香港事情
  鎌田 昌利(かまだ    まさとし)
長瀬(香港)有限公司
COO
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鎌田 昌利 氏

1.はじめに

世界一長いヒルサイドエスカレーター
世界一長いヒルサイドエスカレーター
私が2004年に香港に赴任して2年半が過ぎますが、香港経済は中国の2ケタ成長に支えられ、活況を呈している状況が続いています。過去、シンガポールで6年間の駐在経験がありますが、その当時のシンガポールと比較して、中国市場を直接テリトリーとしている香港のスピード感とダイナミックさは本当に驚くばかりです。そして返還前の汚い雑然とした街の風景とは違い、最近の香港は観光を意識してか本当に奇麗になったと感じていますが、昔の香港をよく知っている方の中には、風情がなくなり面白みがなくなったと嘆く方もいらっしゃるようです。地理的にもASEANと東アジアの中心である香港は、中国とASEAN経済の橋渡し役、アジアの中心として、一層発展することが期待されています。今回はさまざまな香港の魅力について簡単にご紹介し、皆様に香港の魅力を感じていただければと思います。

2.香港について

九龍地区の旺角 人口密度は世界一?
九龍地区の旺角 人口密度は世界一?

露天が立ち並ぶ女人街
露天が立ち並ぶ女人街
香港は日本人にとって非常に身近な観光地であり「A級からC級までそろったグルメ天国」「クレージーセールと称されるショッピング天国」といった魅力が観光客を引き付けてやみません。ご存知のとおり香港はほかの中国の都市とは異なり、その歴史は非常に若くかつ英国の植民地という複雑な経緯をもって現在に至っています。アヘン戦争後の1842年、南京条約により清から英国に割譲され、それ以降は英国の植民地として(途中、第2次世界大戦中の日本統治時代もありましたが)東南アジアにおける交通、金融、流通の要所として栄えてきました。そして1997年7月1日に香港は中華人民共和国へ返還され、特別行政区として新たな歴史のページが刻まれましたが、その直後の金融危機や、記憶に新しいSARS(重症急性呼吸症候群)の流行などのさまざまな困難に見舞われており、香港はその歴史が始まって以降、常に激動の波にさらされていると言っても過言ではありません。しかしながらそのような環境でも、たくましく生き抜いていく香港人のバイタリティーを日々の生活から感じ取ることができます。
 一口に香港と言いましても、訪れたことのない方にとっては地理的に一体どういう構成をしているのかイメージがわかないことと思います。香港の中心部は、香港島、九龍(ガウロン)地区、新界地区と大きく3つの地区に分けることができ、その他200余りもの島々を含み、香港特別行政区を形成しています。香港島は商業、金融の中心としてその歴史が始まった時から繁栄を続けており、海岸沿いに立ち並ぶ超高層ビルの摩天楼は圧巻です。夜はその姿を100万ドルの夜景に変え、香港を訪れるものの目を楽しませてくれます。その華やかな姿を見るたびに、ここが東アジア随一の金融、商業の中心地であることを感じずにはいられません。九龍地区は香港島に並ぶ香港の繁華街の一つですが、香港島が金融の中心地であり西洋的、先進的な雰囲気が強いのに対し、ここ九龍地区はそれよりもローカル色が強い雰囲気を持っています。目抜き通りであるネイザンロードの両脇には、道路に突き出した派手なネオン看板がきらめいており、100万ドルの夜景とともに有名な香港の一景色を楽しむことができます。また偽物、安物、玉石混淆なんでもありの(もちろん香港政庁は取り締まりに躍起ですが、実情はいたちごっこ?)ナイトマーケットもこの九龍地区に立ち並んでいます。

3.多彩なグルメ

海鮮料理屋台
海鮮料理屋台
先ほど香港の魅力の一つがそのグルメにあると紹介した以上、もう少しその魅力について話さなければなりません。その魅力は「多彩なバラエティ」にあるのではないかと思います。つまりさまざまな「各国料理と値段のバラエティ」が存在しているのですが、そのすべてが美味であるというところが香港をグルメの聖地と言わしめている所以でしょう。ご存知のとおり中華料理と言っても広東(カントン) 潮州 (チャオチョウ)・四川・上海・北京・台湾・客家(ハッカ)料理等々ありますが、これらすべてかつ一級品を香港で味わうことができます(ただし残念ながら、本場の一級品をすべて味わったわけではないのですが)。また、高級ディナーのみならず、香港と言えば庶民の味、飲茶の本場です。平日、休日問わず、昼食時にはどこの飲茶店もお客でいっぱいになります。 家族や会社の同僚と会話を楽しみながら、また新聞を読みながら一人飲茶をする香港人の姿も見受けられ、これぞ香港の昼食風景といったところです。最近はワゴンで点心を運んでくれるところは少なく、客自らオーダーシートに書いて注文する方式がメインになってきており、われわれ駐在員も慣れないうちはオーダーシートに書かれた漢字名で点心を想像するしかなく、時に全く予想外のものを頼んでしまうはめになります。また街中には「 茶餐廳 (チャーチャンテン)」と呼ばれる軽食屋がいたるところにあり、ワンタンメン、お(かゆ)、変わったところでは出前一丁(まさにあのインスタント(めん)!)が香港では立派なメニューとして確立されています。
安宿、インド料理などなんでもありの重慶大厦
安宿、インド料理などなんでもありの 重慶大厦 (チョンキンマンション)
治安は保証できない
そして中華のみならず、英国植民地の影響を受けているため食文化も欧米化されており、フランス・イタリア・スペイン料理等々のレストランも非常にレベルが高く、在住香港人、西洋人はもちろんのこと、われわれ日本人の舌をも楽しませてくれます。また、当地では日本料理も高い人気を誇っており、某有名料亭の支店や本格的な日本料理店が多数ありますが、一方で「日式」と呼ばれるローカライズが非常に進んだ(!?)日本料理店も存在しており、それらの店に間違えて入店してしまうと、およそ日本料理とは思えない料理を食べることとなりますので、日本の味が恋しくなった観光客の方はご注意ください。 そのほかにも、インド・ネパール・パキスタン料理など植民地時代から香港に根付いているエスニック料理や、タイ・マレーシア・インドネシア料理などの東南アジア料理も、日本にいる時より口にする機会が多くなります。ついつい食べ過ぎてしまうため、われわれにとって気がかりなのは、毎年の健康診断の数値であることは言うまでもありません。

4.中洋折衷文化

かつて旧日本軍政庁も置かれたペニンシュラホテル
かつて旧日本軍政庁も置かれたペニンシュラホテル
香港文化の特色はなんといってもその中洋折衷文化であることでしょう。多民族都市国家のように思われがちな香港ですが、実は人口の95%以上が漢民族であり、根本に流れる文化、思考は純然たる中華文化なのですが、いたるところで西洋文化の影響を受けており、その折衷具合がわれわれ日本人の目から見て非常に興味深く映ります。徹底した西洋的個人主義と中華的な拝金主義により、香港ではお金もうけと出世が最大の美徳になっています。また金色、赤色が縁起の良い色とされ、レストランやホテル、アパートは、ともすれば悪趣味になりかねないほどの中華風装飾がなされているのと同時に、中世欧州風の装飾もこれでもかと施されています(1年中、守衛がなぜかタキシード着用のアパートがあったりもします)。また祝祭日も春節(旧正月)、清明節、釈迦生誕節、中秋節といった中華文化に基づくものから、復活説(イースター)、クリスマスなど西洋文化に基づくものまでごちゃ混ぜ状態ですが、われわれからすれば祝日が増えるのでありがたいかぎりです。街中においては、順番待ちへの割り込み(特に地下鉄で降りる人にはお構いなしで乗り込んでくるのには辟易(へきえき))、(たん)吐き、ごみ・吸殻のポイ捨てなどのマナーの悪さと、西洋文化の影響を受けているのでレディーファーストが浸透していることや、地下鉄ではお年寄りに率先して席を譲る(これは儒教の影響?)などのマナーの良さが混在しています。また香港人は、植民地時代の名残でしょうか、西洋人が呼びやすいように皆、西洋風の名前を持っていることも中洋折衷文化の一例でしょう。

5.最後に

中国返還時にその存在意義に疑問が投げ掛けられた香港ですが、その予想に反し、かつてない好景気を迎えています。背後に控える経済的成長著しい中国華南地区への入り口として、香港は新たな役割を見つけ出したとも言えるでしょう。確かにここ数年で本土からの観光客が増え、街中では普通話を耳にすることが増えてきています。さまざまな面で香港は中国本土との結びつきを確実に強めてきていますが、これも商売上手でたくましい香港人が生きていくために選択した道なのだと思います。常に時代に翻弄(ほんろう)されながらも生き抜いてきた香港の地に根付いた文化を少しばかりでも皆様にお伝えできた機会に感謝し、筆を置きたいと思います。

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