2018年2月21日に開催された会長定例記者会見要旨

定例記者会見

2018年2月21日

昨年来、景気の現状を評して「適温経済」という言葉が盛んに使われてきた。年が明けても経済は好調が続き、株価も1月中は順調な滑り出しを見せたが、2月に入り、米国での株価急落をきっかけに、世界中で連鎖的に株価が下落した。

米国の株価急落は、景気過熱によるインフレ懸念が背景にあり、企業業績は好調であるから、それだけを見れば株が大幅に売られるような状況ではない。しかしこれまでの大規模な金融緩和によって、特に米国の株式市場はバブル気味に上昇していたため、長期金利の上昇や議会での財政赤字拡大の動きをきっかけに、株価の調整が一気に進んだものと思っている。

今後もFRBが先陣を切って、さらに欧州や日本でも量的緩和からの出口戦略を進めていくため、金利や株価、為替相場だけでなく実体経済にも影響が及ぶ恐れがある。今後の企業運営には注意が必要であると感じている。

昨年来、注視してきたTPPについては、トランプ大統領から復帰に前向きな発言もあったが、まずは3月8日の署名式を予定通り行い、一刻も早く発効するよう、参加11カ国の迅速な手続きを期待したい。

RCEPは合意に至らず越年となったが、昨年11月の首脳会議では、市場アクセス・ルール・協力を柱とした質の高い協定の妥結を目指すことを再確認し、交渉妥結に向けて2018年に一層努力する旨の声明が発表された。今年こそ妥結することへの期待をしており、合意に向け引き続き関係者のご尽力をお願いしたいと思う。

日中関係については、1月28日の日中外相会議で、日中社会保障協定が実質合意に達した。日本貿易会は1999年から諸外国との社会保障協定を政府に要望し、2002年からは日本経団連、日本在外企業協会の3団体共同で活動を行ってきた。中国とは2011年に政府間交渉が始まり、足掛け8回、8年にわたる粘り強い交渉の結果、今回の合意に至ったものである。中国の日系企業駐在員は約7万人であるが、その年金保険料の二重払いが解消されることで、大きな経済規模が生まれる。関係者のご尽力に心から感謝しているところである。

私からは以上です。

質疑応答

(記者) プレミアムフライデーの開始から今月で1年が経つが、当初の盛り上がりに対して、最近は話題にも上らなくなった印象がある。この1年を振り返って、どれだけ効果があったとお考えか伺いたい。また、こういう取り組みを今後も続けていくべきなのか、また、修正の必要があるとお感じになるのであれば、その点もお伺いしたい。

(会長) プレミアムフライデーそのものは働き方改革の一環であり、その発想自身はもちろん悪くないし、この言葉も含めて浸透したものと思う。

企業がプレミアムフライデーをどのように取り入れているかに関しては、仕事の繁閑などに応じて、柔軟性を持ちながら行っている気がする。全体的に、働き方改革の一環として、このような発想は多数の企業が取り入れており、働く側にとっても、公私のバランス取る、あるいは将来に向けもっと勉強の時間を取る等、従来と異なる時間の使い方が浸透していくきっかけになっているのではないか思っている。

(記者) 為替がやや円高に振れる場面も見られるが、足元の為替市場の動向をどう見るか。また、各商社の想定為替レートよりも円高に振れていると思われる中で、各社への影響についてお伺いしたい。

(会長) 単純に考えれば、米国経済の調子が悪いわけではなく、日本経済も悪いわけではない。そのため、米国の金利が上昇する傾向にあるという観点からすれば、理論的にはドル高傾向になると考えられるが、そのように動いていないのが現状である。

少なくともドルが大幅に安くなることはないとは見ているが、為替や株価は、専門家でも当てることが難しいので、正直わからない。ただ、少なくとも今の為替に関しては、輸出関連企業を中心に影響が出ることは間違いない。為替は安定することが重要であり、安定すれば企業としても経営戦略の中でそれに対応することができる。しかし、為替が激しく上下し、「動く標的」のようになると難しい。商社への影響については、各社ともバランスを取っているはずなので、現状の為替の変動によって、大きい影響が出るとは考えていない。

(記者) 米国からTPP参加再検討といった話も聞かれるが、その場合のTPP11への影響と、TPP全体がこの先どのようなものになるとご覧になっているか、また、どのようになるのが望ましいとお考えか、お伺いしたい。

(会長) 冒頭の挨拶でも触れたが、3月8日にチリで11カ国による署名式が行われる。そのスケジュールそのものが今回のトランプ大統領のコメントによって左右されることはないと思う。実際の発効は1年程度先になると思うが、RCEPや世界の自由貿易推進の動きに対しても、前向きのインパクトがある。一方、TPPへの新規加盟はどの国であっても歓迎すべきものであり、米国が参加を検討することにも、反対する国はいないであろう。しかし、TPP11で合意した枠組みを変えることにはやはり慎重になる必要がある。米国が参加となれば11カ国との再交渉は避けられず、どのような条件交渉になるのか、これは予断を許さないということは言えるのではないか。

(記者) 米国が鉄鋼製品とアルミニウムの輸入制限を検討すると表明したが、こうした動きをどのようにご覧になっているか。仮に検討されている輸入制限を完全に実施することになれば、世界中で貿易戦争が起こるのではないかという見方もある。米国の輸入制限が、世界経済に与えるインパクトについてどのようにお考えか、お伺いしたい。

(会長) トランプ大統領就任後の一連の動きを見ていると、やはり米国の貿易赤字の改善を非常に重視していることは明らかであり、品目ごとに検証して、問題の改善をはかっていることの表れだと思う。

ただ、これから世界がどのように進んで行くのかという点については、日本は自由貿易推進を標榜して、TPPなどを進めており、保護貿易的な動きを強めている米国とは、しっかり議論して、ベクトルをもう一度、きちんと合わせていく必要がある。

不公正な貿易に関しては、対応策がとられることはやむを得ないとしても、それが本当に適切なのかという検証は必要だ。世界経済が発展するために、正しい方向に向かっているのかという確認だけは、適切に行う必要があると思う。

ビジネスを川の水の流れにたとえると、川下で必要なものがあれば川上から流していく、川上でいろいろなものがあれば、それを川下に流して利用してもらう。ここでいう川上とは、供給、つまり技術、商品であり、川下は市場、お客様となる。その観点に基づくと、国がどこであれ、商品が何であれ、自由に往来できることが、川下の世界の人々の幸せにつながる。だからその流れが自由でなくなるのは大きな問題であると思う。

少なくとも日本は、明治以来、貿易立国として成長してきた。それをもっと強く世界に訴え、理解を求めながらより良い世界を作るということ、その根幹になるのが、やはり自由貿易であると判断している。

以上