第12回 日本貿易会賞懸賞論文 入賞作品要旨
優秀賞
外国市場への価値提案:
国際貿易におけるバリュー・チェーンを進む日本企業への処方箋
シャオチェン・スー(米国)
(仮訳・原文英語)
近年、世界貿易における日本企業の競争力は、残念なことに相対的に低下傾向にある。このトレンドは、日本が切望する製品と同じ輸入品に高い金額を提示でき、日本製と同様に高品質で価格が安い製品やサービスを生産できる才覚に恵まれた外国企業が登場していることが主な要因である。本稿は、優秀な外国企業が台頭しているにもかかわらず、世界貿易において日本企業は依然として極めて優位に立っていることを改めて浮き彫りにしようという試みである。
日本企業が誇る武器をフルに活用するカギは、日本企業が持続可能なパートナーシップで長期のニーズに対応し、外国の生産者や消費者にいかにして総合的な「価値提案」を行うかにかかっている。そのために、日本企業は海外進出を継続する手法を根本から見直す一方で、日本政府と日本の社会全体を積極的に動員して、海外市場への取り組みを集合体として支援することが必要である。「価値提案」に関する提案が行われる場合の、将来の世界貿易における日本株式会社の相対的な立場について、希望的観測も本稿に盛り込まれている。
優秀賞
日本:「失われた日本」から「日本のRESET」へ
ジャージ・ジャーング(シンガポール)
経済は発展するにつれ、人口の高齢化という問題に否応なく直面する。この問題は日本に限ったことではなく、他の国にもある程度存在している。しかし、ほとんどの国に先んじて日本が人口高齢化の影響を受けることは確実である。これをポジティブに捉えた場合、日本の高齢化対策は他国のモデルとなる可能性があり、将来は日本が開発したテクノロジーや製品を高齢化に直面する他の国々が必要とし購入することになるだろう。
これを実現するには、日本が準備を整えることが必要である。まずは労働力の高齢化の影響を軽減するテクノロジーを開発し、次に海外市場に参入する方法を考案する。RESETはこの目標の実現に向けて3つの提案で構成される枠組みである。
第一にRESETのRedefine Education as Service(RES)(サービスとして教育の再定義)である。外国人留学生は留学期間中に国内消費に寄与するばかりか、卒業後に労働力となる可能性がある点で重要性が高い。
第二にEcosystem Strategic Export(ESE)(エコシステムの戦略的輸出)である。エコシステムは製品そのものよりも高い競争力を生み出す。なぜなら、製品の模倣や強化はエコシステム全体を作り上げるよりもはるかに簡単だからである。さらに、エコシステム戦略によって、企業は国内外を視野に入れて他の企業との関係における自社の立場を見直すことを迫られる。
最後にRESETはSelf-Enabling Technology(SET)(自助テクノロジー)の導入を促進する。頻繁な地震活動が日本の地震工学の進歩に役立ったのと同様に、人口をめぐる日本の状況はサービスだけでなく製品においても自助テクノロジーの拡充と発展を促す。
これら3つの提案は一見するとアプローチが異なるようだが、世界を日本に近づけ、日本を世界に近づけるという共通のテーマで貫かれている。次の10年を失われたものとせず、日本の進む道を見直す機会にしよう。
優秀賞
サービス分野のグローバル貿易に対する日本企業
ソク・ヘン・レイ(カンボジア)
(仮訳・原文英語)
この20年間、日本は停滞し、そこから抜け出せないでいる。日本は出生率の低下による人口の減少に加え、グローバリゼーションに伴う世界市場への輸出の減速など、課題に直面している。こうした課題を抱えて、現時点で日本はデフレから脱却できていない。しかし、経済の活性化に向けた新たな取組を模索する動きを通じて、日本のサービス分野は近年大きく注目を集めており、今やサービス分野は日本の持続的な経済成長を支える柱の一つとみなされている。
日本はサービス分野で世界のリーダーになることを目指している。日本の活性化を目指すアベノミクスはヘルスケア、情報技術、知的財産権においてサービス貿易の拡大を目指している。サービス分野は日本のGDPの75%を占め、需要の増大と技術の進歩につながっているものの、サービス貿易は比較的低水準である。これは、サービス分野の生産性が製造業のそれを依然として大きく下回っているからにほかならない。さらに、サービス分野の生産性は、米国など他の先進国と比較しても低水準にとどまっている。そのため、アベノミクスが実現するかどうかは、日本企業の業績に大きく左右される。これに関して、競争が激化している現在の世界市場においてサービス貿易を改善するには、日本企業がどのようなシナジー効果を採り入れることが必要かという問題が提起される。
グローバリゼーションの逆風の中で日本企業がサービス貿易を成功させるには、生産性、ブランドの価値、マーケティングの3つの要因が不可欠である。第一に、サービス分野で生産性を強化するには、構造面でのイノベーションと優秀な人材が不可欠である。第二に、日本企業はサービスの「ブランドの価値」を強化し、日本製品のブランド同様に認知度を高めるべきである。第三に、日本ブランドの価値に関して日本企業が世界市場の中で独特のニッチを維持するためには、マーケティング戦略を絶えず強化すべきである。ただし、サービス分野で市場のリーダーになる夢をかなえるには、他の利害関係者の参加が欠かせない。新しい日本経済を構築するには個人のコミットメントと動機づけが不可欠だからだ。他の国も早晩同じような課題に直面するが、日本はイノベーションを通じてこうした課題を克服することで世界にとって非常に好ましい前例を築くことができよう。
優秀賞
グローバル貿易における日本企業の役割を拡大する「3S」
ロン・バオ・ヴオン(ベトナム)
(仮訳・原文英語)
世界貿易は、モノやサービスの世界での幅広い交換・流通を促進する。貿易は製造業とサービス業がモノやサービスを効率よく販売することを可能にし、国内外のGDPの伸びに貢献する。貿易は家計、国、全世界が繁栄するために不可欠であるが、残念なことに、世界貿易は現在減速しており、今後何年かの伸び率は3%程度にとどまると予想されている。GDPといえば、ミャンマー、コートジボワール、ブータン、セネガル、モザンビーク、インド、中国、ベトナムなどの新興国のGDP成長率は2016年から2021年にかけて6~8%と予想されているが(IMF「世界経済見通し2016年4月」)、世界経済の原動力であるG8の限界伸び率は1~2%と「飽和状態」にあるようだ。
(http://data.worldbank.org/indicator/NE.TRD.GNFS.ZS?end=2015&start=1960)
世界貿易が世界のGDPの55~60%を占めることを考えると、これは由々しき問題である。新たな景気後退局面入りには直面したくない。
この問題を解決するには政府、国際機関、組織、特にすべての国の実業界の関与が求められる。こうした中、日本企業はどのような役割を果たし世界貿易の促進と強化を図ることができるだろうか?
本稿は日本企業の役割を取り上げ、主な事実とデータをもとに現在の世界貿易について考察し、世界貿易における日本企業の役割を拡大する「3S」(Sell(販売)、Self(自社)、Share(共有))を提案する。
審査委員長特別賞
サービスとしての「商社」
未来のビジネス環境のための未来のビジネスモデルとしての商社
バルタザール・サバド(フィリピン)
(仮訳・原文英語)
2014年3月時点で日本貿易会には42社の正会員がいたが、これらの企業は今後変貌するビジネス環境に対応する準備が整っているだろうか? 商社の歴史をひもとくと、過去の商社はグローバル化以前に適していたコモディティの取引モデルを活用し、今日の商社は信用逼迫で明日には機能しなくなるかもしれないソリューション取引モデルを使用する。将来のビジネス環境に適応するには、今日の商社は未来の商社に生まれ変わらなくてはならない。
未来の商社はサービス業務を展開し、未来のビジネス環境にふさわしいサービスとしての商社モデル(SHaaS)を活用する。サービスとしての商社モデルのコンセプトとして、未来の商社は、取引モデルであるSHaaS知的財産(SHaaS-IP)でビジネスマネジメント、プロセス、オペレーション分野の自社の知的財産を取引することに重点を置く反面、財務力を活かして基本手数料と公益サービス料または公益サービス料のみを基に、契約や使用料によるビジネスに特化した取引モデルであるSHaaS営業費用(SHaaS-OE)を提供する。
すべての商社がSHaaSに移行できるとは限らないが、一般的に商社は世界中に拠点を持ち市場について幅広い情報があること、子会社の大半は銀行であり新規ビジネスを立ち上げる資金力があること、多数の市場で事業を展開し長年の経験によりリスク管理能力があること、という3つの主な要因に支えられており、移行は可能である。
SHasSへの道は、商社が容易に調達できる資金から始まり、次に、戦略的に配置されたセンター・オブ・エクセレンス(COE)(中核的研究拠点)を設立してビジネスマネジメントプロセスと業界のノウハウ共通のグローバルナレッジデータベース(GKD)を重点的に提供し、互いに知識と経験を共有することである。第三の要因として、プルーフ・オブ・コンセプト(POC)(概念実証)を通じて、市場で発売しなくても顧客が実験室または制御された生のビジネス環境でリスクを負わずにビジネスモデルをテストできるようにすることである。
上記問いへの私の答えは、「イエス」であり、ビジネスのノウハウ、市場情報、資金力という戦術的強みと結びついたSHaaSビジネスモデルを備えた未来の商社は、将来のビジネス環境での競争力と生き残りをかけて戦略的に計画する準備が整っている。