第11回 日本貿易会賞懸賞論文 入賞作品要旨
優秀賞
主導権を握る~海外から人材・資本を引き付けるために投資利益と賃金の向上、能力開発を提供する新チャネルの確立~
キーラン・ハル(英国、26歳)
(仮訳・原文英語)
日本は世界経済と密接に繋がっているものの、海外からの資本と人材の流入という点では他の先進国に遅れをとっている。つまり、外国からヒトもカネも入っては来るが、理想的なレベルでそれは起きていない、ということが伺える。したがって、日本は投資利回りや賃金を向上させ、能力開発などの条件をより魅力的なものにすることで海外から資本や労働力を一層引き付ける必要がある。従来のチャネルを拡充させることも大切であるが、本論の焦点は日本が新しい分野で世界のリーダーとなれるような斬新な政策アイデアについてである。活気ある経済分野で主導権を握ることは投資や労働力を引き付けることに繋がる。
本論は農業、製造業、サービス業の3部で構成されており、次のフレームワークに従って分野ごとに分析している。まず、当該分野の現在の実績はどの程度か。次に、必要な資源を引き付けるにはどのような政策が有効か。3番目に、ステークホルダーは誰か。そして最後に、それらの政策の直接的効果の程度、また波及的効果について、である。
調査結果はさまざまである。初めに経済の最も弱い分野である農業について、戦略的には重要だが非生産的だということが示されている。農業分野の改革は必須だが、これには時間がかかる。すぐにできることは、海外人材を引き付けるための能力開発に的を絞ることだ。日本は経験豊かな農家によって栽培された高級農産品を得意としている。アグリツーリズムを通して労働力を引き付けることで就農人口の増加、農業技術移転や事業効率化に繋げることができる。
製造業はまだ強いが、問題がないわけではない。より投資家に好意的なコーポレートガバナンスの仕組みを整えて、引き続きグローバルリーダーとしての立場の維持を目指すべきだ。次世代の世界の製造業を定義づけるさまざまなグローバルイニシアチブのもとで、統合されたイノベーションを進めることで日本は好機をとらえることができる。「インダストリー4.0」のもとでの第4の産業革命がそのひとつの例だ。日本は、まだ確立されていない国際基準の構築に関わることで投資や人材が集まる重要な中枢となるだろう。
最後に、サービス業は日本の得意分野である。本論では、日本の専門技術や知識を活かした政策を推奨する。例えば、日本は他国のサービス業界発展のための培養器の役割を果たすことができる。これによって得られる利益は2つある。まず、サービスが移送可能である特徴を活かして、資本や人材が日本へと流れてくる。2つ目に、日本から学ぼうとする国々にとっての成長や発展がもたらすプラスの影響が考えられる。
従来の政策からはやや離れているが、これらの提言には、日本が国際基準構築の面で主導権を握るための手段が提供されている。結果、日本のイノベーターとしてのイメージが確立される。このイメージは、海外の資本や人材を日本に引き付けるパワフルな引力となるだろう。
優秀賞
グローバリゼーションと21世紀における日本経済復活への道
マニュエル・ジェフリー・シストソ(フィリピン、28歳)
第二次世界大戦に敗北を喫した日本は、たった数年で世界第2位の経済大国へと上り詰めた。活気とイノベーションに満ちた自国の人材を頼りに、新しいアイデアから世界を動かす製品を生み出していった。しかし1990年代初めにはこの日本の奇跡は揺らぎ始め、長引く低迷期へと突入した。そこから時間を進め、現在は、まったく違う世界が広がっている。モノ、サービス、テクノロジーすべてが大幅に進化した。世界経済が変化し続ける一方で、日本は人口減少、頑固なデフレと経済停滞をはじめとする困難な課題に直面している。そこで問われるのが、この不可能に見える状況の中で日本の復活は可能なのか、70年前に奇跡の復活を遂げたように、もう一度逆境から立ち上がることができるのか、ということである。
本稿では、グローバル資源を引きつけて、21世紀における日本経済の再活性化を図ることを目指したアクションプランを提示することでこの問いに答えようとしている。このアクションプランは、打たれ強く、活気ある経済を支えるとされる教育、研究、イノベーションの3本柱を中心に成り立っている。同時にこのプランは2つのことを目指す。①海外から優秀な人材や彼らのアイデアを引きつけ、②日本人の物の考え方にグローバル化のコンセプトを植え付ける。前者は、世界の優秀な才能が自然と日本を選ぶように、また日本も彼らを快く迎え入れるようになる、ということであるが、これはとりわけ大事だ。なぜなら世界経済フォーラムの国際競争力レポートによれば、日本は海外から優秀な人材を引きつけている国としてのランキングが79位と相当低いからだ。しかも他の多くの東アジア諸国よりも低い。また、後者はこれからの日本が海外の優秀な人材と共に、技術、科学、金融の各分野で積極的に協力していく場面を増やしていく、ということを意味する。
このために以下4つのイニシアチブを実践する必要がある。①英語による学位取得プログラムの推進・強化。②文部科学省奨学金留学生制度の改革。③私企業が海外からの学者や研修生のスポンサーとなるためのインセンティブの強化。④起業アイデアに対して、それを実現させる機会を積極的に与える特別なイノベーション・ゾーンの整備。日本は単なる労働力を呼び込むのではなく、新しい「アイデア」を取り入れると考えるべきなのだ。
これらの改革を成し遂げれば、長期的には日本は磁石のように世界の人材を引き付け、21世紀での再復興への道を開くことにも繋がる。難題だが、日本は既に一度はるかに大きなチャレンジを乗り越えてきた。再度できない理由はない。
優秀賞
STEMによる日本のグローバル化推進戦略
シャンユー・マ(豪州、25歳)
(仮訳・原文英語)
資源が国境を自由に行き来し、お互いにますます繋がっていく世の中で、日本は主として自国の労働力と貯蓄をベースに経済繁栄を築いたユニークな国だ。経済成長を続けている間は、孤立主義をうたう長年の美辞麗句も文化的なユニークさをも弁護できた。しかし人口も貯蓄も減少してきている今、もはやそれは不可能だ。日本政府は国内のこの減少分を埋めるべく、海外へ目を向け始めた。留学生を30万人に増やし、対内直接投資を2倍に拡大する、という野心的な計画を打ち出したのだ。本論では長期的な「内なるグローバル化の推進」を支えるポイントとして2点挙げていく。
まず、海外からの資本と人材を誘致することを目的にした現政権の政策はその本質部分で的が絞られていない。これでは限られた効果しか発揮できない。むしろ、日本が比較優位を有する一つの分野に集中して長期ビジョンを展開していくことの方が重要な意味を持つのだ。本稿では、STEM【Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)】分野の教育機関や企業にこそ日本は比較優位を有しており、日本のグローバル化にこれらを活かすことを提案する。その理由として次の2点が挙げられる。まず、彼らは日本の他の分野と比べオープンであり、比較的変化を進んで取り入れる傾向がある。また、非常に競争の激しいグローバル環境において、既に築かれた自分たちの評判や信用を利用することができるからである。
しかし、この方法で長期的な成功を収めるには産学官民が一体となって既にある比較優位の上に、考え抜かれた比較優位を築いていくことが肝要である。そして、政策を最大限成功させるために大切なのは、海外の資本と人材が日本に場所を移すことによって何を成し遂げようとしているのかを理解し、その希望に合致した方法を取ることである。本論では以下2つの方法を提案する。①STEM学生に対して、大学入試から卒業後の就職の機会まで一貫してサポートする統合された体制の整備、②内向きではなく外へ目を向けた新しい企業風土をSTEM産業において醸成する。
STEM分野で始まるこれらの変革が日本中へと波及して、ゆくゆくは、海外からの資本と人材が日本経済にとって必要不可欠な要素として尊重されるようなダイナミックな社会となっていくことを期待している。