韓国―近くて身近な国へ―

長瀬産業株式会社
スペシャリティケミカル事業部 エレクトロニクスケミカル部統括
前 韓国長瀬株式会社 社長)

伊藤 富隆

はじめに

 私が韓国に赴任した1998年7月当時は、IMFショックの真っ只中でした。今では考えられないくらい車の数も少なく、ソウルの町全体が重い空気に包まれているようで、フライトの予約は前日であっても、いくらでも席がありました。しかし、最近は車の渋滞が激しく、例えば、ラッシュ時に漢江を渡る場合には、どのくらい時間がかかるか、計算できないほどです。

 今年2月に帰任するまでの3年6ヵ月の駐在期間には、経済問題では、金融機関の大幅な整理統合、大宇グループの倒産、現代グループの解体、2ケタに及ぶ急激な経済回復などがありました。また日本と韓国の間も韓日ワールドカップの共催の決定、歴史教科書問題など、いろいろな出来事があり、まさに韓国社会全体が大きく揺れ動いた時期でした。限られた短い期間の、少ない経験でしたが、ワールドカップ共催で、さらに身近に感じられるようになった韓国の一端をご紹介させていただきます。

簡単に韓国を紹介すると

 韓国語の文法はほぼ日本語と同じで、発音は日本語にないものもありますが、中国語ほどの差異はありません。漢字は最近まで規制がありましたが、また多く使われ始めています。苗字は約250種でほぼ1字。金(キム)さんと李(イ)さんが全体の約35%を占め、人が3人集まればその中の1人は金さんか李さんです。人口は5,000万弱で、その20%がソウルに集中しています。

 産業構造は日本と同じ輸出依存型の経済で、車、電子部品、電子機器、造船、化学製品が主力商品と、これもほぼ日本と同じです。過去10年は日本に追いつき追い越せでしたが、造船、半導体のDRAM、液晶パネルではすでに日本を追い抜き、生産量は世界一です。

和らいできた対日感情

 距離的には一番近いのに、なかなかその距離が縮まらない国が韓国です。残念ながら韓国で国別の人気投票をすれば、いつも一番嫌いな国は日本になります。これは歴史的な問題も含んだ近親憎悪に近い感情だと思います。しかし、似ているからこそ理解しやすいし、また固有の似ていないものをよりよく理解しあうことで、より近い間柄になると思います。

 最近、過去の歴史を知らない若い人たちの間では、日本文化に触れることも多く、やっと対日感情が和らいできた兆しが感じられます。韓日ワールドカップをこの流れを推し進める大きなターニングポイントにしたいと、両国の多くの人たちが期待をしています。昨年は教科書問題、靖国神社参拝などが政治問題にされてせっかくの流れに竿をさされましたが、韓日友好の流れはもう止められないと感じています。

 韓国の人たちは個人的に付き合えば本当に気さくで、親切な人が多いのですが、会社レベル、国レベルの問題になればまた別な感情が働きます。例えば、ビジネス上のトラブルも、解決するのに日本的な判断基準ではなかなか前へ進みません。また、政治的な問題が発生すれば、エキセントリックな行動を起こす人たちが多いことも事実です。これは過去50年間、日本は悪いという教育をしてきたのですから、仕方のないことだと思います。私はこれをいいとか悪いとか議論したいのではなく、50年という時間を克服するにはそれ相当の時間と努力が必要だと考えています。私の場合、実際に韓国で生活してみて、初めて韓国という国を少し理解でき、素直に韓国が好きだと言えるようになりました。

韓国料理の真髄は湯(タン)

南大門市場の食堂の前
メニュー見本と豚の頭
南大門市場の食堂の前
メニュー見本と豚の頭

 韓国には仏国寺、水原城など世界文化遺産に登録された歴史的建造物、青磁に代表される陶磁器などの美術工芸品、韓国独特の歌舞音曲など世界に誇れるものが多々あります。しかしこれらについては、よくご存知の方もたくさんいらっしゃいますので、その方面はそういった韓国通の方にお任せするとして、私は、私自身が人一倍関心のある食べ物を中心に韓国をご紹介したいと思います。

 日本人は韓国料理と言えば、すぐに唐辛子とニンニクをイメージしますが、唐辛子は15世紀、日本から伝わったものだそうで、そう歴史の古いものではありません。したがって、宮廷料理いわゆる韓定食は辛くありません。他にも辛くないおいしい食べ物は多くあります。しかし食べ物の中でニンニクの入っていないものは白米ぐらいで、ニンニクの苦手な方は韓国では生活ができないでしょう。また、ビビンパップに代表されるように、なんでも混ぜて、その混ざったハーモニーを楽しむことがあげられます。日本人は個々の味を大切にし、それぞれの本来の味を料理の基本にしていますが、これも文化の違いだと思います。

調理するアマジュ(おばちゃん)フライパンでパジョン(ネギがたっぷり入ったお好み焼き)を作っている
調理するアマジュ(おばちゃん)
フライパンでパジョン(ネギがたっぷり入ったお好み焼き)を
作っている

 焼肉、キムチも韓国の代表選手としてのイメージがありますが、私は韓国料理の真髄は湯(タン)すなわちスープにあると思います。ソルロンタン、サンゲタン、トガニタン、スンドッブ、テンジャンチゲ、チョンゴクチャン、ウゴジタン、ユッケッジャン、チュオタン、カムジャタン、コムタン、ポーシンタン等々、本当にいろいろな味(肉類、海鮮類をベースに単品の味もありますが、野菜味とのマッチングが楽しい)のスープが楽しめ、全部紹介しようと思えば本が一冊できるくらいです。


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