日本貿易会賞懸賞論文 Awards JFTC Essay Competition

第10回 日本貿易会賞懸賞論文 入賞作品要旨

大賞

商社:発展のためのロードマップ

サハデブ・シュレスタ(ネパール、33歳)
(仮訳・原文英語)

日本の経済発展に重要な役割を果たしてきた商社。“ラーメンからロケットまで”と比喩されるように、多様な事業に関与する業態として知られている。長年にわたりビジネス界の変化に適応しながら発展を続け、グローバル・バリュー・チェーンにおける自身の役割を保持し続けてきたが、近年は日本においてその役割を失いつつある。

国内外のビジネスにおいて今なお商社が重要な事業体であることは間違いない。四半世紀に及ぶ長期不況からの脱却を図る日本にとって、商社の果たすべき役割は大きい。ただし、世界経済がメガ競争時代に突入し、経済事象のみならず政治その他様々な事象がビジネス界に影響を与えるようになった今、商社が競争に備え、世界経済においてより大きな役割を果たすためには、自身の再構築が必要である。

世界情勢に常に目を光らせ、変化に迅速に対応していくことが不可欠となるが、商社が今後も国際競争力を維持し発展を続けるために取り組むべき4つのファクターを以下に挙げる。1)イノベーションを軸に、競争力を強化する。2)独自のビジネスチャンスの創出から社会貢献に至るまで、価値創造に集中する。3)新しい市場を開拓する。途上国にも順境を示す国があり、アフリカ等、潜在成長率の高いマーケットへの進出を図る。4)人材の確保。上記3点を推進するために最も重要となるファクターである。

改革の道のりは険しいかもしれないが、もともと商社には高い順応性が備わっている。世界でもユニークな事業体として今後も発展し続ける可能性は十分に残されている。影響力と有用性を国内外にアピールし続ければ、ビジネス界にとって必要な存在であり続けるだろう。

優秀賞

日本の真のグローバル化に向けた商社に期待すること
~グローバルマインドを持ったグローバルプレゼンスに向けて~

松山 宏昭(日本、49歳)

日本の対外直接投資額は世界第2位で、外向きのグローバルブレゼンスの水準は素晴らしい。しかしながら、残念なことに、日本人が思っている以上に日本は外資系企業にとって、文化的、言語的、構造的に進出が難しい国である。対内直接投資額がG20諸国の中で最低水準であることを見てもそれが良く分かる。一方、多くの外資系企業は、日本の消費者市場について、所得水準が高く、顧客ボリュームが大きいことなどを理由に非常に魅力を感じている。それ故、障壁を取り去れば、外資系企業が雪崩を打って進出し、人材も含めた日本国内のグローバル化が一気に進む可能性が大いにある。

また、現在の日本の問題点は、多くの日本人がグローバル化の意味を勘違いしていることである。企業が海外拠点を多く持ち、グローバルブレゼンスを示すこと自体はグローバル化とは言えない。問題は、企業の幹部がグローバルな頭で経営を行なっているかどうかである。グローバル企業として世界から認められるには日本人のグローバル化が不可欠である。

欧州の小国であるルクセンブルクには、官民協働で様々な経済や社会問題について対処するルクセンブルク・モデルというシステムがある。同国はそのモデルを活用し、国民の卓越した語学力で外資を誘致し、金融立国として君臨し続けている。まさに、内なるグローバル化で、金融立国になるという国策を官民一帯で推進している国である。

商社は、創業当初から国境を越えたビジネスを本業にしてきた。それ故、外資の日本進出の障壁となっている様々な問題を解決するノウハウを持っている。ルクセンブルクの外資誘致の成功事例を参考にしながら、対内直接投資の飛躍的な拡大による日本の真のグローバル化を目指すには、商社の力が不可欠である。

優秀賞

2020-オリンピック戦略:日本のメソッド・歩み・和の精神を世界に発信する

ラメシュ・サバラマン(米国、58歳)
(仮訳・原文英語)

生活に必要だからといって、無秩序に開発を行い、世界は持続不可能なペースで変化し続けている。さらに政治的、社会的な対立によって問題は絡み合い、複雑性を増している。

淡水不足により飲用水の流通が乱れ、気候変動により空気は汚染され、人口増加により栄養食品や住宅の供給が追い付かなくなっている。日本でオリンピック・パラリンピックを開催する2020年こそ、これら諸問題に取り組むべきタイミングだ。選手にとっての舞台である以上に、日本が独自の資源を世界に示す舞台となり、日本の資源を目の当たりにした世界各国は、卓越したテクノロジーとそれを製品化させる手法に感銘を受け、日本を見直すことになるだろう。2020年までに、そして2020年以降も見据えて開発すべき日本の資源を意思決定する際は、これを念頭に入れていただきたい。

では日本の資源とは何か。それは、効率的なメソッド、歴史、そして「和」の文化――平和や生活の質を築き上げ維持してきた人徳が織り成す資源である。日本は堅実に資源を用いて、便利で機能的かつスタイリッシュな製品の生産・輸出に成功している。世界に流通させることで信頼性の高い製品を効率的に製造する技術と手法を証明しているのだ。今後もこの戦略の成功を持続させるには、技術コストを抑えた形で供給していかなければならない。安定した中にダイナミックに変化を取り入れていくことも必要となってくる。

変化を続ける世界の中で、新たな別の問題も出てくるだろう。しかし日本独自の資源を活用する戦略を実行し続けることだ。

世界舞台でリーダーシップを取ることに慎重で、控えめな姿勢を取っていた日本。これからは緑豊かで持続可能な世界の構築に向けて、非政治的なリーダーとして平和的で透明な歩みを導く役割を担うべきであろう。

また、政財界において、エレクトロニクスや製造、重工業に至るまで全ての技術を統合・体系化し、生活の質を高めるためにエネルギー自給を含めた自己完結式のモジュールシステムや製品を開発、供給を強化していくことも行っていかなければならない。

優秀賞

日本の文化資産で世界を豊かにする

サイモン・キャンベル(英国、34歳)
(仮訳・原文英語)

昔から資源が不足している日本は、石油やガス、石炭をはじめとする天然資源の輸入大国である。火山列島のため土壌は肥沃なものの、金属その他の可採資源に乏しいのだ。国外の天然資源も供給に限りがあるため、日本にとっては厳しい状況にも見える。しかし資源を広義に理解すれば、日本は決して資源に乏しい国ではない。

日本には豊かで多様な文化がある。定義を拡大して社会的生産物までを資源とみなすなら、日本は資源大国だと言えるだろう。最高の資源は人材である。日本は豊かな人材にあふれ、世界に恩恵をもたらす文化も有している。

社会学者ピエール・ブルデューの理論を借りれば、文化資源を経済的に考察することができる。本稿では文化資産のフレームワークを用いて具体例を取り上げながら、日本の豊かな文化がいかに貴重な資源であるかを示していく。

2020年には、東京で2度目のオリンピック・パラリンピックが開催される。第2次世界大戦から19年後の1964年に開催され、日本が再び国際舞台に姿を現した初回の東京オリンピックは、日本に高度経済成長をもたらした。「スポーツを通した人間育成と世界平和・発展」というオリンピックの究極目標を踏まえた新しいアイデンティティを、世界に披露したのである。

経済恐慌、「失われた20年」、そして2度の大地震を耐え抜いた日本。2020年の東京オリンピックは、日本の忍耐力と再生力を示し、イノベーションをアピールする絶好の機会である。ビジネスや国際交流においても長期的な関係を構築する好機となるだろう。

2020年には世界中の注目が日本に集まる。本論では、来たる東京オリンピック開催に向けて、日本の文化資産がいかに世界に貢献できる資源であるかを示すための3つの戦略について述べる。

審査委員長特別賞

日本:未来世界への洞察

レイラ・ホジッチ(ボスニア・ヘルツェゴビナ、19歳)
(仮訳・原文英語)

人類がこの惑星の大量の天然資源を搾取してきたことについては、もはや疑いの余地もない。地球は枯渇している。天然資源は世界に期間限定で生活の支えを提供してきたが、遠からず尽きる可能性が高い。地球環境は岐路に立たされており、このような世界においては人類に明るい未来をもたらす新しい資源を認めることが重要になる。自分たちの住む世界に対する意識を改めたいと強く望むなら欠かすことができない、人生哲学のような無形の資源。慎ましさや感謝の心を教えることができる日本なら、そのような資源、つまりは人類自らが編み出し、知性によって導いた多くの素晴らしい資源を提供することができるはずだ。近未来において人類が拠り所とすべきこのような資源を、日本は自国の経済発展策として世界に提供すべきである。2020年のオリンピック開催までの期間はそのプロモーションにふさわしく、資源の活用を強調してもらいたい。オリンピックのようなユニークなイベントは、未来に向けて世界の目を開かせる絶好の機会であるからだ。また、グリーン・テクノロジーや再生可能エネルギー資源、高速輸送、先端農業、ロボット技術等、日本が世界に提供するものに間違いなく未来がかかっている。テクノロジーの存在が当たり前となった今、人々が次に求めるものはロボット技術である。人々を現代社会のストレスから解放するために、日本は人間を補佐するロボットの開発を促進すべきだ。東京オリンピックの開催まで後6年。技術の日進月歩を鑑みると、実物のロボットがオリンピックの運営に携わっている姿を目にしても不思議ではないだろう。悲観的な未来を変えたいなら、新しい資源を探求し投資しなければならない。日本の発展が本論を証明してくれるはずだ。