日本貿易会賞懸賞論文 Awards JFTC Essay Competition

第10回 日本貿易会賞懸賞論文 講評

第10回日本貿易会賞
懸賞論文審査委員会
委員長 中島 厚志

日本貿易会賞懸賞論文は今回で10回目の節目を迎えた。日本貿易会の関係者および審査委員各位のご尽力に加えて、なにより毎年海外を中心に多くの方々が力作を投稿してきたことで、その存在はグローバルに定着したと言える。

今年の第10回日本貿易会賞懸賞論文では、改めて日本貿易会が主催する懸賞論文としての原点に立ち返って「商社」と「資源」の2つのテーマを選び、「グローバル経済における“商社”の役割」と「2020年の日本が持つ“資源”と世界の発展に果たす役割」を論じてもらった。懸賞論文テーマを2つとするのは初めてであったが、両テーマ合わせての応募点数は過去2番目に多い195点に及んだ。そして、本年に於いても20歳代を中心とする海外国籍者の応募点数が応募総数の67%と多くを占める結果となった。

今回の応募論文の特徴を挙げると、「資源」については、我々が十分認識していない「和」、大都市東京といった大きな「資源」が日本にはあると教えられたことにある。そして、それらの「資源」を有効に活用する提言が多々あったことは、今後の日本や日本経済の展開の仕方について多くの知恵があると心強く感じたところである。

一方、海外国籍者の多くが日本の「商社」について良く調べ、その事実や実態を把握した上で「商社」が果たすべき役割についての論文を寄せてきたことも特徴として挙げられる。インターネットの普及などで内外どこでも多くの情報が得られるようになっているが、対日認識の正確さと深さを再認識させられた次第である。

今回については、例年同様多くの力作が最終選考に残り、大賞1点、優秀賞3点が選出された。また、審査委員長特別賞として1点を選出した。多数の論文を読み込み、厳正な審査をしていただいた副委員長、審査委員および日本貿易会の皆様には大いに謝意を表したい。

大賞
Mr. Shahadave Shrestha:
Shosha:Road Map for Future Development

商社の多様なビジネスに言及し、日本の商社が内外経済の変化に適応してきたことを挙げた上で、日本経済停滞にあって商社の果たすべき役割は大きいとする。そして、商社の発展のためには「イノベーション」「価値創造への集中」「新市場の開拓」「人材」をキーワードに業務を進めるべきと説く。

論文では幅広い商社ビジネスに触れており、商社機能がよく理解されている。また、イノベーション賞創設、リバース・ビジネス・イノベーション、BOPビジネス、などの興味深い事例を示すことで、論文に具体性を与えるとともに商社の展開方向について明確なメッセージを発信している。その上で、ビジネス拡大と社会貢献のバランスを強調しており、商社ビジネスの視点に幅と深みを加えている。さらに、自国ネパールの膨大な水力発電資源にも触れるなど、自国や発展途上国の発展への思いも十分伝わってくる。

全体によくまとまった論文となっており、論点の明確さや成長と安定のバランスへの配慮がある点とも合わせて正に大賞にふさわしい好論文である。

優秀賞
松山 宏昭 氏:
日本の真のグローバル化に向けて商社に期待すること

日本の輸出や対外直接投資が伸びるだけでは真のグローバル化とは言えないとして、極端に低い対内直接投資を増やすことが、人のグローバル化を進め、今までにないポジティブサイクルを生み、日本経済の真のグローバル化につながるとする。そして、多くの外資系企業が集まるルクセンブルグの経済モデルを挙げ、その成功要因として政労使協議機関の設置、外資系企業の意見を十分調査した上での規制やコントロール、高い語学力を列挙する。それらを踏まえて、日本の真のグローバル化に向けた商社の役割として、海外企業が日本に投資しやすくするための商社機能の活用や海外の教育機関の日本への誘致に言及する。

日本経済グローバル化のモデルとしてルクセンブルグを挙げているのは、日本にその経済モデルが十分知れ渡っているとは言えないだけに、興味深い。また、対日投資窓口としての商社への期待は、みずから対外直接投資するだけではなく、対内直接投資促進にも寄与しうる商社展開の新たな広がりの可能性を示したものとも言える。

海外教育機関の誘致といった、商社への役割期待とは異なる論点が示されるなど論旨の統一性が取れていないところがあるのは残念であるが、洞察力に富み、日本のグローバル化の参考となる論文である。

優秀賞
Mr. Ramesh Subbaraman:
2020- An Olympic Strategy to use Japan’s Methods, Pathways and ‘Wa’ for the World

日本の資源は、その効率的なやり方・経路とともに平和と生活の豊かさを築く仁徳の調和にあり、「和」の文化にあるとする。そして、日本は、輸出だけではなくもっと「和」の精神でその技術やソフトといった資源を世界の利益のために活用する戦略を実行するように行動しなければならないと説く。その上で、2020年を目標として、相手国を選定するなどの具体的方法や具体的プロジェクトについて記述し、筆者はこれをジャパン・グローバルCSR(JGSR)と命名する。

日本の「和」の精神で世界に貢献する見方は大変興味深い。また、全体としても読みやすく、論点は明確であるなどレベルが高い論文に仕上がっている。「和」の精神で提供するプロジェクトが日本経済の再生や発展にも大きく貢献するといった論点の広がりがもっとあれば申し分なかったと惜しまれる。

優秀賞
Mr. Simon Campbell:
How Japan’s Cultural Capital Can Enrich The World

日本には豊かで多様な文化があり、まさに文化と人材が日本の資源であり、日本の豊かな文化資産(Cultural Capital)は価値のある資源だと主張する。その上で、2020年の東京オリンピック・パラリンピックは、失われた20年や2回の大震災後の日本の耐久力、若返り、イノベーション、そしてその文化資産を示す絶好の機会だと指摘し、2020年東京オリンピック・パラリンピックにあわせて①「カイゼン」コンテスト、②職人チャンピオン大会、③日本文化の世界への教育を行うことを提唱する。

文化資産(Cultural Capital)の概念を示し、その価値を活用して日本の将来を拓く契機とすべきとの主張は興味深い。そして、「カイゼン」(改善)といった日本らしい文化資産を踏まえた「カイゼン」コンテスト開催等のユニークなアイデアは斬新であり、それぞれのアイデアについて深みのある論考をしている。アイデアがやや列挙的ではあるものの、全体によくまとまっており、優秀賞に値する論文に仕上がっている。

審査委員長特別賞
Ms. Lejla Hodžić:
Japan : Insight into World’s Future

日本は、人的資源や技術に加えて、慎ましさや感謝の気持ちといった人生哲学を提供しており、このような資源こそが日本の経済繁栄につながるとする。その上で、2020年の東京オリンピック・パラリンピックは世界が眼を未来に向けるよい機会であり、未来は日本が世界に提供できるグリーン・テクノロジー、高速輸送機関、ロボット技術などにかかっていると主張する。

分かりやすい文章で、若い人らしい素直な書きぶりには好感が持てる。なにより、日本の情報入手に制約がある海外において、若い人が日本に関心を持ってよく調べた上で懸賞論文に応募したことは大いに評価したい。本論文は、体裁や論考の深さでは他の受賞論文に譲るところがあるものの、10代の論文としてはよい出来栄えとなっており、特別賞とすることとした。