2016年11月16日に開催された会長定例記者会見要旨

定例記者会見

2016年11月16日

さて、世界の注目を集めていた米国の大統領選挙では、ご案内の通り、トランプ氏が選出された。

激しい選挙戦であったが当選後の演説では、トランプ氏はクリントン候補をたたえるとともに国内融和を訴え、早くも大統領の地位にふさわしい振る舞いをされていたと思う。大統領に就任されてからは、豊富なビジネス経験を生かした、柔軟で現実的な政策を実行していただけるという期待をしている。

この大統領選挙の結果を受け、世界の金融市場は大きく変動したが、米国経済自体は安定した成長を続けていると理解している。消費や雇用が堅調に拡大しているだけでなく、米国は依然として世界一の「イノベーションセンター」である。これからも新大統領の下で、世界経済を力強くけん引していくものと期待をしている。

次にTPPについてであるが、これは米国と、成長を続けるアジア太平洋諸国、それに日本をつなぐ重要な経済連携である。関係する皆さんのご尽力により、TPP法案は衆議院で承認を得ることができた。トランプ氏は現状では反対を表明されているが、何とか米国でも早期に批准をしていただき、協定発効を実現してほしいと強く願っている。

また来月にはご案内の通り、プーチン・ロシア大統領の来日が予定されている。ロシアはさまざまな資源を豊富に持ち、日本の技術力と事業推進力とのマッチングが非常によい関係にあると思う。我々の商社としても、さまざまな分野で協力していくことができると考えている。

一方、欧州に目を向けると、英国のEU離脱問題については、英国内の政治的な手続きに関して議論が起こっている。日本企業にとっても、その行方が非常に注目されるところである。

また大陸の側でも来年のフランス大統領選挙など、EUの政治経済の先行きに大きな影響を及ぼす様々な政治日程が組まれており、日本企業は米国だけでなく欧州さらにはアジアなど世界全体の動きに目を配り、正確な状況分析と的確な経営判断を行っていくことが、よりいっそう重要であることをあらためて実感をしているところである。

私からは以上です。

質疑応答

(記者) トランプ氏の真意が読めないような状況が続いているが、もしトランプ氏に直接何かを聞くとすれば、どのようなことをお聞きになりたいか。

(会長) 選挙期間中には理解が困難な発言もあった。世界全体の潮流は人、物、資金、情報が自由に行き来する方向にあるのに対して、トランプ氏は反対の主張をしてきた。その典型例がTPPに対する反対であり、NAFTAに対する疑問ということであった。
トランプ氏は実業家であるが、我々が様々な国の実業家、経済人と話をして感じるのは、基本的に彼らは非常に現実的であり、現実主義者であるということ。

夢だけでは世の中は回っていかないため、現実がどのように動いているのかについて、トランプ氏も長年のキャリアの中で、色々なご経験をお持ちなので理解していると思う。我々は自由貿易体制の中で活動しているわけであるから、基本的な彼の考え方をぜひ聞きたいと思う。

国によって、色々な意見があるのは理解できるし、その意見を吸い上げる形で当選されたということも分かるが、判断内容について、当然もう一度きちんと見直すチャンスは十分あるのではないか。

(記者) TPPについて一部から米国抜きでTPPを進めるという発言も出ているが、米国が抜けることでTPPの意味合いも変わってくると思う。米国抜きの枠組みを模索する動きについてどのようにお考えか。

(会長) 大きな経済圏をつくるという話の中で、主要な米国が離脱するということになれば、TPPの成果そのものも大きく変わってくると思う。現在の我々のスタンスは、何としても米国にもう一度きちんとしたグローバルな展開、つまり反グローバリゼーションではなく、自由貿易に対する理解をもっと求めていきたいということ。

それに対して反対する人もいるかもしれないが、賛成の方も圧倒的に多いはずであり、ぜひ新政権に対して理解を求めていきたい。その意味では、米国抜きのTPPという発想に関しては考えが及ばないというのが現在の思いである。

(記者) 新興国経済の停滞もあって、日本企業の対米国直接投資が加速していると思う。トランプ氏の新大統領就任で、投資分野、例えばエネルギー政策等に、どのような影響が表れるとお考えか。日本企業への影響を併せてお伺いしたい。

(会長) 冒頭で触れた通り、今回の新大統領は実業界のバックグラウンドを持つ人であるという観点からすると、やはり経済の活性化に重きを置くのではないかと思う。

その証左に、法人税を35%から15%に下げる、あるいは10年間に雇用を新たに2,500万人生み出す、GDP成長率4%にチャレンジする等、非常に意欲的な数字を選挙期間中に掲げていた。全て実現できるかどうかは私も判断できないが、少なくとも経済の活性化に向け、政権運営を進めていくという強い意志は持っていると考えられ、我々も一緒に成長していけるのではないかと理解している。
対米国直接投資という観点では、日本企業は累計で現在4,000億ドル規模の投資を行っており、100万人弱の雇用も生み出している。その観点からすると、日本からの色々な発言に対しても、当然、新政権は聴く耳を持つであろうし、そしてお互いの理解をもっと進化させていくことが重要であると思う。

現在気になっているのは、NAFTAをどうするのかということ。今朝も色々なメディアで、「NAFTAに関して米国の自動車業界も非常に心配している」という報道があり、具体的にどのような形で表れてくるのか心配である。

自由貿易が米国経済にプラスな面が圧倒的に多いという説明によって、理解を得られると思うし、そうなれば方針の変更をしていただけるのではないかと期待している。

その意味で、安倍総理との会談において、貿易立国日本としての立場をお話になったときに、現実を理解したコメントがなされることを期待している。

(記者) 世耕経済産業大臣のカウンターパートであるウリュカエフ経済発展相が拘束されたという情報があるが、今後のロシアとの経済協力を12月15日に向けて進めて行く上での影響や懸念についてお伺いしたい。

また、ロシアとの経済協力について商社に尋ねると、利益が得られること、経済的に成り立つことが前提であるとお話され、それはもっともであるが、一方、交渉事であるため、平和条約の交渉という1つのブレークスルー、1つのゴールに向けて、必ずしも短期的な利益を見込めなくても、ロシアとの交渉の中で日本側から出していかなければならない部分もあるのではないかと想像する。

商社業界で短期的な利益あるいは株主利益を得ることが難しい場合であっても、政府への協力あるいは政治的なブレークスルーの延長線上にある、ロシアとのよりよい関係構築を目指して、貿易会として、あるいは商社として何か考えているのか。

(会長) ロシアに関しては、少なくともプーチン大統領と安倍総理がきちんとした理解の下で話を進めているということであれば、こうした話も乗り越えて順調に進んでいけると思うし、その意味では何か方向性が変わるという想定はもっていない。

商社業界各社は民間企業であり、民間企業というのは当然のことながら株主からお金を預かり、それをベースにしてきちんと利益を上げて、それを株主に還元していく、社会に還元していくという当たり前のことをいる。

その意味では、全体のプロジェクトで収益が上がらないことを、個社として取り組む発想はないと思う。少なくとも日本政府、あるいはロシア側も、それを理解してくれると思う。

従って、直近ですぐにもうかる、もうからないというよりも、全体としてこういうスキームで、こういう形で利益が出てくるということであれば当然考えられるということであり、短期的にではなく、中長期的に考えるということであれば、全体の案件のリスクを分析しながら検討していく話であろう。

我々は営利企業であるから、必ず利益を上げるという前提の下で各案件のレビューを行っている。そのときに必要であれば政府とも話をしながら進めていくというステップになると思う。

(記者) TPPについて、新政権に対して理解を求めていきたいと言われたが、その一方で新政権に対してほとんど情報がないという事情もある。具体的にどのような形でアクセスし理解を求めるのか。

また、自由貿易に対してはブレグジットも含め今は逆風が吹いていると思う。トランプ氏だけの問題ではなく、世界経済がそういう方向に向かっているという前提で、貿易に立脚した商社としては、どういう経営方針、戦略の修正・見直しが必要になってくるとお考えか。

(会長) 我々は個社として、こういうアプローチをしたら良いというような、特別なチャンネルを持っているわけではないが、日ごろからお付き合いをしている、例えば在日米国大使館、ワシントンの在米日本大使館、あるいは日米間で開催されるフォーラムを通じて理解を求めていくということであろう。

たまたま11月3~4日に東京で開催された日米財界人会議でも、お互いの意見を擦り合わせながら、TPPがいかに重要であるかということを今回も声明としてまとめところである。来年はワシントンで開催する予定であるが、こうした草の根のいろいろな議論をしながら、米国の経済人そのものに自由貿易が重要であることを理解してもらい、新大統領と話をする機会に自由貿易推進の後押しをしてもらう、そういうことを、我々ができるレベルでやっていきたい。一番期待しているのは、明日ニューヨークで開催される安倍総理との会談である。自由貿易、TPPの重要さについてのアピールを是非期待したい。

商社のオペレーションを非常に単純化すれば、川上から川下に川の水が流れる中で、様々なところで介在、介入しているというようなものであると思う。川上に技術や商品や供給がある、川下に需要や市場がある、川中に金融や物流があるということ。

川下でこういうものが必要で、市場がこういうものを要求しているというときに川上に遡り、供給ルートを探すわけである。また、供給元の川上から見て需要先である川下ではどこに行ったら一番歓迎されるか、結果として世界の発展あるいは世界の豊かさに貢献できるか、そういう視点でも動いている。

ただ、移民、難民の問題、テロ、あるいは格差問題が生じているため、100人のうち100人全てがそれに賛成しているとは言えない状況でもある。それでも、現在の世界の人々の生活基盤は世界全体のバリューチェーンの中で経済活動が行われていることで築かれている。

やはり自由貿易という流れはこれからも続くと思うし、特に貿易立国として発展してきた日本にとって自由貿易は死活問題であるから、我々も含め、いろいろな場で、それがいかにその国々の豊かさに貢献しているのかということを主張し続けていきたい。

(記者) 2点お伺いしたい。1点目が、先日開催された日本貿易会のシンポジウムでアナリストが「最近の商社は新しい技術や新分野に進出しているという動きがなく、ちょっとした閉塞感がある」と話していた。「10年前と各社がやっていることがあまり変わっていない、各社の目利き力が低下しているのではないか」という指摘もあったが、それに対して会長はどのように分析されるのか、商社が取り組む新しい案件が減っているのではないかという指摘に対して、お伺いしたい。

2点目が、商社業界の大型投資に関して、1,000億円、2,000億円の買収を行う流れが数年前にはあったが、足元ではどちらかというと既存事業をどうするのか等、守りの経営に入っているような気もする。現在の商社業界の経営のフェーズは数年前とどのように変化してきているのか。

(会長) 商社は過去の歴史の中で業績が伸長した時期もあれば、下降した時期もあり、「商社冬の時代」、「商社不要論」という厳しい時代もあった一方で、非常に良い業績の時代もあり、常に組織を変革してきた。

この数年間の商社が、大きな変革期の中にいることは確かであると思う。それは社会そのものが大きな変革の中にあり、我々は経営の中核とするものは何かということを意識して、苦労を重ねながら事業を続けているのが現状である。その意味で、多少の混乱があっても、その混乱の後には必ず新しい秩序が生まれる、今はそういうプロセスの中にあるのではないかと感じている。

先週たまたま米国のシリコンバレーを訪問したが、商社各社が色々な活動をしっかりと行っている。ただ、それが何百億円、何千億円の利益になっているかというと、それは少し次元の違う話である。商社が過去にいろいろな変革をしてきた歴史を皆さんにもぜひ改めてもう一度理解していただきたいと思う。

(記者) 米国大統領選後に金融市場が一時的に動揺したが、円安が進み、一方で商品市況が一段と高騰する動きがあり、一見すると商社には追い風のように見える。現在の市況についてどのようにお感じになっているか。

(会長) 11月8日のトランプ氏当選直後の金融市場の混乱では経済の先行きを非常に心配したが、その後、順調に推移していることについては、トランプ氏が実業界の出身で、非常に現実的な政策を取るだろうという期待も込めて、市場が動いているからではないかと思う。これから1月20日の大統領就任演説までは、なかなか予測はできないが、そのときにどのような話が出てくるかも含めて引き続き注意は必要になると思う。

全体としては米国経済を強くしようという意思は明らかであり、それが排他的に見えるところもあるわけであるが、少なくとも最終的には極端なことは行わないだろうという観点に立つと、我々としては決して悪い方向には向いていないと思うし、より良い方向に向けた政策を出していただければと期待しているところである。

(記者) ビジネスにおいてNAFTA、TPPの先行きについては、確かに大きな問題であるとは思うが、トランプ氏の大統領就任により、不透明なこと等、いろいろなリスクもある中で、現状で最大の「トランプリスク」というのは何か。

(会長) 政府においては、外交、安全保障等、いろいろな分野があるため、異なる観点で心配されているとは思うが、我々としては、いろいろ言及されている政策をどのように具現化されるのか、そのときに例えば税制がどうなるのか、あるいは移民政策をどうするのかといった心配がある。しかし、一番の心配は、やはり自由貿易に対する姿勢である。

実業家とはいえ、不動産業に身を置いてきた方であり、どうしても国内志向的なオペレーションになるだろう。したがって、どのような方が新大統領にアドバイスをして、その結果として政策がまとまるのかということに尽きるのではないか。

以上