2014年11月19日に開催された会長定例記者会見要旨

定例記者会見

2014年11月19日

前回ここで皆さんにお目に掛かってから特にこの2週間ほど、非常に大きな出来事や動きがあった。昨日、総理が記者会見を行い、消費税率の10%への引き上げを先送りすると共に衆議院の解散に踏み切るという表明があった。選挙の争点は、ここまで進めてきたアベノミクスへの評価、そして消費税引き上げを延期するということについて国民の信を問うということであると思う。

日本再興戦略ではいわゆる岩盤規制などの改革に取り組み始めたこの時期に解散・総選挙となるが、こうした改革の勢いをぜひ止めることなく進めていってほしい。また消費税増税については、短期的な景気対策と長期的な財政再建の双方を両立させていくことが必要であり、今後相応の景気対策を採りながら、昨日総理がおっしゃっていた2017年4月のタイミングでの10%への引き上げを実行していただきたい。

次に視線を海外に向けると、米国では中間選挙が行われ、共和党が上院、下院の双方で多数を制した。日米関係の重要さは超党派として理解されており、議会の勢力が変わったからといって直接の影響はそれほどないと思っているが、貿易業界としてはTPP交渉に弾みがつくことを期待している。APECに合わせて開催されたTPPの北京会合では大きな進展は見られなかったようであるが、今後の交渉を応援しつつ見守っていきたい。

そのAPECでは活発な首脳外交が展開され、3年ぶりに中国国家主席との日中首脳会談が開催された。会談自体は25分と短いものだったようであるが、まずは関係改善の第一歩として大いに評価できるものではないかと考えている。このほか日ロの首脳会談も実現し、また日韓の関係改善にも動きが見られ、日本外交は大いに前進したのではないかと思っている。やはりまずは顔を合わせること、人と人がつながり結び付くこと、これが重要であると思っている。

このように現在の世界情勢を見ると、さまざまな要因が交錯しながら前へ前へと大きく動きだしており、各国のかじ取りが試される重要な局面に入っている。国境を越えて相互依存を強めるグローバル経済の時代においては、1つの国の努力だけで持続可能な成長軌道にしっかりと乗せることは至難の業であり、各国とも連携、協調をより意識した政策運営を進めざるを得なくなっている。その意味でも、当会としてかねてから要望している通り、TPPを中心とするさまざまな経済連携を着実に推進していくことは非常に大切であり、引き続き関係各国の粘り強い交渉に期待をしているところである。またインフラシステムや品質のよい農林水産物など、日本が世界に誇れる分野は数多くあるため、官民連携により輸出を促進し、世界への貢献を強力に推進していくべきと考えている。商社業界としては精いっぱい尽力していきたい、そういう思いである。

商社の果たす役割と言えば、去る10月3日に当会主催で商社シンポジウムを開催した。外部から見た商社という観点からアナリストの方と有識者の方からもコメントをいただいたが、明確な投資戦略を持ち、投資した事業をしっかり運営していくことのできる経営人材の供給拠点となるべしと励ましの言葉をいただいた。まさにその通りで、これからもグローバルに投資活動を行い、投資先の経営をしっかり担っていける経営者を育てていこうという思いを新たにした。

私からは以上です。

質疑応答

(記者) 選挙の争点はアベノミクスへの評価や再増税見送りへの評価というご発言があったが、解散の大義がここにあるという見方をされているのか伺いたい。また、解散によって政治空白がつくられ、TPPなども交渉が長引く可能性があるということについて、その影響をどのように見ているか伺いたい。

また、TPP交渉との関係では、米国議会で共和党の勢力が増したことで自由貿易に追い風が吹くのではないかという見方もあるが、交渉において、日本側に必要な点、米国側に求める点があれば伺いたい。

(会長) 解散そのものについては、熟慮の結果、重い決断をされたということであると思う。アベノミクスが今どのような動きをしているのかという判断と、デフレ脱却を確かなものにするのだという思いで解散に打って出られたわけであり、国民としてはそれをどのように評価するかということであろうが、ここまで来ているモメンタムをもっと強めていただき、日本をあらためて内外に誇れる強い国にしてほしいという思いである。

TPP交渉に対しては、おそらく影響はほとんどないのではないかと思う。交渉官の方が非常に緻密な交渉を行っており、米国も日本もそれなりの政治決断が必要になることは間違いないと思うが、選挙によって交渉に遅延が起こることは想定しなくて良いのではないか。

TPPに関しては、今いろいろな議論がなされており、早く決着させようという流れの中で、米国議会において今度は共和党が主導権を握ることになる。共和党は自由貿易を進める姿勢を示しており、その意味ではTPPに関する大きな障害はないと思うが、個々の争点に関してどの程度の自由化を求めてくるか、様々なケースがあるかもしれない。我々は今そこまで知る立場にはないが、そのような点がこれからの交渉の中で出てきたときに、日本として政治的決断も含めて決心しなければならないタイミングが来るかもしれない。ただ、共和党は自由貿易の重要性を主張し続けてきており、状況としては少なくとも向かい風ではないということは確かであると思う。

(記者) 消費税の再増税の実施について、選挙を行い国民の信任を取るまでして先延ばしすべきだったのか、それとも、法定通り2015年10月で進めるべきだったのか、経済情勢を踏まえて伺いたい。

(会長) 財政再建は日本の非常に重要な命題であり、これをきちんと進めることが世界に対して日本への信頼を高めることになる。財政をもっと強くしていくためには、どうしても増税は避けられないと認識している。

ただ一方で直近の7月から9月のGDPがマイナス成長になると予想した人はほとんどいなかったわけであり、増税による日本経済そのものに対するダメージが半端ではないという印象を受け、先送りに関しては理解せざるを得ないという感もある。いつ再増税するのが適切なのかということに関しては、2017年4月という明確なメッセージが出ており、それを確実に実行していくことが、日本の財政再建や日本が世界からの信頼を得るということにおいて非常に大事であると思う。

(記者) 足元の景況感が予想に反してかなり悪かったことに対する当面の景気対策については、消費を刺激するような観点で検討されているようである。業界としてはどのような景気対策を望んでいるのか、また、アベノミクスの「第3の矢」、例えば、農業政策やエネルギー政策についてどのように評価されており、また、不足している点があるとすれば何かを伺いたい。

(会長) 今の日本全体を俯瞰したとき、特に米国との比較で、なかなか新しい企業が育たないということが課題として挙げられると思う。政府あるいは経済界も、リスクを取った資金がなかなか出てこないという観点から言及しているが、イノベーションや、イノベーションの延長から新しい事業を育てるような仕組みが必要ではないかと思う。また、1回失敗した人がもう1回チャレンジできる環境、あるいは学生がもっと将来に対して志を持ってチャレンジできるような仕組みをぜひ整備すべきであると思う。

当面推進すべき分野としては、観光が挙げられる。今年は約1,300万人の外国人旅行者が来日するとみられているが、東京だけですべてをマネージできるようなキャパシティーは無いため、全国津々浦々に来日客を誘導することが必要である。
農林水産業に関しても、1次産業だけですべてを賄うのではなく、2次、3次産業のいろいろな知恵を付加することによって6次産業化を成し遂げることや、特に林業関連では、バイオマスなど、地方で必要なエネルギーを地方で産み出すといった地産地消も含め、やるべきことは多い。

政府は、こうした諸政策を、明るい展望を持ちつつ、多くの人々を鼓舞しながら進めていってほしい。我々もお手伝いはできるし、しなければならないという思いである。

(記者) アベノミクスでは、円安や金融緩和の影響などもあって株高が進んでいるが、なかなか輸出が伸びず輸入が増え、結果として経常黒字は激減している。これについての政策評価と、長期的にこういう政策が続けられるものなのかどうか、どのタイミングで政策転換を図ればよいのか、お考えを伺いたい。

(会長) 雇用やインフレの指標がいろいろな意味で改善してきているのは確かであると思う。ただ、貿易赤字が増加傾向にある点は課題であると思う。現在の日本経済の構造を冷静に分析してみると、貿易黒字に向かうことが、これからは少し難しくなると思う。これだけ物づくりが日本から海外に流出すると、簡単に輸出が増えるという姿にはならない。

また輸入に関しても、特にエネルギー関連や食料原料の輸入など色々あることから、この面からも、貿易収支の黒字化はなかなか難しいという感じはする。ただ経常収支に関しては、これは我々商社業界も頑張らなければならないところだが、海外への投資からの収益をその配当を含めて日本に還流させ、経常収支黒字を拡大させることによって、日本のこれからの発展に寄与できるのではないかと見ている。

(記者) 円安が進む中で費用を増加させるようなインフレが起きているが、その一方で、GDPはマイナス成長となり、スタグフレーション寄りの状況、あるいはその入口にあるという見方もある。円安の為替水準も、経常収支を保つ上では海外からの所得移転ではプラスに働くが、貿易収支ではマイナスに働く。その点について、経常収支を黒字に保つために為替水準がどうあるべきとお考えか、お伺いしたい。

(会長) 為替そのものは我々がコントロールできるわけではないが、安定することが一番大事であると思う。現在の水準であれ、異なる水準であれ、為替が安定して、その安定した為替をベースに各企業が経営戦略をきちんと立てられることが非常に大事であると思う。

ただ、現在の状況からすると、円安というよりもドル高という表現が適切であると思うが、そういう環境の中でいろいろ苦労されている業界や企業もたくさんあるということは承知している。良いところがあれば悪いところも出るのは世の常であるため、時間をかけて調整しながら、弱いところを強くして、強いところはそれなりのものを生み出していく、そういう形で世の中のバランスが成り立つのだと思う。今日の段階で、良い悪いという議論をするのではなく、時間とともに為替が安定していく中で、各企業がもう一度経営戦略を立て直して、健康的な経営状態になるということが重要ではないかと思う。

(記者) 商社業界の中で資源分野の減損が起きているが、こうした現状についてどのようにご覧になっているか伺いたい。また、今後商社の資源分野の投資に対する重要性や投資方針に何か変化が出るようなことがあるのかどうか伺いたい。

(会長) 個々の会社で色々なご判断があるため、商社全般という視点で言及することはできない。資源分野への投資に関してはそれなりのリスクがあることを理解していたつもりだったが、そのリスクを再度認識したということは言えるのではないかと思う。
中国が大きく経済発展したため、それにリンクする形で資源価格が高騰した結果、色々な分野でビジネスチャンスが現れ、結果として利益が出たという側面はもちろんある。しかし、その一方で、色々な資源権益の価格は高止まりした。リスクに関しては、各社の判断でリスク分析、リスク回避策を取っているが、それでも弊社も含め減損せざるを得なかったという部分がある。

ただ、資源そのものはこれからの世界経済の発展に当然必要であり、人口が70億人から100億人へと増加する過程において、需要が減ることはないと思う。今後、資源価格がどのように推移するかは、色々な要因があるため簡単には申し上げられないが、個社の判断でリスク分析しながら、その会社の経営方針に基づいた対応をされていくということであると思う。おそらく商社各社も資源分野を忘れようという発想はないと思うし、引き続き全体のビジネス・ポートフォリオの中で資源ビジネスをやっていくということではないかと思う。

(記者) 安倍総理は次の春闘に関しても経済界に対して賃上げ要請をされると思うが、今年の春闘に続いて賃上げの余地があるのかどうか伺いたい。

(会長) 我々の商社業界という観点でお話しすると、この業界は給与体系が業績にリンクした形となっている企業が多い。だから業績が上がれば給料が増えるという、ある意味でのインセンティブが利いており、日本経済の景気がよくなり会社の業績がよくなれば、給料報酬も基本的に上がる。ほとんどの会社で組合ともそのような合意をしており、業績が良くなれば賃金も上昇することは間違いないと思う。

(記者) 岩盤規制に対して、安倍政権においては止まることなく進んでほしいと言われたが、会長も精通されている農業分野について、安倍政権の改革で評価できるところ、結果的にまだ十分に進んでないところがあれば、ご意見を伺いたい。また、岩盤規制の改革モメンタムを継続してほしいということであるが、過去の歴史からすると、解散・総選挙になると地方では選挙民に対して政策が非常にぶれることがあり得る。この点についての会長の期待や思いをお聞かせ願いたい。

(会長) 過去60年ほど続いている農協法にメスを入れていくことや、いろいろな観点で見直すという取り組みは非常に評価できると思う。この点に関しては、良い方向をぜひ見つけてほしいと思う。経済界は、農業界とも一緒に何かやっていこうということで分科会等もスタートしており、ぜひ1次産業の発展に寄与できればと考えている。

今回の1次産業に関連した一連の議論は、この分野に従事されている方がきちんとした報酬を得られるようにするためにはどうしたらいいかという点が中心にあり、その軸足さえぶれなければ、前後に多少色々な話があったとしても方向は非常にはっきりしていると思う。

また、農業を日本から無くしてはいけないということもはっきりしているし、農業の担い手が存在しなければならないことも分かっている。そして担い手を確保していくためには、それに見合った報酬が得られなければならない。課題ははっきりしているので、多少異なる意見が出たとしても、大きな方向性はこれからも変えられないし、変わらないと思う。

以上