2015年11月18日に開催された会長定例記者会見要旨

定例記者会見

2015年11月18日

早いもので今年も残すところあと1カ月強となり、記者の方々との会見は今回が今年の最後となる。

少し早いが、簡単にこの1年を振り返ってみると、例年以上にいろいろなことがあったとあらためて感じている。

貿易投資関連では、やはり我々としてはTPP協定の大筋合意に非常に注目している。これから各国において批准の手続きに入るが、TPPは貿易のみならず、さまざまな経済活動に関する国際的なルールの基盤となるものである。今後、早期の協定発効、さらには参加国が増加して、将来的にはFTAAPへと拡大し、環太平洋経済圏が文字通り共存共栄していくことを強く願っている。

次に、世界情勢については厳しい1年であったと思う。特にシリアを中心とする中東地域において戦闘や混乱が続いており、それが大量の難民の発生や、さらにはつい先日に起こった非常にショックであるパリにおける同時多発テロ事件など、相次ぐテロ攻撃にもつながっている。

また経済面では、先進国、新興国を問わず、総じて経済成長のスピードが減速、資源需要は低迷、価格は下落し、一部の新興国では通貨が大幅に下落するなど、各国政府とも金融財政政策のかじ取りに苦労する状況となっている。このような環境下では、貿易、投資活動が弱まることがないように、グローバルな視点での国境を越えた連携や官民を挙げた活動がこれまで以上に重要になっていると思う。

日本の外交では、戦後70年という節目の年に当たりさまざまな動きがあった。4月には安倍総理が訪米され、日本の総理として初めて上下両院合同会議において演説を行った。先ほどのTPP大筋合意といったように、日米関係は良好かつ順調に推移をしていると思っている。東アジアに関しても、11月に3年半ぶりに日中韓の首脳会談が開催されるなど、関係改善が進んでいる。今後、日本と中国、韓国の経済的なつながりがいっそう強まるように、商社業界としてもできるだけの貢献をしていきたいと思っている。

日本国内では、安倍総理が「新・三本の矢」を打ち出し、改革を引き続き進めていくことを表明した。日本の持続的な成長が可能となるように、成長戦略、地方創生、少子化対策、さらには外国人や外国企業が活躍できる環境を整える、いわゆる内なるグローバル化の推進など、必要な政策が着実に実行されることを期待している。

一方、商社業界としては、この1年を振り返ると、資源価格の低迷が与える業績への影響は非常に大きいものがあり、新たな付加価値を生み出せるようなイノベーティブな活動をさらに強化していくことの重要性を痛感させられた年だったと思う。質の高いインフラシステムや品質管理のされた農林水産物など、日本が世界に誇れる分野で官民連携して輸出を促進したり、世界の優れた商品を日本に紹介したり、あるいは中長期的な観点からグローバル投資を加速させるなどといった、商社の持ち味である多面的な取り組みで世界と日本に貢献していきたいと考えている。

商社の果たす役割と言えば、去る10月16日に当会主催で商社の投資をテーマにした商社シンポジウムを開催した。シンポジウムでは有識者や商社関係者に活発に議論をしていただいたが、有識者の方からは、「情報を共有してさまざまな産業をつなぐことができる商社は、日本のイノベーションの軸になるべし」という言葉もいただいた。まさにその通りで、商社はこれからもグローバルに投資活動を行い、いろいろな産業をつなげて経済の活性化に貢献していきたい、そういう思いを新たにした。私からは以上です。

質疑応答

(記者) パリで同時多発テロが起きた。海外駐在員の多い商社業界としてどのように捉えているか。

また、すでに国境警備を強化している国があり、人の動きを制限する動きもある。人や物の動きが制限されることによって、商社業界あるいは経済全般に与える影響は?パリに限らずほかの場所でもテロが懸念される中、世界各地に拠点を持っている商社業界としての対策は?

(会長)  今回のパリの事件に関しては、個人的にも非常にショックを受けており、皆さんも同じ気持ちだと思う。世界が不安定、不透明になっていることをあらためて認識した。

我々は現地採用も含めて世界各国にスタッフがいるので、あらためて身辺に注意するように伝達している。しかし、それでもテロに遭遇する可能性がないとは言いきれないので、現地社員も含めたネットワークを構築し、有事の際には速やかに連絡するよう、注意喚起している。

人や物の流れがどの程度制限を受けるかについては予断を許さないが、全般的に行動が鈍ることは十分に考えられる。その意味で、こうした懸念が早期に払拭されることを強く望んでいる。今日現在は、まだ直接的な影響はないが、これからボディーブローのように効いてくる可能性がある。状況を注視しつつ、日々の業務にあたることになる。

海外の安全対策は、従前より個社が対策室やチームを設けて対応している。社内の横の連携に加えて外務省や現地の大使館といろいろな情報交換を行っている。完璧な対応というのは難しいが、テロが発生した場合の安否確認も含めて、日本からいろいろな指示が出せるように、あるいは現地から報告がきちんと為されるように心がけている。

今回のテロによって、世界で「絶対に何もない国」はなくなったように思うので、あらためて注意を徹底していくことになろう。

(記者) ミャンマーの政権交代で日本経済、日本の産業界、もしくは商社業界に対してどういうメリットがあるのか、あるいは期待されることがあるのか、見通しも含めてお伺いしたい。

また、米国のミャンマーに対する対応を見ると、どちらかというと経済にもプラス効果が表れるように見えるが、そのあたりの見通し、期待感は?

(会長) ミャンマーでは、日本政府と我々産業界が一体となってインフラの整備や新事業開発において、いろいろな取り組みを行っている。現政権にはそれぞれの取り組みの意義を非常によくご理解いただいており、それが新政権にスムーズに移管されることを強く期待している。ミャンマーの人たち自身も新しい時代を切り開くという観点でみな共通項を持っているはずであり、我々としては引き続き新政権とこれからの新しい国づくりに協力していけると確信している。新政権がどういう方向性を打ち出していくかについては、大統領に誰が就任するかも含めて注視していきたい。

米国や他のアジアの国、中国などとの競合の中で、我々としての存在感をもっと発揮していきたいと思っている。ミャンマーが今後発展するためには、いろいろなことが必要であり、それに対して我々はきちんと応えていきたい。

(記者) TPP交渉が大筋合意となったが、商社業界ではどのような分野で今後TPPを活用できるか。

(会長) TPPがこれから批准、発効することを念頭に置いて、アパレル業界では日本企業だけでなく、中国企業などでもベトナムに進出する動きが出ている。ベトナムから米国に輸出すれば、関税面でメリットがあり、競争力のあるバリューチェーンができるので、そのような動きが顕著になりつつある。

食品加工分野では、日本も含めて各国はかなりアジアから輸入している。例えば、タイでいろいろな食品の加工を行っているが、もしもタイがTPPに入らなければ、TPPに加盟している国に加工拠点を移す動きも出てくるだろう。あるいは自動車産業などでもバリューチェーンそのものが変わっていく可能性がある。いろいろなところでTPPをうまく活用した産業再編の波が来るだろう。そういった変化はすべてチャンスであり、変化をうまく事業に結び付けていくことが我々の命題であろうし、それを実現できる自信がある。

(記者) 先般、日中経済協会のミッションが中国に派遣されて、中国の首相にも会われたが、中国側の変化をどのように感じているか。実際にミッションに参加された肌感覚として、中国の需給調整などについてどのような感触を得られたか。また、それを踏まえて、中国経済の今後をどのように見通されているのか。

(会長) 日中経済協会のミッションが北京を訪問したのは11月2日から4日であったが、その直前にソウルで日中韓首脳会議が開催されたことが大きく影響したと思う。トップ同士の対話ができた流れがあったため、中国側も日本に対する熱い思いを率直に出してきた感があった。

特に中国の産業界は、いろいろな意味で苦悩している状況にあり、その流れの中で、日本に期待するところは非常に大きいと感じた。少なくとも近年ではベストの会合であったと思う。中国の現況は、「ニューノーマル(新常態)」と表現している通りであり、これからは高成長から中成長に移行することになると思う。

一方で、2010年比で2020年の所得を倍増させると習近平主席以下、中国のトップが発言していることから、おそらく年6.5%成長の達成には、それなりの自信を持っているのではないかと感じた。

分野別にみると、第1次産業の成長が非常に低調であることは以前から分かっていた。第2次産業の成長もかなり低迷しているが、第3次産業がそれなりに成長していることから、全体として6.5%成長を目指した経済運営が行われるのではないかと考えている。

日本企業は3万数千社が中国に進出しているが、個社がそれぞれ経営環境を適切に判断して経営していくと思う。

(記者) 総合商社の中間決算は資源安もあってかなり苦戦しており、投資も控えめで元気がない、というのが一般的な印象だと思う。商社業界はどのような時期に差しかかっているのか、今は我慢の時期なのか、商社の現況をどのように理解したら良いのか。

先日開催されたシンポジウムでは、業界を横断して活動している商社が日本のイノベーションを先導していくべきだという話があったが、具体的にどのような役割を担うのか、例えばベンチャー企業への出資という形を取るのか。

(会長) 資源安、エネルギー安の影響が決算に表れているのはその通りである。しかし、商社がやらなければいけないことは資源、エネルギー分野に限らない。世界のGDPは約8,000兆円であり、それが3%前後で成長すると約240兆円の新しい需要が出てくることになり、商社がやるべきことは多い。個社においては、恒常的に「選択と集中」、及び資産の入れ替えを行っている。

各社それぞれに強い分野、弱い分野があるので、個社の戦略に沿って事業展開しているのが商社業界であり、投資金額の増減はあるが、基本的には、個社が強いバリューチェーンの更なる増強に向けて投資を行う、あるいは別の形でアライアンスを形成していくのが今の商社の姿である。商社の投資意欲は委縮しておらず、逆にさまざまな産業分野で協業を進めたい。

イノベーションは、いろいろな分野で可能と思うが、リスクマネーをうまく使うことによって企業の発展に貢献することがひとつの典型的な例で、ベンチャー投資などが代表的であろう。日本のベンチャー業界は、米国のシリコンバレーなどと比べて、容易にリスクマネーが注ぎ込まれる状況にはない。リスクの目利き役を果たす、あるいはハンズオンの投資を行ってその会社を共に成長させていくことに長けている人材が商社業界には多くいるので、投資と経営支援をパッケージとし、いろいろな産業を興していく、といった形でイノベーションを先導する役割が果たせると思う。この辺は個人的にも大いに力を入れてやりたいと思っている。

(記者) 国内の就職活動についていろいろと見直しの声が上がっている。経団連は選考開始を8月から6月に前倒しすることを提案している。学生のためによかれと思って進めた後ろ倒しだが、混乱した原因は何であったのか。また選考開始時期を見直すと、学生、大学、企業、それぞれの現場が混乱すると思うが、そのあたりをどうお考えか。

(会長) 今、経済界があらためて後ろ倒しのスケジュールをレビューしなければいけない段階に来ているのは確かだと思う。朝令暮改ではないかとの意見もあるが、学生だけでなく、大学、企業も混乱の中で継続するのは良いことではないので、いつでも見直しは必要だと思う。

一方で、後ろ倒しのもともとの趣旨には、学生にもっと勉強していただくなど、いろいろな思いがあった。もう一度原点に返って、日本の人材育成という視点において何がベストなのかという本質論をどこかで議論しなければいけないと思う。

その原点は、少なくとも日本の学生がもっと勉強して人間形成をしっかり行い、社会に大いに貢献できる人材に育つことが重要であり、そのための時間をできるだけ多く取っていただきたい。当会もそんな思いで引き続き対応していきたい。

以上