2016年9月21日に開催された会長定例記者会見要旨

定例記者会見

2016年9月21日

本年度、上半期も終わりに近づき、これから年末にかけての動きを概観すると、社会、経済に極めて大きな影響を与えるものが数多くあり、これらに適切に対応していくことの重要性を感じている。

主なものだけでも、臨時国会でのTPPに関する議論、11月の米国大統領選挙、12月にはロシアのプーチン大統領の来日、またEU離脱に関する英国の動きも注視していく必要があり、日本企業にとってより一層、グローバルな視点で経営を考えていくそのことの重要さがさらに増していると認識している。

残念ながら世界経済の現状は強力な牽引役の不在という状況が続いており、各国の経済政策もその効果が顕著に表れているとは言えず、ビジネス界には先行きの不安感が蔓延している。
このような状況では政府も民間企業も内向きの姿勢に傾きがちであるが、今、必要とされていることは内向きの政策ではなく、より一層のグローバル化の推進であると思う。さまざま経済連携協定を通じて、貿易や投資、国際協力の推進といった国境を越えた経済活動を促進することが世界経済の活性化と社会の安定につながると考えている。

各国政府には外に対して開かれた経済政策を力強く推進してくれることを大いに期待している。特にTPPに関しては我が国の成長戦略の要でもあり、当会は他の経済団体と連名で政府に早期批准の提言を提出し、与党関係者への説明も行うなど、国会での早期の批准を強く要望しているところである。今こそ日本は国内の開放度を高め、内なるグローバル化をより一層推進し、外に向かってのグローバル化と双方向性を強める必要がある。

商社の業績については、メディアの各種報道があるが、次の収益限の創出と確保に向けて着実に手を打っていくべき時期である。世の中のニーズをよく見て、商社が存分に機能を発揮できる事業を見定め積極果敢に取り組んでいきたいと思う。

また、去る7月のバングラデシュでのテロ事件に象徴される、海外での安全確保の問題も引き続き重要な課題となっている。当会も人事委員会を中心に会員各社の情報入手と情報交換の機会をさらに増やしていき、海外での安全確保に組織を挙げて注力していく方針であります。特に途上国が対象となる国際協力活動では、安全の確保は極めて重要な問題である。外務省が国際協力事業安全対策会議を立ち上げ、安全確保強化策をまとめたことを高く評価しており、今後はこれを早急に実行に移していただくことを強く願っている。

最後に日本貿易会の活動について2点ご報告する。まず日本貿易会賞懸賞論文の募集結果について。今年の募集テーマは「いま問われる貿易と日本企業の役割」としたが、昨年を上回る189点の応募が国内外からあった。これから厳密に審査し、12月に審査結果を公表する。斬新な提言を発表できることを楽しみにしている。

2点目は商社シンポジウムの開催について。すでにご案内したように「次代を創る商社」というテーマで10月28日に開催し、商社の活動について活発に議論するので、記者の皆様も多数ご参加いただきたく、お待ち申し上げている。私からは以上です。

質疑応答

(記者) 10月からIMFの特別引き出し権の構成通貨(SDR)に中国の人民元も加わるが、日本企業としてメリットとデメリットがあるのかどうか、また、最近、石炭価格や不動産価格が少し上昇する中で、現在の中国経済をどのように捉えているのか伺いたい。また、中国ではどの分野に商機があると考えているか。

(会長) SDRに関する日本のメリットについては、コメントが難しいが、日本企業の中で、スタンスを決めている企業はまだ少ないのではないか。

中国経済そのものについては、いろいろな見方があり、どの視点から中国経済を見るかによって、コメントは大きく変わってくる。第2次産業から見ると中国は非常に悪いという印象が一般的であるし、第3次産業から見ると決して悪くないというコメントになるであろう。また地域別に見ると、東北地域は非常に悪いと言われ、西部地域から見るとそれほど悪くなく、沿岸部も決して悪くない、となり、「まだら模様」と言えるのではないか。

我々も定期的に駐在員のネットワークを通じて、肌感覚の景況感を聞くが、今、申し上げたような状況から、全体としては可もなく不可もなく、という印象である。

商機のある分野については、やはり労働コスト等も上がってきており、中国での第2次産業のメリットは次第に低下しているが、労働コストが上昇しているということは、資金が市場にある程度出回っていることを意味する。第3次産業に注力するのが日本企業にとって進むべき方向だろうという認識を持ちながら、中国経済の状況を注視しているところである。

(記者) 本日の日本銀行政策決定会合で、追加の金融緩和策が取られるかどうかが1つの焦点となっており、内容によっては円高が進行するという見方もある。冒頭、なかなか各国の経済政策が顕著な効果を上げていないと発言されたが、日銀に改めて期待されるところがあれば、伺いたい。

また、マイナス金利が銀行の収益を圧迫していると言われているが、貿易活動、商社活動、ひいては日本経済全体について、会長自身はどのように評価されているのか。

(会長) さまざまな機会に黒田総裁のコメントを聞く機会があり、「多少、時間はかかるものの待っていて欲しい」というコメントが多かったように思うが、このタイミングで政策のレビューを行い、さらにどのような方向に踏み出すのかということを今日の午後、発表されるのではないか。為替は市場が決めることであるが、更に円高方向に進むということは必ずしも良いことではない。その点に関しては、やはり日本のファンダメンタルに基づいて現れる為替レート、すなわちこれ以上の円高というよりも、適度にモデレートな動きをするのが望ましいのではないかという印象である。

マイナス金利が即効性をもって機能した代表例は、おそらく住宅ローンの借り換えであると思う。企業も低い金利で資金調達できることになり、それ自体は決して悪いことではない。しかし、資金が新しい資金を生むのが資本主義のベースであるとすれば、我々自身もその本質をもう少し理解する必要がある。ここで総括していただき、黒田総裁からのメッセージを伺いたい。

(記者) 安倍総理は東方経済フォーラムでロシアを訪問し、政府主導でかなり踏み込んだロシアへの経済協力を表明されたが、12月のプーチン大統領訪日に向けて領土問題と絡んでいろいろな動きが出てくると考えられる中で、民間企業としてこうした動きをどのように踏まえ、またどのようにロシアと向き合っていくかべきであるとお考えか、お聞かせ願いたい。

(会長) 基本的には我々、商社業界、日本貿易会としても非常にポジティブにとらえている。米国の制裁等の問題をロシアは抱えており、我々も留意しているが、一方で日本の隣国で、かつポテンシャルが豊富な国であり、友好関係を築くことは日本のこれからの発展のためにも極めて大切であると認識している。できるところから我々も対応していきたい。

以上