2015年5月20日に開催された会長定例記者会見要旨

定例記者会見

2015年5月20日

早いもので今年も中盤に入って、後半に向けてあらためて気を引き締め直す時期になったと思う。そこでここ数カ月を振り返ってみると、ウクライナや中東での混乱が続く中で、欧州、中国はそれぞれに問題を抱え、またTPPなど国境を越えるグローバルな動きはなかなか進んでいないといった、非常に難しい状況にあるというのが実感である。

その一方で日本経済をみると、先ほど発表された今年第1四半期の成長率は2期連続のプラス成長となっており、徐々に明るさを増してきているのではないかと思っている。最近では、民間企業の賃上げや雇用増など経済の好循環につながる動きが出始めているので、本年後半にかけての景気の回復は大いに期待をしているところである。

このような環境の中で、今、日本がなすべきことは何かとあらためて考えてみると、やはり長期的な課題に対して真剣に、かつ、じっくりと取り組むことだと思う。具体的には、人口問題や地方活性化の問題であり、それらを解決していく手段として、日本再興戦略の着実な実行、TPPをはじめとする経済連携の促進、海外からヒト、モノ、カネ、情報が日本に流れ込んでくるような規制改革やインフラの整備などが挙げられる。

今の日本ではこうした改革を前へ前へと進めて、課題解決につなげていくことが必要であるが、既存の制度を変えようとすれば抵抗もあるし、新たな試みは思ったように進まないことも多い。そのようなときには極めてシンプルなことであるが、産学官を含めた関係者が一体となって知恵を絞り出すことが重要だと常日頃から思っている。

知恵を出すということは、従来とは異なる発想で物事を捉え、創意工夫を施していくということである。例えば、総人口の減少という事象をそのまま需要の減少に結び付けて致し方ないこととあきらめるのはたやすいが、知恵を絞り出すことで従来にはなかった新しい製品やサービスをつくり出し、新たな市場を立ち上げ、人口の減少と内需の拡大を両立させることもできると私は考えている。

また、人口の減少と高齢化の中での財政再建は、極めてハードルの高い課題ではあるが、これについても、例えば医療、介護の現場の効率を上げていくことに知恵を絞り出すことが求められている。このほか病気の方や重労働の作業者の方の動きを支援するロボットの開発や、省エネルギーの推進など、日本の課題といわれている分野において必死に知恵を出して強みをつくり出していくことが重要である。

当会のキャッチフレーズは「つなぐ世界、むすぶ心 ~新たな英知で世界に貢献~」というものであるが、まさに今、新たな英知が日本に求められており、関係者が一体となって真剣に取り組んでいくべきだと考えている。「課題先進国日本」が「ソリューション先進国」になれるよう、商社業界、貿易業界としても精いっぱい知恵を出していきたい。

私の方からは以上です。

質疑応答

(記者) 米国でTPA法案が近いうちに上院を通過するという話があるので、あらためて期待感と今の状況をどう読んでいるか、会長のお考えをお聞かせ願いたい。

(会長) 我々日本貿易会は、かねてから言っているように、貿易立国としての日本のポジションを高めていき、さらに次のレベルにいくためにTPPのような経済連携、経済協定が必要だと思っている。

これについて、TPPの話が日本貿易会で出たのは、ルース米国大使(当時)が2009年にお話しされたのが初めてだったと記憶している。それから、6年も経ってしまったが、これはいろいろな意味で非常に難しい折衝が続いてきた証拠だと理解している。ここまできたら何とか米国との交渉をまとめていただき、TPA法案が米国サイドで採決されたときには日本もすぐに動けるようにして、他の10カ国との交渉もできるだけ早く決着していただきたい。

(記者) 日本の1~3月のGDPは2期連続プラスになったが、民間予測よりも若干上ぶれしているところがあると思うので、会長の率直な印象をお伺いしたい。

また、日本経済を成長軌道に乗せていくために、政府のやるべきこと、民間のやるべきこと、それぞれ役割があると思うが、民間セクターとしてどういうことができるのか。逆に何が必要なのかをお伺いしたい。

(会長) まず1~3月の成長は0.6%だったが、この数字については、非常にリーズナブルな線であろうと思う。年換算すると2.4%になるので、この辺の数字をキープしていけば、かなりの成長が期待できるのではないかと思っている。

民と官で何ができるかについては、確かにいろいろ違った部分があると思うが、政官民が一体となってやる、これが今の日本の環境だと思うので、我々もいろいろなコミュニケーションを心掛けている。

特に最近感じているのは、東京周辺の経済状況はかなり良くなっている一方で地方が非常に苦労しているということである。なかなか先が見えてこないというのも事実であろうと思うので、我々としても、官、政と一体となって地方の発展に何ができるかをいろいろ考えていきたい。

これから選挙権が18歳に下がる中で、若い方が自分の将来を考えながら地方を見てくれれば新たな発想が出てくると思うし、東京にいて地方を論じるのではなくて、地方に出て地方の若い方と地方のこれからを論ずる、そのようなお手伝いをしていきたいと思っている。

また、我々商社としては、特にアジアを中心としたインフラ関連の需要をうまくリードして捉え、日本全体の発展につなげていきたいと考えている。

(記者) 海外経済は中国、米国も含めて少し伸び悩んでいるが、今後の日本の成長に及ぼすリスクがあるどうかについて、お伺いしたい。

(会長) これだけグローバルに経済が一体化していると、やはり海外のどこかで何かがあれば、日本もある程度の影響を受けるというのが現実だと思う。その観点からすると、なかなか先行きが見づらい環境ではある。

世界全体としては決して悪い状況にはないと思うが、米国の1~3月の成長率は思ったよりも低く、ブラジルもいろいろなことで安定していない。豪州も資源価格の低迷で何となくすっきりしないし、中国はニューノーマルという状況の中で、量から質への転換をどうするのかという問題がある。

一方、中近東ではISの問題があり、(ユーロ圏では、基本的に財政政策は国ごと、金融政策はECBが所管のため)欧州は財政と金融の分離の厳しさを今後も引きずっていくだろう。ロシアはウクライナ問題もあり、エネルギー価格の低迷で苦労している。

そうしたいろいろなことすべてが、日本の状況に関連してくる。アップ、ダウンいずれの影響もあろうが、それでも日本経済は結構堅調に動くだろうと見ている。

(記者) 来月にもAIIBの設立協定が締結される見通しになっているが、日本と米国は参加に慎重な立場を示している。このあたりの会長のお考えをお教え願いたい。

また、実際にAIIBが動きだせばいろいろなプロジェクトに利用されると思うが、日本がAIIBに入らない場合に、商社に限らず日本企業がインフラ事業に絡みにくくなるというようなことがあるのかどうか。その見通しについてもお伺いしたい。

(会長) アジアのインフラ・ニーズについては、これから10年間で約1,000兆円の市場があると言われている。こうした需要に対して、(日本として)しっかりと対応していくのは当然であり、我々もいろいろな形で当然関与してきているし、これからも関与していきたいというのが基本である。

AIIBについては難しいところがあるが、少なくともIMFやADB、JBICなどと共同歩調を取る必要があると思う。我々も、そうした(内外の機関による)大きな枠組みの中でやっていくことになる。AIIBへの参加国は中国を含めて57カ国になったが、もし我々から見ても納得できる透明性などがあるのであれば、政府も前向きに判断すると思う。

AIIBが我々のビジネスに直結するかどうかについては、今のところよく分からない。日本の成長、発展のためにビジネスをどのようにうまくナビゲートするかは、個々の商社、貿易関連の業者だけでなく、国としても大きな問題だと思う。ADBやJBICが、AIIBとどのように協業するかは、AIIBへの加盟問題とは別に考えていく必要があると感じている。

(記者) AIIBに関連して人民元についてお伺いしたい。人民元の国際化の議論も一方であると思うが、商社の貿易決済における人民元の割合はあまり多くないように思う。今後、これが進んでいくと見ているのか。実際に商社が決済していくに当たっての課題をお伺いしたい。

(会長) 今の世界貿易において中国のポジションが極めて大きいのは、周知の事実である。その意味で、特に近隣のカンボジアやラオスなどを中心に人民元の決済が進んでいることは聞いている。

一方で我々からすると、決済通貨としての信用力があるかどうか、きちんとした金融政策が行われているかどうか、透明性が確保されているかどうかなど、国際的な安心感、信頼感をどのように中国が得ていくかが肝心である。従って、商社も、ドルやユーロから離れて急激に人民元にハンドルを切ることはないが、人民元取引も増えてはいくと思う。

(記者) 学生の就職活動が本格化しているので、その辺の話をお伺いしたい。日本貿易会は学業の妨げにならないようにということで、率先して就活スケジュールの後ろ倒しに力を入れてきた。この8月から選考会が本格化するが、実際に後ろ倒しが始まって、現状をどのようにご覧になっているのか。

また、一部では指針に沿わないで内定を出す企業もあって、現場の混乱はまだ続いているようである。現場の学生と話をすると、実質的に3月から説明会などがスタートしていて、それに参加しないと内定が得られない、その先の選考に進めないといったようなことがあって、なおさらやりにくくなっているというような話がある。今回の制度変更は就職活動が長期化する一面を持っている、と言う人も多い。新しいルールでの混乱かと思うが、そういうことについてどう思われるかをお伺いしたい。

(会長) 今回の就活スケジュールの後ろ倒しは、学生生活にとってベターだという判断に基づき、日本貿易会、経団連が中心になって推進してきた。これまでの、1年以上の時間を就職活動に費やして勉強ができないという状況は改善していく必要がある。我々は当然、決まったルールの下できちんと動いているわけで、作ったルールは日本全国にきちんと伝えていきたいし、ルールを守らない企業があれば、それを守っていただくようにこれからもお願いしていくことになると思う。

ただし、(新しいルールで)多少混乱している部分がある、あるいは、就職活動が逆にやりにくくなっているという指摘については、我々もいろいろな声に耳を傾けて謙虚にレビューをしながら、対応を検討していきたいと考えている。

(記者) 2014年は資源価格、特に原油価格の急落があって商社各社は大きな減損を出した。今後の資源相場をどう見通しておられるのか、また、それに伴う損失の発生をどう見通しておられるのかをお伺いしたい。

(会長) 資源価格は、中国経済が量的発展から質的発展に変わっていくこととも関連する。その意味で全体の需要を考えると、簡単に資源価格が上がるという感じは持っていない。また、商社は各社とも減損を行い、今の状況に合わせた体制を組んでいると理解している。

以上