2015年9月16日に開催された会長定例記者会見要旨

定例記者会見

2015年9月16日

早いもので今年度も上半期が終わろうとしており、商社各社も年度後半に向けて、さらに勢いをつけていこうと張り切っているところである。ところがその一方で、海外に目を向けると目まぐるしい変化が生じており、先行きの不透明感が増してきている。記者会見のたびに目まぐるしい、あるいは激しい動きといったことを申し上げているが、決して大げさではなく、本当に変化の激しい時代を迎えていると実感している。

この2カ月を見ると、いったん収束したかに見えた中国の株価が再び急落、世界全体の株価もこれに影響されて大きく下落し、その後も不安定な状態が続いている。また人民元についても為替レートの決定方法を変更したことに伴って為替相場が大きく変動しており、中国経済の実情をどのように捉えるかということが、日本のみならず世界各国においても極めて重要になってきている。

そして、こうした世界経済の不安定な状況が新興国の通貨安を生み出している。また、中国における資源需要が減退していることも資源依存度の高い国々の通貨が売られる要因となっている。過去の通貨危機の経験を踏まえ、新興国のショックに対する耐久力は、総じて増してはいるものの、今後注視していく必要があると思う。

通商に関しては7月にTPP交渉の閣僚会合が開催されたが、残念ながら合意には達しなかった。米国大統領選挙前にTPPについて議会承認を取るというスケジュールを考えると、粘り強く交渉を続けていただき一刻も早く合意されることを強く期待しているところである。

他方、国内においては安倍総理が自民党総裁に再選されることが決まった。今、申し上げたように世界は激動の時代に入っており、国内に政治空白をつくることが許されない中、経済や外交において着実な成果を挙げている安倍政権の継続を歓迎したいと思う。

引き続き外部環境の変化に迅速に対応いただくとともに、将来を見据えた成長戦略の推進、地方創生の実現、通商交渉の加速など、切れ目のない政策遂行によって、日本を持続可能な成長軌道に乗せるようご尽力いただきたいと願っている。

続いて日本貿易会の活動について2点ご報告する。まず、10月16日に当会主催のシンポジウム、「商社ビジネス最前線」を開催する。有識者や現役の商社関係者をパネリストとして、「未来を拓く商社の“投資”」について活発に意見交換をする予定である。

商社ビジネスは分かりにくいとよく言われるが、このシンポジウムでは具体的な事例を通して活動内容の一端をご紹介していくので、記者の皆様には、ぜひご来場願いたいと思う。

最後に第11回日本貿易会賞懸賞論文の募集結果について報告する。今年度のテーマは「内なるグローバル化の推進」で、今年の応募総数は174点となった。これから厳正に審査し、12月に審査結果を発表する予定である。「内なるグローバル化の推進」について、斬新な提言を皆様に公表できることを楽しみに結果を待ちたいと思っている。私からは以上です。

質疑応答

(記者) 今年から就職活動のスケジュールが変更されたが、いろいろ議論が為されている。

経団連は10月に実態調査を行い、それを踏まえて見直しを行うことも選択肢の1つだと述べているが、短期間で制度が変わることが果たして良いのか、見直しを行う場合に、日本貿易会としてはどのように考えるのか。

(会長)  いろいろ議論が出ていることは承知しているが、我々は、学生、大学、企業と社会にとってバランスの取れた、必要で的確な就職・採用活動を議論し、提言した。いろいろな議論の進捗を見る必要があるが、基軸となるのは、学生、大学、企業、社会それぞれにとって良いものとなること。現時点では、我々は来年も同じスケジュールで進めたいと考えているが、経団連の調査結果において、現在のスケジュールに問題があるということであれば、改めて議論する必要があると思う。

(記者) 消費税10%への引上げに向けて、財務省が「日本型軽減税率」案を示した。この軽減税率案について、どのように考えているか。

(会長) 消費税を10%に引き上げたときの低所得者層への影響を考慮することは非常に大切である。誰にでも分かりやすいということが重要であり、手続きが簡便であるかどうかといったことも考えながら、より良い方法を探ることが肝要と考える。

(記者) 中国経済の不透明感が増してきているが、商社業界は、今後の中国への投資で考慮すべきことをどう捉えているか。例えば投資方針や投資分野に変化が表れてくるのか、またASEANやアフリカなどと比べて中国の重要性はどのように変わってくるのか。

中国の株価が大きく変動しているが、経済の実態面で商社業界にどのような影響が出ているのか。

(会長) 商社業界、あるいは日本の産業界全体にとって中国が極めて重要な市場かつパートナーであることは明確であり、中国の今後の成長に期待するところは大きい。中国では第1次産業、第2次産業、第3次産業の成長が複雑なまだら模様になっており、第1次産業の今年上半期の成長は3.5%前後で、製造業もおしなべて低調だと言われている。その中でサービス産業の成長が8%強となっているので、全体では約7%と考えられる。地域別では東北三省などで景気が低迷しているが、西部地域や沿岸地域は堅調であり、産業分野や地域によって極めて状況が異なる。商社は中国と幅広くビジネスを展開しており、注力分野の選別等が求められると思う。

中国は13億人強の人口を有し、個人所得も増加している。生活消費分野ではおそらく成長が続くであろう。その一方で、鉄鋼業界では約10億トンの生産能力に対して約6億トンの実需に留まるため、約3分の1が過剰設備、過剰供給になっていると聞いており、今後いろいろな調整があると考えられる。世界120数カ国の最大の貿易相手国は中国となっており、中国経済が順調に推移することが世界経済にとっても望ましい。

一方、中国の株価は乱高下しているが、株価だけを見て中国経済全体を判断するのは非常に難しい。中国ビジネスは多少混乱している部分もあるが、中長期で見ると13億人がより良い生活とより良いインフラを求めている。したがって、1~2年の期間で見れば、しっかりした動きに回復すると考えている。

(記者) 米国が利上げした場合の商社業界や世界経済に与える影響と、利上げされなかった場合の影響についてどうお考えか。

(会長) どこかのタイミングで米国の利上げは行われると思うが、世界経済が混乱している今のタイミングは、難しい時期なのではないか。今は、世界中で資金が動いており、特に新興国を中心に資金が吸い上げられる状況になっている。更に為替相場が非常に不安定になってきているので、新興国は大きなダメージを受けているのではないか。日本はインフラ輸出をグローバルに展開することで経済の活性化を企図しているが、新興国でのビジネスチャンスがどうなるか心配される状況にある。

(記者) 米国でイランに対する制裁解除に向けた動きが進んでいるが、あらためて日本貿易会としてイランに対する期待など、今後の動きについてどうお考えか。

(会長) イランは約8,000万人の人口を抱え、知性豊かな人々が活躍し、日本に非常に良い印象を持っている人も多い。制裁が解除されたときには、イランは日本の非常に良いビジネスパートナーになると思う。その意味で、今回の米国の動きは歓迎するもので、ぜひイランとの関係をより深くしていきたいと思っている。

(記者) 安全保障法案は、週内の成立が確実視されているが、大規模なデモなども発生している。また米国高官などから歓迎する声がある一方で、アジアを中心に懸念する声も聞かれる。この点についてはどうか?

また、東南アジアや米国の反応も踏まえて、商社業界、あるいは日本経済に対して影響があるか。

(会長) 安全保障法案の成立がビジネスに対して与える影響はほとんどなく、少なくとも悪い方向に動くことは想定できない。経済界は、中国、韓国も含めて各国の経済界と良好な関係を構築できているので、経済関係の面での問題はないと思う。

(記者) 経団連の委員会で、武器輸出を推進する提言が決定された。今年10月から防衛装備庁が発足する動きなどもあるが、これらに対する評価を伺いたい。

また、商社業界として、どのようなビジネスの展開が考えられるか。

(会長) 日本貿易会において武器輸出を議論したことはない。武器輸出に関するビジネスをどのように判断するかは、個社で議論していると思うが、やはり政府の方針や国際環境を勘案しながらの判断になると思う。

以上