリコンバレーの成功は、互いのネットワークを通じて複雑な技術を短期間に開発してイノベーションにつなげたことにあるとする。そして、シリコンバレーの関係者には、新技術とイノベーションが社会的課題を解決するとの強い思いがあるとする。このシリコンバレーモデルを前提に、日本人が互いに連携を深めて、各人が日本の挑戦を自らの挑戦と自覚して社会的課題を解決すべきと提案する。

シリコンバレーでのイノベーション力を独創的な視点から、説得力ある議論を展開している点は大いに評価される。日本なりのやり方とシリコンバレーモデルをどう組み合わせるかといった論考があれば申し分なかったが、イノベーションを個人の社会貢献と結びつけている点などはこれからの日本の針路に示唆を与えるものであり、十分入賞に値する論文となっている。

優秀賞
欧 任豪氏(Mr. OW Yam Huo):
Japan as a Revitalised Hub: Industries, Policies and Capacity Building Issues

日本は、技術面等で世界のリーダーかつビジョンであるとして、世界の人々のネットワークと未来を示すハブ(結節点)になるべきと提案する。その上で、観光、医療、グリーンテクノロジー、創造的産業(クールジャパン)、運輸、金融、貿易分野でどうハブ的機能を果たすかに言及する。

分析はしっかりしており、提言もよくまとまっている。くわえて、日本人には馴染みが薄い「ハブ」をキーワードに議論を展開している点は目新しく、興味深い論文となっている。個別産業のハブとの係わりを一層明確にできればと惜しまれるが、バランスがとれた内容で、日本のグローバル貢献を強調する点も共感され、高く評価される好論文である。

優秀賞
泉 隆一朗氏:
TWO INNOVATIONS -2つのイノベーションが融合するとき-

技術のイノベーションが得意な中小企業と市場のイノベーションが得意な総合商社を組み合わせることで、日本はさらなる潜在ニーズの掘り起しと商品開発や事業展開が可能になると論じる。

切り口は明快であり、日本がどうすれば世界に貢献し、日本自体も成長するかの議論は、データ等をしっかり踏まえた上で説得力があり、論文としてよくまとまっている。学生の論文としては優れた出来であり、審査委員の評価が高かったことを特筆しておきたい。

審査委員長特別賞
杨 素婷氏(Ms.YONG Soo Teng):
Reclaiming Japan -Japan as a Cultural Mecca

日本が、将来にかけて成長するとともに国のブランドイメージを上げる最大の戦略がクールジャパン戦略であるとした上で、そのターゲットとする層をオタクと非オタクに分けて、戦略が奏功するための方策を細かく考察している。

オリジナリティのある内容であることに加えて、みずからオタクと自認する本人の熱い言葉で政策を示している点には強い思い入れが感じられる。本論文は、体裁や論考の深さでは他の受賞論文に譲るところがあるものの、若手の論文としてはよい出来栄えとなっており、特別賞とすることとした。