グリーン・エネルギー発電事業(太陽光発電、風力発電、地熱発電ほか)
水と同様に、我々の生活に欠かすことのできないもののひとつが電気です。現在、世界の電気の約7割は火力発電で作られていますが、化石エネルギーへの過度の依存は地球温暖化の加速を招くおそれがあります。そこで、温暖化ガスを排出しない代替エネルギーとして、太陽光、風力、地熱等の自然を利用したグリーン・エネルギー発電が注目されています。発電事業は商社が以前から積極的に取り組んできた分野のひとつですが、今後は商社ビジネスの中でも従来型の火力発電だけでなく、グリーン・エネルギーによる発電事業が増えると予想されます。世界規模でエネルギー政策の転換が議論される中、商社にとって更なる事業機会が広がりそうです。
1. グリーン・エネルギー発電事業の現状と課題
IEA(国際エネルギー機関)によると、2011年の世界の総発電量は22.1兆kWhに達しており、過去10年間、年平均3%強のペースで拡大しています。電力は我々の日常生活や経済活動と密接に関係するため、電力需要の変化はGDP成長率と概ね比例します。したがって、今後も力強い経済成長が見込まれる新興国を中心に、電力需要の拡大が予想されます。
発電ポテンシャルの高いグリーン・エネルギー
世界の発電燃料の中心は今でも化石燃料であり、その構成比をみると、石炭が全体の約4割、LNGが約2割を占める等、火力発電が全体の約7割に達しています。火力以外では、原子力が約1割強で、約16%の水力を含めれば自然の力を利用したグリーン・エネルギー発電も2割程度になっています。IEAの見通しでは、各国政府による政策的な支援があった場合、水力以外のグリーン・エネルギー発電の占める割合が2035年には15%にまで拡大するとしています。中でも、風力、バイオマス、太陽光に大きな期待が寄せられています。
十分に普及してこなかった理由
グリーン・エネルギー発電への期待が大きいにも関わらず、これまで十分に普及してこなかったのにはいくつかの理由があります。
(1) 高かった発電コスト
最大の問題は発電コストが高かったことです。しかし、技術開発の進展や生産量が拡大したことで、発電コストはかなり低減しています。EIA(エネルギー情報局)は、米国で新たに発電所を建設した場合の電源別発電コストを毎年、発表しています。その2014年版によると、最も発電コストが低いのは地熱(0.05ドル/kWh)となっています。風力やバイオマスも現在の主流である天然ガスや石炭と同等のレベルに達しています。太陽光(0.13ドル/kWh)はまだ割高ですが、それでも数年前まで天然ガスの3倍程度の水準だったことを考えると、コスト差は着実に縮まっています。
(2) 不安定な電力供給
次に、電力の安定供給に課題があります。電気は我々の生活にとって必要不可欠なインフラであるため、量と質の安定性が求められます。しかし、太陽光発電や風力発電等のグリーン・エネルギー発電プラントはこれまで小規模なものが多く、自然を相手にするため、季節や時間帯によって発電量が変化し、供給量を正確に予測することが非常に困難です。燃料の投入量を変化させることで発電量を調節できる火力発電と比べ、安定供給の面で劣る部分があり、電気系統とのスムーズな接続にも課題があります。
(3) 立地問題
最後に、立地の問題があります。グリーン・エネルギー発電は当然ながら自然条件が整った場所でなければ効率的な発電ができず、どこでも設備を設置できるわけではありません。また、発電に適した立地があったとしても、国立公園内であったり、土地の使用権や周辺住民への生活の影響を考慮する必要がある等、簡単に開発できない場合があります。
今後の展望
コストがそうであったように、他の課題もグリーン・エネルギー発電の普及が進むことで克服されていくものと考えられます。不安定な電力供給の問題改善には、蓄電池を用いた電力供給システム導入の実証実験が始まっているなど研究開発を重ねることで改善が見込まれます。さらに、グリーン・エネルギー発電の必要性が認識されることで導入の障害となるさまざまな規制緩和が進み、立地の問題も解決されていくと期待されています。
なお、グリーン・エネルギー発電の導入は、米国のグリーン・ニューディール政策の目玉であるスマートグリッドの普及にも大きく関係します。スマートグリッドとは、IT(情報技術)を使って、電力の流れを供給と需要の双方向から最適に制御する「賢い送電網」のことです。火力等の集中型電源に加え、発電に占める太陽光や風力等の分散型電源の割合が拡大することで、スマートグリッドによる送電網全体の効率性の追求が一層、重要になります。
2. 急拡大するグリーン・エネルギー発電事業
2012年の世界の再生可能エネルギーへの投資額は約2,440億ドルで、前年より12%減少しました。この背景には、2008年の金融危機後の景気刺激策の一貫として、過剰と言えるほどに打ち出された欧米でのグリーン・エネルギー発電への投資促進策が見直されたこともありますが、より前向きの要素として技術コストが急速に下がったことがことが挙げられます。グリーン・エネルギーによる発電を成長分野と見る民間の投資は順調に流入しています。また、エネルギー企業以外の異業種からの投資も目立ちます。地球温暖化問題への関心が高まる中、温暖化ガスを排出しない代替エネルギー源として、風力や太陽光等の自然エネルギーへの期待は非常に大きく、今後は火力発電からグリーン・エネルギー発電への投資のシフトがいっそう進む可能性があります。
グリーン・エネルギー発電には様々な発電方法がありますが、とくに実用化の面で先行しているのが風力と太陽光です。その他にも、地熱、バイオマス、潮力、波力等、様々なエネルギー源の実用化が模索されています。中でも地熱発電は地中のマグマを熱源とするため、天候や日照等に影響されず、風力や太陽光に比べ安定した発電が期待できるというメリットがあります。すでに24カ国で1,000万kWが導入されていますが、火山国である日本でも大きなポテンシャルがある発電方法のひとつです。バイオマス発電は、間伐材、生ゴミ、家畜の糞尿等の有機物を利用した発電方法です。例えば、植物を利用したバイオマス発電の場合、燃焼時にCO2が発生するものの、植物が再生する過程でCO2を吸収するため、カーボンニュートラルであるとされています。
(1) 風力発電 *1
最も導入が進んでいるのが風力発電です。世界の風力発電の発電容量は2000年以降、年当たり20%以上のペースで拡大してきました。2012年はそのペースがやや鈍化し18.9%になりましたが、発電容量は約2.8億kWに達しています。これまでは、米国やヨーロッパでの導入が先行していましたが、最近は中国の伸びが著しく、2008年に世界トップに立ち、2012年には7,500万kWの風力発電能力を持つまでに成長しています。
最近は通常の陸上型の風力発電だけでなく、洋上風力が注目されています。洋上であれば騒音等の環境問題を心配する必要がなく、大規模なウィンドファーム(大規模集中風力発電所)を建設しやすいといったメリットがあるからです。例えば、英国では2020年までに合計3,200万kWの大規模な洋上風力発電の計画がありますが、これは同国の全消費電力の約3割にも相当するものです。アジアでは、中国が上海沖で建設した実績がありますが、今後、我が国を含めていっそう拡大していくものと予想されています。
*1 風力発電の基礎知識
風力発電は風の力を利用した発電方式で、風の運動エネルギーを回転運動の機械エネルギーに変換し、発電機で電力をつくります。回転運動以外に、風のエネルギーを振動に変換して電力をつくることも研究されています。風車の形式は、水平軸のプロペラ型やセイルウィング型のほか、垂直軸のダリウス型やジャイロミル型などさまざまなタイプがあり、新しい方法も研究されています。
風力発電は運転用燃料が必要なく、物価変動などの影響を受けにくいため、事業としてのリスクが減らせるほか、風力発電機は火力発電所などに比べ修理や点検が比較的容易であり、短期間に保守ができるとされています。最近では、地形や建物に影響が少なく、景観、騒音の問題もない、安定した風力発電が可能な洋上風力発電所が多く開発される中、浮体式洋上風力発電の開発や沖合で発電した電力を陸上へ送電する輸送技術も研究開発され始め、電力変動問題の解決も期待されています。
(2) 太陽光発電 *2
太陽光発電は、各国政府の政策面での後押しもあり、すでに100カ国以上で導入され急速に普及が進んでいます。太陽光発電で圧倒的にリードしているドイツでは、政府主導でエネルギーの多様化を推進するため、再生可能エネルギーの電力固定価格買取制度を導入しています。日本でも2009年より「太陽光発電の余剰電力買取制度」が導入され、2012年から「再生可能エネルギーの固定買取制度」がスタートし、普及に弾みがつきそうです。2012年の世界の発電容量は前年に比べ40%以上増加し、約1億kWにまで拡大しています。最近では世界各地で電力の卸売を目的とした大型のメガソーラー計画が実行されており、インドやタイでは、企業を誘致して産業の一大集積地を実現する計画を持っています。
太陽光発電の最大の問題は発電コストの高さです。これまでの普及は政府補助金に依るところが大きかったのですが、製造業の特性として生産数量が拡大するのに伴い製造コストの低下が見込まれるため、今後普及が進むにつれ、発電コストは低下することが期待できます。
*2 太陽光発電の基礎知識
太陽光をエネルギー源とし、屋根、壁などに設置する小規模なものから、広い敷地を利用した大規模なものまで、太陽電池パネルを利用して太陽光のエネルギーを直接電力に変換する発電方式です。発電部(セル)は可動しないため磨耗などの故障がなく、発電時の振動、騒音、排気も発生しません。太陽電池で発電した直流電力は、交流電力に変換する装置を使い、電力会社に送電したり家庭や会社で利用されます。太陽光のエネルギー量は1㎡当たり約1kWと巨大なエネルギーであり、しかも、枯渇する心配がありませんが、気候条件により発電出力が左右されること、導入コストが次第に下がってはいるもののコスト低減が現在の課題です。太陽光発電の普及によりコストダウンが図られるとともに、蓄電技術の進歩やスマートグリットなどの総合的な対策や進展が期待されます。
地球上のクリーンエネルギー源の比較
エネルギー量 | ||
---|---|---|
水 力 | 毎秒 | 5億Kcal |
潮汐流 | 毎秒 | 7億Kcal |
地 熱 | 毎秒 | 77億Kcal |
風 波 | 毎秒 | 880億Kcal |
太陽光 | 毎秒 | 420,000億Kcal |
(3) 地熱発電 *3
地熱発電は、地中のマグマを熱源とする水蒸気で発電するため、天候や日照等に影響されず、風力や太陽光に比べ、安定した発電が期待できるというメリットがあります。すでに米国、インドネシア、フィリピン等で1,140万kW(2012年)が導入されています。特に日本のような火山国にとっては有利なエネルギー源であり、我が国では2,000万kWのポテンシャルがあるとも言われていますが、もっともポテンシャルの高い米国では現在の300万kWから2025年には3,000万kWに、世界第2位のインドネシアは100万kWから2025年に950万kWまで引き上げる計画です。また、地熱発電は、これまで主に火山国を中心に開発が進められてきましたが、最近、水温が100度前後の熱水でも発電可能な技術が確立されてきていることから、開発できる対象地域・国が広がり市場の拡大が期待されています。
地熱発電は、日本の技術力が活かせる分野でもあり、日本メーカー3社で発電設備の世界シェアの8割を有していると言われています。
*3 地熱発電の基礎知識
地球のマグマにより地球の内部で生成され、蓄積された熱エネルギーを利用した発電方法です。地熱には、地下深部から上昇してくる熱水による「対流型地熱資源 」と、熱水の上昇がなく熱伝導による「高温岩体型地熱資源」があり、現在、地熱発電が行われているのは、「対流型地熱資源」が中心です。但し、資源量としては「高温岩体型地熱資源」の方がはるかに多く、この利用技術が研究されているところです。
天然蒸気を用いてタービンを廻して行う発電は、通常1000mから3000mの深さから熱水や蒸気を取り出し、蒸気を利用してタービンを回し、発電機で電力をつくります。火力発電より温室効果ガスの発生が少なく、燃料を必要としない点、燃料の枯渇や高騰の心配が無い点で、優れたエネルギー源とされています。また再生可能エネルギーの中でも、出力需要に応じて安定した発電量を得られる地熱発電は、電力供給の基本電源としての利用が可能である利点があります。
グリーン・エネルギー発電ビジネスは比較的新しい事業分野であるため、明確な業界リーダーがおらず、多くの企業が群雄割拠している状態です。太陽光パネルでは、トップシェア企業が相次いで経営破たんするなどし、2010年に約250社あった関連メーカーが2013年には150社程度に減っています。風力発電も含めて、今後市場が成熟する過程でさらなる企業の集約化が進むと考えられます。新興国企業が大きな存在感を持つのも特徴的です。例えば、太陽光パネルでは、複数の中国企業がすでに一定のシェアを持っています。また、エネルギー企業以外の異業種からの参入も目立っています。グーグルは、自社のデータセンターの運営で大量の電力を消費することもあり、風力、太陽光、地熱等、様々なクリーンな電力の調達を行っています。こうしたことから、グリーン・エネルギー発電事業では、業界リーダーとして生き残る優良なパートナーの見極めがひとつの鍵になりそうです。
3. 商社の海外グリーン・エネルギー発電事業への取り組みの加速
商社は従来から海外における電力事業を主力分野のひとつとして手掛けていますが、最近は太陽光、風力、地熱等のグリーン・エネルギーによる発電事業にも積極的に参画しています。この背景には、グリーン・エネルギー発電が成長分野であることに加え、従来の商社ビジネスの延長線上にある事業領域のため、これまで培ってきたノウハウやネットワークを活かしやすいのも大きな理由です。
商社のグリーン・エネルギー発電ビジネスへの投資は、発電システムの設置・販売から発電所の運営・管理に至るまで、非常に多岐に渡ります。また、地域別では、電力需要が急激に拡大している新興国だけでなく、環境に優しいグリーン・エネルギーへのニーズが高まっている先進国も重要なマーケットです。例えば、太陽光発電では、米国、スペイン、タイ等においてメガソーラーの開発を行っています。風力発電では、米国における世界最大級の発電事業への参画の他、中国の内蒙古やアフリカのナミビア等、世界各地で事業展開しています。また、風力発電事業の開発を行うためのファンドの設立にも関わっています。地熱やバイオマス発電においても、世界各地でプラントの建設に関わる等、多様な事業形態や地域を組み合わせた最適なポートフォリオの構築を目指しています。
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