2016年5月18日に開催された会長定例記者会見要旨

定例記者会見

2016年5月18日

いよいよ来週には伊勢志摩サミットが開催される。討議は広範囲にわたると思うが、とりわけ世界経済をどう活気付けていくかが非常に重要な課題だと認識している。

世界経済は成長鈍化が続く中国のほか、資源安や政情不安などの問題を抱える国も多く、新興国経済は引き続き厳しい状況が続く、あるいはそこから脱することができない状況にまだあると思う。また、米国もいまひとつ勢いに欠けるなど、先進国も依然として力強い牽引力が不足しており、世界景気は全体的には曇り空が続いている感じではないか。

サミットでは日本がリーダーシップを発揮し、参加国の強い連携の下、世界経済が力強い成長を取り戻すために、今、本当に必要される政策について幅広く多面的な議論が展開されることを強く期待している。

海外に目を向けると、6月には英国でEU離脱の是非に関する国民投票、11月には米国で大統領選挙が行われる予定である。多極化の進む世界であるが、EUと米国は世界の政治や経済において格別に大きな存在感と影響力を有する2大地域であり、それぞれの国民がどのような判断をされるのか、しっかり注視していきたい。

一方、日本においては、今年の初めから予想外に円高、株安が進んだこともあって景気の停滞が続いている。2017年4月の消費増税を控えて、このままではデフレからの脱却に相当時間がかかることにもなりかねないので、政府や日銀には引き続き、景気に対する十分な配慮を期待している。

また、TPPをはじめとするさまざまな経済連携協定はヒト、モノ、カネ、情報の自由な流れを通じて、加盟国の消費者に幅広い選択肢を与え、より豊かな生活をもたらすものである。各国の事情はあるにせよ、それぞれの強みが国境を越えて相互の利益拡大につながるように、関連する協定の早期の批准、交渉の進展を期待している。

さて、先週発表された総合商社各社の業績は大変厳しいものがあった。グローバルな経済環境は予想もしない外部要因の変化に見舞われることがある。商社は柔軟性、革新性、戦略性に富んだ経営を通じて、大きな経営環境の変化を何度も乗り越えてきた。これからも変化は常態と受け止め、自らを変革しつつ、インフラ輸出や資源の確保など、商社としてできるだけのことを全うし、社会への貢献をしっかり果たしていきたいと考えている。私からは以上です。

質疑応答

(記者) 「パナマ文書」が公開され、商社の社名も出ていたが、タックスヘイブンを商社はどう位置付けているのか。一方で、企業にとってコンプライアンスを問われるような問題でもあったと思うが、その点についての考えは?

(会長)  日本企業に関しては日本の税制が非常にしっかりしているので、脱税ということはない。

タックスヘイブンを使う理由は、大きく分けて2つあり、1つは会社の登記、設立が非常にスムーズで早いこと、もう1つは、英国領であれば、英国の法律に則っているので会社としての管理がしっかりできるということ。例えば、伊藤忠の米国法人はデラウエア州に本社を置いているが、これも同じように会社の設立の問題など、経済原則に則って、法律を遵守しながら、いろいろな観点で検討した結果である。我々は全世界的に連結経営を行っているが、日本企業として違法性はまったくないと考えている。

(記者) G7で財政出動について議論されるようだが、日本貿易会として、具体的に要望したいことは何か。

(会長) 世界景気対策としてヒト、モノ、カネ、情報の流れをもっとスムーズにしていただきたい。そのためには、TPPの批准を急ぎ、日・EU、あるいは日中韓のEPA交渉なども加速しなければいけない。

(記者) 6月に、英国でEU離脱に関する国民投票が行われる。商社の英国ビジネス、EUビジネスへの影響は?

(会長) 最も心配している点は、英国だけでなく、欧州全体が内向きになること。EUから一ヵ国が離脱すると、国境を越えたヒト、モノ、カネ、情報の流れに支障が出て、プラスの効果は生まれない。その意味で、英国のEU離脱は歓迎すべき方向ではないと思う。

(記者) 中国経済は、鉄鋼業界が構造調整を進める中で、粗鋼生産が増加している状況だが、その行方をどのようにみているか。

(会長) 中国のGDPは約1,100~1,300兆円であり、6.5%の成長なら70~80兆円増加する計算となる。世界全体が3%成長すると仮定すると250~300兆円増加するわけであるから、中国の比率は非常に大きい。その中国とは政治、経済、文化の諸側面で良好な関係を築いていかなければいけない。

中国政府が鉄鋼業界の構造調整を進めているが、需給ギャップが解消に向かっているかどうかは、毎月、あるいは毎期のデータを見ながら分析していくしかないのではないか。

(記者) 日本の第1四半期GDPが年率換算1.7%であったことについての評価は? また、マイナス金利が導入されて3カ月を経たが、その評価と今後の展望は?

消費増税延期という選択肢については、どう見ているか。消費増税延期による国内経済のメリット、デメリットは?

(会長) 第1四半期のGDPはほぼ予想通りで、うるう年効果はあるかもしれないが、想定を少し上回るように感じている。マイナス金利の効果については、世界のほとんどの国が経験したことのないような環境の中で行われており、各方面で戸惑いもあるのではないか。日本銀行は多少時間がかかっても必ず効果は出るとコメントしており、我々もその効果を期待している。

消費税は、やはり予定通り引き上げるのが筋であり、引上げに際して、景気が冷え込まないような対策をパッケージで打つ必要があると思う。第1四半期に年率1.7%であったGDPが第2、第3四半期にどのようになるか懸念されるが、現在の厳しい財政状況にあっては、先延ばしはできるだけ避けてほしいと思っている。

(記者) 商社業績が大きく変動しているが、現在の商社業界をどのように捉えたら良いか。以前と比べて、業績変動要素が大きくなっているのか、資源ビジネスは変化してきているのか。

また、商社を取材すると、「事業投資から事業経営へ」と聞くことがある。その内容は、これまで出資していただけの会社に人も送り込んで、会社を丸ごと経営することが商社にとって重要になってきているということだが、その背景にはどのような変化があるのか。

(会長) 以前と比べて、案件一件当たりの規模が大きくなっており、案件の精査はより広く深く行う必要がある。以前は100億円規模の案件は大きな案件と感じたものだが、今はその感覚が1桁増えている。一つ一つの案件のリスクが大きくなっており、それに対応した対策が必要になっている。また、情報伝達のスピードが圧倒的に速くなっており、常に情報を把握していないと安心できない状況になっているが、商社は変化をチャンスと捉えると同時に、緊張感を持って時代の変化に対応してきたので、今後もますます発展できると確信している。

事業投資から事業経営へ、というのはその通りである。ハンズオフではなくハンズオンで投資を行うのが商社であり、投資して経営に関与し、その会社の価値を上げることを目指している。その意味では、「何も言わない投資家」とは異なる。

(記者) 商社各社は資源ポートフォリオの見直しを行っているが、それは資源投資全体をやめるということではなく、優良資産に限定して投資することと聞いている。日本全体を考えたときに、確実に一定量の資源を確保することは社会的責任として必要と思うが、資源確保について業界のコンセンサスや考え、共通した姿勢はあるのか。

また、競争が激しい中、JBICやNEXI、JOGMECの支援策について利便性も含めて改善要望があれば伺いたい。

(会長) 日本はエネルギー資源に恵まれていないので国の発展のために商社は資源確保に協力しなければいけない。しかし、それは採算や経営への影響を度外視してできることではないので、各社の成長戦略の中で位置付けていくことが自然な考え方である。基本的には個社が判断していくわけだが、その一方で経済産業省や資源エネルギー庁、JBIC、NEXIなどと共に、国のこれからの発展を意識して資源投資を展開しており、今後もそれは重要だと考えている。

具体的な希望としては、政府金融の資本をさらに増強して、より思い切った、例えば資本金なども含めて投資するような形になると、全体としてリスク分散になり得ると感じている。また、ICT技術の進化で非常に意思決定のスピードが上がっているので、それに乗り遅れないスピードで案件の審議をお願いしたい。

以上