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「スマトラ島初の大型地熱発電プロジェクトに挑む」(住友商事/ウルブル地熱発電所建設プロジェクト(インドネシア))

出張する社員に託したリーダーの想い


小泉章子氏

小泉章子さんが現地に出張したのは完成の1年ほど前。さまざまな遅れがはっきりしてきて現場は一番大変な状況になっていた。PLNとのミーティングや内部調整のための打ち合わせがひっきりなしに行われている時期だった。「現場が目の前のことで手一杯になっているのに会計面での確認事項などを切り出さなければならず、本当に大変なときに来てしまった」と思ったという。

さらにこのとき、小泉さんは金子さんからもうひとつの役目を託されていた。それは、工事が終盤を迎えるにあたって遅れを取り戻し納期までに何としても完成させるという意思を再認識してもらう、現地の気持ちを切り替えてもらうといったことだった。そこにはプロジェクトマネジャーである自分が正面切って言うと角が立ちそうなことを若い担当者から伝えさせようという金子さんの思惑があった。小泉さんは、何てことをやらせるんだろうと思ったというが、それでも「私が話したのは『頑張りましょう』くらいのことでしたが、皆さんの肩の力が抜けたというか、雰囲気が和んだような気はします」というから、金子さんの狙いは当たったようだ。

「時間との戦い」を乗り越えて得た達成感

発電所の建設だけであれば約2年半という工期は決して短くはないが、整地のための土木工事から行ったうえ、担当外の集蒸気システムの遅れを吸収する必要にも迫られ、プロジェクトはまさに「時間との戦い」だった。

プラントの据え付けが終わり試運転の準備に入る段階になって、金子さんは初めて現地を見たときの「何としても受注してここに発電所を作るんだ」という決意を思い起こすとともに、「日本製品を活用して発展途上国の人たちの生活の向上に役立てることの喜び」を実感していたという。そこには「時にはケンカすれすれの激しい議論をして本音をぶつけ合うことで困難を乗り越えて、表面的な取引だけではない、本当に血の通ったプロジェクトを実現することができた」という達成感も含まれていた。


加速するインドネシアでの地熱発電開発

ウルブル地熱発電所が完成したことにより、住友商事がインドネシアで携わった地熱発電所は8件となり総容量は640メガワットに達した。これは同国で稼働している地熱発電所の全設備容量約1,340メガワットのほぼ50%を占める。

とは言え、インドネシアはアメリカと並ぶ世界有数の地熱エネルギー保有国で、そのポテンシャルは2万7,000~3万メガワットとも言われているから、現在の発電への利用率は5%弱に留まっている。そこでインドネシア政府は、先に触れた2010年に打ち出したエネルギー政策、第二次クラッシュ・プロジェクトのなかで、豊富な地熱エネルギーの早期開発・有効利用を目的に、地熱発電設備容量を2014年までに約4,000メガワット、2025年までに9,500メガワットへ引き上げるという目標を掲げた。

4,000メガワットというのは現状の3倍以上の水準だ。金子さんは「発展途上国ではスローガンを掲げても実体がついて来ないことが往々にしてありますが、インドネシアの関係者からは、2014年という具体的な時期はともかくとして地熱発電の大幅な増強を実現しようという強い意気込みが感じられます。期待を込めてという部分があるのは確かですが、時間はかかっても実現は可能だろうと思っています」と話す。

地熱発電事業そのものへの参画も

今後、開発のスピードを上げて行くうえで大きなハードルとなるのが、地下から水蒸気を取り出すという、言わば「入り口部分の開発」での技術的・資金的な問題だ。厄介なことに地下にどの程度の水蒸気があるかは、実際に井戸を掘ってみなければ確認できない。そして井戸を1本掘るためにかかる費用は5億円とも10億円とも言われている。

資金面では、独立系民間発電事業者(IPP)を活用して開発を進めることが一つの方策として挙げられる。しかし、同じハイリスクでも「資源」としてどこにでも販売できる石油やガスの開発はハイリターンが期待できるのに対して、売電という形で事業採算をとるしかない地熱の開発はミドルリターンにならざるを得ないという側面がある。

このため、インドネシア政府は税制や買取価格の面での優遇など、民間企業が地熱発電事業に参入しやすいような環境整備を進めている。金子さんがインドネシア政府から感じた「強い意気込み」はこうした部分に具体的に表れている。

そして、住友商事は2012年3月、それぞれフランスとインドネシアのエネルギー大手企業であるGDFスエズ、スプリーム・エナジーとともにスマトラ島の2カ所で合計440メガワットを目指す世界最大規模の地熱発電事業に参画し、PLNと30年間の長期売電契約を結んだことを発表した。これには、金子さんのチームをはじめ、長年にわたってインドネシアの地熱発電建設に携わってきた住友商事の実績とネットワークが活かされていることは言うまでもない。