2016年2月17日に開催された会長定例記者会見要旨

定例記者会見

2016年2月17日

今年、初めての記者会見である。皆さんご案内の通り、年初来からの世界情勢を概観すると、例年以上に不透明な要素が多くなってきていると感じており、その延長でこれから1年を考えると、さまざまな分野で激しい動きが予想される。

まず世界経済であるが、中国経済は新常態、いわゆるニューノーマルと言われる新たな段階に向けて減速が続いており、鉄鋼など、いくつかの産業では供給能力の過剰が指摘されている。その影響もあって世界的に資源価格が下落し、中国以外の新興国でも資源輸出国を中心に自国通貨安や景気の低迷に直面している。世界経済の牽引役として期待された米国経済についても、ドル高や原油安の影響で勢いにやや陰りが見られる。また、株式相場は全世界的に下落するなど、今年の世界経済は非常に厳しい幕開けとなったというのが多くの方の共通認識ではないかと思う。

一方、政治面では今年はご案内の通り、米国の大統領選挙の年であり、その行方には引き続き注目していきたいと思っている。また、イランの制裁解除が進むなど、明るい動きもあるが、外交や軍事面では中東地域で不安定な状況が続いており、全世界的に緊張感の漂う情勢となっている。

日本においては、マイナス金利政策という大胆な金融緩和策が打ち出された。日本銀行の思いきった決断を大いに評価したいと思うが、残念ながらその後の株価と為替の動きを見ると、海外経済に対する懸念がマイナス金利政策の効果を打ち消す展開になっており、あらためて世界と日本との不可分な関係を実感しているところである。

このような状況では、ともすると、それぞれの国や企業が守りの姿勢に入りがちである。しかし、私は国も企業も外に対して自らを積極的に開いて、双方向のグローバル化を進めていくことこそが、さまざまな成長の機会をつくり出すことになると確信している。

その意味で注目すべきはやはりTPPである。協定への署名がなされ、加盟各国の批准を待つところまで進展してきた。広範囲に自由化を進めるTPPは、グローバルに活動する日本企業にとって大きなチャンスである。そのほかにも現在交渉中のRCEPや日中韓FTA、日EU FTAなどが早期に合意発効へ向かうことを期待しているところである。

以上、概観してきましたように、今年はいろいろな意味で変化の激しい年になることが予想されるが、商社業界は国内外で引き続き積極的に活動し、日本および世界の経済・社会の発展に精いっぱいの貢献を果たしていきたいと考えている。私からは以上です。

質疑応答

(記者) サウジアラビアやロシアなどが原油生産据え置きで合意した。この影響をどう捉えているか。

また、年明けから原油価格がさらに低下しており、資源価格の動向がますます見通しにくくなっている。総合商社の業績の今後の見通しは?商社業界の全体的な今の立ち位置は?資源安が長期化すると、各社とも持っている資源権益の売却や入れ替えを行うと思うが、日本全体としては安定供給のための資源が減少することになる。商社業界としての政府への要望は?

(会長)  まずサウジアラビアなどがロシアと対話を始めたことは市場の安定化に向けた非常に良い動きである。ただ、その内容は限定的であり、3カ国以外のOPEC加盟国の動きが明確ではなかった為マーケットがそれほど反応しなかったものであり、今後の進展を注視していきたい。世界経済にとっては安定供給がなされ、市場が安定することが非常に大切である。

原油価格については、需要そのものは中国の減速などがあっても非常に底固いが、需給全体のバランスが取れていない。OPECやロシアなどの生産国が世界の原油供給のあるべき姿について議論を行うことで価格も安定していくと思う。おそらく今がボトムと思われるが、それがいつまで続くかは、さまざまな議論があると思う。

原油価格下落の中で商社の経営を論じることは、非常に難しい。20世紀の後半から終わりにかけて、日本のバブルが崩壊して、その後始末でさまざまな企業が忙殺された。その後の21世紀の最初の10年は、リーマンショックなどがあったが、中国という大きな市場が台頭し、それに付随してエネルギーや資源のコストが上昇した。商社がそうした追い風を受けたのは確かであるが、現在は、中国の新常態、ニューノーマルという流れを受けて、もう一度成長戦略を考える時期にある、それが今の商社が置かれている経営環境であろう。今後については、中国をどう捉えるか、あるいはほかの地域、例えばアフリカをどう位置付けるかによって各社が経営方針を再考し、選択と集中を進めて行く。そのような段階に来ているのではないか。現在は、まず個社の決算において、必要な減損を実行し、競争に耐えられない案件はリリースしなければいけない。資源案件は巨額なものが多く、1社単独で推進できるわけではないので、JOGMECやINPEXなど政府関連の資源会社と協議して進めているものも多く、引き続き連携して進めていきたい。

(記者) TPP担当閣僚だった甘利氏が辞任した。路線変更はないと思うが、感想は?後任の石原大臣への期待、政策実行についての期待は?また、TPPは商社業績にどう影響するか。日本貿易会として、今後、政府にどういう働き掛けをしていくのか。

(会長) TPPについては、我々は過去一貫して政府に早期妥結を要望してきた。できるだけ早く発効することを期待している。甘利氏の辞任は非常に残念であったが、これまでの基本スタンスは変わらないと思うし、その大きな方針に沿って、石原大臣も推進されていくと期待している。

TPPの効果は、発効してからの話であるが、例えばASEANの中でも、タイやフィリピン、インドネシアが交渉に加わっていないなど、貿易協定として更に充実させる余地はあると思う。

一方で、アパレル製品を米国に輸出する場合を例にとると、現在、米国は30%強の課税をしているが、将来はゼロになるため、TPP加盟国でさまざまな動きが顕在化している。具体的に言うと、米国のアパレル輸入の半分は中国からであるが、中国はTPPに加盟していないので課税対象となる。従って、中国のメーカーが製造拠点をベトナムに移し、米国に輸出する。そのように全体の商流が変化しつつある。また自動車産業では、タイがTPPに加盟しない場合は、“アジアのデトロイト”と標榜するタイのポジションが微妙になってくる。TPPやAECなどの動きを考慮しながら、最善の商流を各社が模索していくことになる。

TPPによってすべての産業がすぐに変化するわけではないが、ボディーブローのように後から効いてくるだろう。GDPの2.6%、約13兆円の効果があるなど、さまざまな議論はあるが、数字そのものはともかく、大きな効果があることは確かであり、我々の経営戦略、経営の方向性をうまく適合させて行かなくてはならない。

(記者) 一連のイラン向け政策をどのように評価しているか。また、対イラン・ビジネスは簡単ではないという声も聞く。その背景には、ドル建ての決裁ができないなどがあるようだが、当面の課題は何か。

(会長) イランについては、これからが本番という状況だと思う。逆に言うと、これまではイランとのビジネスは制裁の対象になり得るという懸念などもあり、各社とも控えめに対応してきたので、制裁解除を機に政府と共同歩調で推進して行こうと、商社だけでなくさまざまな業界が注目している。やはり政府金融は非常に大きなバックアップとなり、我々も共同歩調で進んでいきたい。また、これまで中国などがイラン進出を積極的に行ってきた中で、日本は今、諸交渉の再構築をしている部分もあり、新しい案件が続々と出てくる状況ではない。その意味で結果を出すには多少時間がかかると感じている。

(記者) 日銀のマイナス金利政策は海外の影響で効果が打ち消される形になっているが、商社業界にとっての影響は?

(会長) 日銀の発表には、デフレ脱却をもっと確実なものにする、あるいはCPIを2%に持っていくことに対して強い決意が感じられる。それは我々の願うところでもあり、政策の方向に関してまったく異論はない。しかし、実体経済が必ずしもうまく展開していないように感じるので、我々自身が実体経済で日銀の動きに早くキャッチアップしていかなくてはいけない状況だと思う。

(記者) 2015年10-12月期のGDPの発表があり、2期ぶりのマイナスになった。特に消費が弱かったが、国内経済、企業業績も含めて、国内の景況感は。

(会長) GDPの数値をどう理解すべきかは難しいが、あまり強くなかったというのが実感であろう。

日本全体を見てみると、地方の景気が良くない。例えば、札幌は良くても、そのほかの北海道は良くない、仙台は良いが、そのほかの東北はなかなか良くならないなど、地方の中でも濃淡が出てきているのが心配である。その意味では、3月末に向けて石破大臣のもとでさまざまな新しい成長戦略が各自治体から出て来るはずなので、それらをどう評価し、活かし、経済活動や経済発展に繋げていくかについては、これから我々も含めて検討に協力していかなくてはならない。当会が設立したNPO法人ABICは、商社OBを中心にさまざまな人材を地方に送りだしているが、地方のニーズに沿って、ぜひ地方活性化に貢献していきたい。

現時点でのGDPの成長ペースは、かなりゆっくりに感じられるが、2016年通期ではIMFはプラス1.5%前後の数値を算出しており、物価上昇2%に向けて我々も貢献していきたいという気持ちは非常に強い。

(記者) 海外からの訪日者数が増えているが、客単価が落ちており、変化が見えるようである。インバウンド消費の見通しは。また、訪日者数は引き続き増加が続くか。

(会長) インバウンド消費については、客単価の議論は確かにあると思うが、やはり多くの方に来てもらうことは間違いなく日本の活性化に繋がる。特に、地方経済が疲弊している中で大きなカンフル剤として機能するので、引き続きもっと多くの人に来ていただきたい。

昨年は1,970万人が日本を訪れた。経済特区や民泊などを活用しながら、全国を挙げて対応していくことが大きな経済活性化の要因になる。そして、ハード、ソフトを含めていろいろ知恵を絞った結果は必ず現れてくると思っている。

以上