2017年5月17日に開催された会長定例記者会見要旨

定例記者会見

2017年5月17日

日本貿易会はこの6月に創立70周年を迎える。これまでさまざまな関係者の皆様からいただいたご支援、ご厚情に厚くお礼申し上げたい。

当会は、民間貿易再開に先立って1947年6月、当時貿易振興団体として活動していた4団体が統合して誕生した。設立当初は商社の業界団体としてではなく、経済団体として民間貿易の拡大と貿易振興に注力していた。その後、日本経済は順調な戦後復興を遂げるが、1970年代半ば以降、我が国貿易黒字の増大を背景に通商摩擦が激化し、円高圧力が高まり、市場開放と輸入拡大を求められる時代に入った。当会はこうした事態に機動的、かつ効率的に対応できるよう、1986年に大幅な組織改革を行い、商社貿易団体が加盟する業界団体として改組され今日の形となっている。

この間、日本経済のあり方も、商社の事業内容も大きく変化しているが、諸外国との自由な貿易、投資、交流は日本経済発展の基礎であり、商社貿易業界の活動の大前提であることは変わっていない。当会はこれからも自由貿易の発展と、日本と世界各国との関係強化のために積極的に活動を続けていきたい。

その意味において懸念されるのは、世界で保護主義的、拝外主義的な動きが台頭していることである。EU離脱の是非が焦点となったフランス大統領選挙ではEU強化を訴えたマクロン氏が勝利し、昨年の英国国民投票でのEU離脱決定、米国大統領選挙と続いた流れは一段落した感がある。

ただ、現時点で議会に基盤を持たないマクロン氏が、どの程度実力を発揮できるのかは未知数であり、事態は依然として流動的だと判断している。今後行われる英国、フランス、ドイツなどの議会選挙の結果やトランプ政権の動向などを注意深く見守っていきたい。
政治が大きく揺れ動いている時期だけに、世界で貿易投資の自由化の流れを絶やさないことがいっそう重要となる。その意味で米国の離脱表明によりTPP発効のめどが立たなくなったことは残念だが、重要なのはTPPが目指した貿易・投資の広範かつ高度な自由化という高い目標の実現に向けたモメンタムを維持することである。米国抜きのいわゆるTPP11もそのための手段のひとつとして有効であり、当会としても実現に向けた日本政府のイニシアチブ発揮を支持したい。

5月初旬にカナダで行われた首席交渉官会合に続き、今週末にはベトナムで閣僚会合が行われる予定である。そこでTPP11の発効に向けた方向性とプロセスが示されることを期待している。

当会もTPP実現に向けては積極的に提言を行ってきたが、創立70周年の節目を迎え、自由貿易の重要性、自由で円滑な経済活動の意義を再認識し、今後とも商社、貿易業界の団体として日本、および世界の経済発展に貢献する決意である。私からは以上です。

質疑応答

(記者)TPP11についてお伺いしたい。経済規模では米国が参加しないことで見劣りがするものになりかねない。日本政府も以前は米国が参加することが最優先との考えだったが、最近変わってきた。貿易会としては米国抜きでも早期に発効させるべきとお考えのようであるが、その理由と期待できる経済効果等についてお伺いしたい。

また、一部メンバー国からは、米国が抜けることによりバランスが変わってくるため再交渉を求める声も聞かれるようであるが、再交渉についてどうお考えなのか、また再交渉ということになった場合、どのような懸念があるのか。

(会長)やはり米国が加わらなければ、全体の規模感という観点からは、残念なことであり、将来に向けてぜひ米国に加わって欲しいという思いはまだ強く持っている。

一方で、冒頭申し上げたように、保護主義的な動きや排他的な動きを見ていると、やはり世界で自由な貿易、あるいは投資、通商のルールを固めていくということは、今後21世紀の我々、あるいは日本そのもののこれからの経済活動にとっても極めて重要であると思う。その意味でまず1つの基礎、土台を作り、これを12、13、14カ国と拡張させていく、そのための第一ステップということでTPP11に期待をしている。

多少の再交渉はあるかもしれないが、世界の物の流れ、お金の流れ、人の流れ等が自由に動き、その結果として経済が好転するための基本的なルールを決めるということであり、ぜひそのような方向でスタートを切ることが大事であろうと思っている。

(記者)国内の景気動向ついて、まだ個人消費がはっきり伸びているという状況ではないと思われるが、国内景気、特に消費の面で、現在と今後についてどうお考えか所感を伺いたい。

また、保護主義的な動きや米国、中国、EUの動向次第で、日本経済や株価も下振れリスクを抱えていると思うが、世界経済の今後の見通し、あるいは資源価格の見通しをどのようにご覧になっているか伺いたい。

(会長)国内景気そのものについては、徐々にではあるが好転はしていると思う。直近のIMF経済成長率見通しで、日本の2017年見通しは+0.4%上方修正となった。

ただ、一方でご指摘のように消費はどうかといえば、日本銀行が以前から目標としている消費者物価指数(CPI)上昇率の2%達成には、ほど遠いという現状にある。しかし、一方で賃上げが中堅中小企業に波及しはじめたのは消費増につながる展開だし、衣料品の売り上げが弱い一方、天候に左右される物や、高価な物は結構売れているなどと、消費もいろいろな状況が見られる。全体としては日本銀行の今後の見通しを見ても、消費者物価指数は次第に上昇する方向にあると思われ、時間はかかっても、着実に良い方向に向かっていると思う。

世界全体ということになると、米国の政策が具体的にこれからどのような形で表れてくるのか、非常に地政学的リスクも読みにくい部分もあるが、ただ1つはっきりしているのは、米国経済そのものは極めて順調だということ。色々な意味で先行指標となる米国の住宅市場を注視しているが、非常に活況を呈しており、先行きに不安感があるとは考えにくい。ただ、米国の政権がどのように政策対応していくのかという点には注視していく必要はあるだろう。

資源価格については、天候、投機筋の動き、需給関係、あるいは政治的な問題など、いろいろな要素が絡み合っているので難しい。例えばサウジアラビアとロシアとが原油減産で合意したということで、石油価格も2ドルぐらい上昇したが、その後また調整している。こうした動きに一喜一憂するのではなく、しっかりと世界の需給を見ながら戦略を立てていくことが大事ではないかと思う。短期的には投機筋の動きに左右されることもあるので、中長期的な観点で見ていく必要がある。

(記者)国内の人手不足による物流コスト上昇をどのようにご覧になっているのか、また、今後の企業活動に与える影響・懸念について伺いたい。

(会長)人手不足は深刻化しており、いろいろな意味で合理化はさけられないと感じている。ロジスティックスの観点からは、鉄道を利用するなど、いろいろな知恵が必要になると思う。宅配便労働力不足への対応は待ったなしの状況にあり、各社が試みているように、再配達サービスにも新しい対応が求められる。

我々はよく、ビジネスは川上から川下に水が流れるという例えを用いるが、川中のロジスティクが止まれば、川上から川下に繋げることができなくなる。やはり一気通貫で川上、川中、川下を強くするという観点から、川中に対する知恵が必要になることは間違いない。現在は過渡期であり、どうすればもっと効率的に、あるいは生産性を上げられるかということが課題である。

例えば新聞の配達、コンビニのデリバリーも含め、いろいろなところでうまくシナジー効果を生むような、新しい発想を出していかなければ対応が難しくなることは、業界の方々はご理解されていると思う。

(記者)働き方改革について、伊藤忠商事の早朝勤務は有名であり、小林会長が社長をされていたころと比べて、伊藤忠商事の中でも社員の働き方が大きく変わったと思うが、現状をどのようにご認識されているかお伺いしたい。

また、今、総合商社が総合化の流れから、専門性、個性をそれぞれ発揮するステージに移っている。具体的には電力であったり、インフラであったり、生活産業であったりと、各商社がむしろ、専門の強みを2~3個抱えているような、コングロマリットのような企業体に移行しているように映る。それについてお考えをお伺いしたい。

(会長)夜遅くまでメリハリもなく仕事をするよりも、朝から働いた方が集中度や計画性などの観点からも非常にメリットがあることが、我々自身の経験からもはっきりした。

朝、奥さんが早くから働き、ご主人がお子様をどこか託児所に預ける。帰りは奥さんが早く帰ってきて託児所でピックアップするなど、新しい生活スタイルに、日本の社会そのものが向かっていると思う。我々がやっていることは、これからの豊かな社会生活、もっと言えば日本の根本的な問題である少子化に対しても、解釈の方向を示していると思う。ただ「これがベストである」というものはまだないため、これからも各社が試行錯誤をしながら、切磋琢磨して知恵を出し合い、日本的な素晴らしい仕組みができれば良いと思う。

また、商社というのは、いわゆる1つの分野に特化している商社と、多様な分野が相互につながっている総合商社、いろいろなユニットが一緒になった集合商社、というものがあると思うが、個人的な感覚では、どうしても我々は総合商社であるべきであると思っている。

変化はチャンスであるといつも思っているが、21世紀の変化は、情報通信技術の進化の中で、20世紀とは比べものにならない。ひとつは変化のスピードの速さ、二つ目は変化の振れ幅の大きさであり、もうひとつは、その変化が全産業に、そして、全世界にあっという間に広がってしまうことである。

情報通信技術の進化がもたらす変化に対して、そのリスクを分析して、その変化をチャンスととらえるという観点からすると、どうしても総合商社として、お互いの業界を知りながらそのシナジーをうまく出していく必要になってくる。

そういう観点からすると、総合商社はこれからも日本経済の中で非常に重要なポジションを占めると確信している。その中で各社が自分の得意分野に経営資源としてのお金と人をシフトしていくことで当然分析していく必要がある。その観点から、A商社はこの分野、B商社はこの分野が強い、というものが表れてくるという流れだと思う。ただ、総合商社を離れて、その特定の分野に特化して2つか3つのユニットの集合商社になるという見方に関しては、非常に否定的だ。

(記者)昨日、秋篠宮眞子様の婚約が明らかになったが、これに関してコメントをいただきたい。

(会長)本当におめでたいことであり、ぜひよい家庭を築き、皇族全体の発展のために頑張っていただきたい。良い形でご結婚、新生活に入っていただくことを心から期待しているが、おふたりのにこやかな顔を見れば、間違いないであろう。日本国民として応援していきたい。

(記者)先日の韓国大統領選で新しい大統領が就任されたが、日韓のこれまでの経済協力の歴史等を踏まえて、どのように受け止められているか。期待や、逆に懸念されていることがあれば教えていただきたい。

(会長)新大統領が選任される前から、韓国経済が非常に厳しい状況にあることは我々も感じており、地政学的な問題でも苦慮されている。

新政権が、特に韓国のリーディング企業、財界に対して、厳しい対応を取るのではないかということについては懸念しているが、ただ、日韓関係については我々民間ベースでは、非常に強固な関係にあり、いろいろな分野でウィン・ウィンの関係を築いてきた実績がある。

新首相が非常に知日派であるとは言われているが、まだ全体が見えていないということも事実であり、我々としては、粛々と従来からの経済関係を発展強化するという方向で取り組んでいく。

以上