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「スマトラ島初の大型地熱発電プロジェクトに挑む」(住友商事/ウルブル地熱発電所建設プロジェクト(インドネシア))


電力EPC第一部電力EPC第二課
課長 金子智明氏

「住友商事は、それまでにもインドネシアで地熱発電ビジネスの実績を積み重ねてきていましたから、『新規のプロジェクトは必ず取る』という気持ちを常々持っていました。入札現地調査の折、ただ斜面が広がっているだけの現場を目にして『これは大変なプロジェクトになるかもしれない。しかし、何としても受注してここに我が社が発電所を作るんだ』という想いを強くしました」。

2012年10月にインドネシア・スマトラ島で完成したウルブル地熱発電所建設のプロジェクトマネジャーである住友商事電力EPC第一部電力EPC第二課課長の金子智明さんは、整地もされていない現地に立ったときのことをこう振り返る。

住友商事は2000年にその第一号機が完成したワヤンウィンド発電所を含めて既に多くの地熱発電プロジェクトを手掛けてきていた。また、金子さんはこのウルブルプロジェクトの構想が浮上した頃には、すでに地熱発電ビジネスに携わっていて、その後6年間のインドネシア駐在を経て現職に就いたという経緯があった。立場は変わっても数年越しでインドネシアの地熱発電、そしてウルブルプロジェクトにかかわって来ただけに、その想いには人一倍強いものがあったことだろう。

世界の地熱発電用タービン市場をリードする日本メーカー

地熱発電は、地中から地熱によって生成された水蒸気を掘り出し、それを利用して発電機のタービンを回して電力を発生させる。その大きな特徴は、半永久的に安定供給できる再生可能エネルギーであるということだ。マグマが地下水を加熱するので化石燃料を必要とせず、二酸化炭素(CO2)排出量は火力発電の20分の1程度に過ぎない。また、火力や原子力で必要となる水蒸気をつくる大量の水も必要としない。さらに、太陽光や風力と異なり、天候や季節、昼夜といった環境要因に影響されることなく24時間365日安定した供給が可能である。このため、数ある再生可能エネルギーの中でも環境に優しく、信頼性の高い発電形態と考えられている。

発電の方式は大きく二つに分けられる。ひとつは水蒸気を直接、タービンに送り込んで回す蒸気発電方式で、これは地中から吹き出すのがほとんど蒸気だけの場合、それをそのまま使ってタービンを回すドライスチーム方式と、熱水と蒸気が混ざっている場合に気水分離器を使って取り出した蒸気を使ってタービンを回すフラッシュサイクル方式に分かれる。もう一つは、熱水を利用して沸点の低い媒体を使い高圧の蒸気を作りタービンを回すバイナリー(熱交換)方式である。

フラッシュサイクル式

バイナリーサイクル方式
出典:資源エネルギー庁/HP「地熱発電の仕組み」より

蒸気だけが発生するケースはそう多くなく、またバイナリー方式は蒸気発電方式に比べて建設および運用コストが高いことなどから、現段階ではフラッシュサイクル方式が世界の主流になっている。

そして、そのフラッシュサイクル用の地熱蒸気タービンの分野では、日本の重電メーカーが設備容量ベースで世界の約8割のマーケットシェアを占めている。地下の天然蒸気には様々な不純物や重金属(腐食性物質)が含まれており、地熱発電には耐腐食性やスケール(パイプやボイラー内部につく湯あか)対応などに優れたタービン製造が求められる。この点で日本の重電メーカーは技術・ノウハウ共に世界を大きくリードしている。