2018年5月16日に開催された会長定例記者会見要旨
2018年5月16日
本日は、日本貿易会の会長として最後の定例記者会見となる。過去4年の在任期間中、内外の政治経済、商社業界とも、全体としてはよい方向に進んできたと思っている。世界経済は新興国にまで景気回復が広がり、日本の景気はデフレ脱却に向けて着実に前進した。トランプ政権成立以降の米国政治は想定外であったが、TPP11は署名済み、日EU EPAも合意に至った。
しかし、今年に入って少し雲行きが怪しくなってきた。2月以降の株価や為替相場の混乱に加えて、3月には米国が安全保障を理由に鉄鋼とアルミの輸入制限、さらには広範な中国製品に対する輸入関税引き上げを表明したことで、一気に貿易摩擦がエスカレートしている。
米国は対日貿易赤字の縮小を目指して、日本とも二国間で交渉したい意向であり、6月にも茂木大臣とライトハイザーUSTR代表の間でFFRと呼ばれる新たな枠組みが開始されると聞いている。言うまでもなく、自由貿易体制の維持、拡大こそが日米を含む世界共通の利益につながる。貿易不均衡を正そうとする米国が、行き過ぎて自由貿易体制を揺るがし、日米経済、さらには世界経済の繁栄を損なうことがないよう、日本政府にはしっかりと交渉してもらい、ウィン・ウィンとなる道を見いだしてほしいと思う。
中国の知財権保護などの問題は、WTOのルールを順守した上で、実効性の高い対応策を打ち出していけるように、必要な環境整備などを、日米両国が協調して進めていくべきであると、粘り強く訴えていただきたいと考える。
先週開催された日中韓首脳会談では、北朝鮮問題のほか、自由貿易の推進を基本的な考え方として確認した上で、RCEPや日中韓FTAの交渉を加速していくことで合意した。TPP11にはタイなどが参加の意向や関心を表明するなど、自由貿易拡大を目指す努力も着々と進められている。こうした努力が実を結ぶことを心から願っている。
最後に、日本貿易会はこのほど商社行動基準を改定した。1973年に総合商社行動基準を制定し、総合商社が自らを律し、社会・経済の要請に応えて自覚的に行動することを宣言して以来、企業に対する社会の要請や、商社機能の変化に応じて、改定を加えながら受け継いできたものである。今回の改定ではSDGsやパリ協定の採択などを受け、商社が地球規模での環境問題や社会的課題を念頭に置いて活動していくことを明確にした。今年度は改定の趣旨を会員に徹底するとともに、広く社会に対しても商社の社会的役割についてご理解いただけるよう、広報活動を強化していくこととしている。
私からは以上です。
質疑応答
(記者) 先ほど発表された2018年1~3月期GDP速報値は、9期ぶりマイナスになり、景気拡大に陰りが見える結果であった。これをどう受け止めているか、お伺いしたい。
(会長) 発表されたばかりのニュースで詳細な分析はできていないが、中国の春節の影響、半導体業界の動向など、様々な要因があったのではないか。経済のファンダメンタルズは決して弱くないので、これから回復すると思うが、ポイントは消費の動向だろう。
(記者) 国内消費の実感について、商社業界としてはどう感じているか。
(会長) リテール業界の方と話をすると、国民の消費意欲は必ずしも高くないが、それを補う形で、外国人旅行者の消費が伸びており、表情は明るい。今後、賃上げなどの効果がどのように消費に表れるか、注視していきたい。
(記者) アメリカがイラン核合意からの離脱を表明したが、商社業界への影響は。
(会長) 残念ながら影響がないとは言えないが、制裁の具体的内容を精査する必要があり、その影響がどの程度になるかはまだよく分からない。イランは大きな市場で、資源大国としても魅力があるので、核合意後は各社がビジネスの検討を行ってきたと思う。しかし、核合意後でもアメリカのスタンスはクリアでない部分があり、注意深く見守ってきた。各社が影響を分析していると思うが、本件がよい形で収束することを期待している。
(記者) アルゼンチンやトルコで、通貨不安が起きているが、こういった新興国の動揺が商社業界にどんな影響を与えると見ているか、お伺いしたい。
(会長) 影響がないとは言えないが、世界経済の規模からいくと、大きなポーションを占めるわけではなく、業績の修正を強いられるようなインパクトはないと思う。
アルゼンチンは食糧など、トルコはインフラ関連などのビジネスで重要な国なので、動向を心配しながら見ている。いずれも将来性のある国なので、為替相場や経済の安定を期待したい。
(記者) 米朝首脳会談を控え、融和ムードは出ているが、まだ不確定な要素がある。北朝鮮問題の見方、またどういう期待感を持っているか、お伺いしたい。
(会長) 明らかに全体としては融和ムードであるし、対話の結果どのような合意ができるのかその内容に注目している。手放しで安心できる状況でないのは確かだと思うが、決して悪い方向ではない。やりとりに一喜一憂せず、長い目で将来を見据えることが大事だろう。合意ができれば、世界の平和のみならず、経済活動にとっても非常にプラスになるはずだ。
(記者) 商社行動基準を今回改定したとのことだが、改定のポイントをお伺いしたい。
(会長) 1973年に行動基準を制定して以降、社会情勢に応じて改定もし、当会会員商社が自発的に順守してきた。今回の改定は、企業の社会的責任に関する環境の変化、例えばSDGsの諸目標が広く意識されるようになったことに対応したアップデート。加えて、従来から取り組んでいる社会的な課題を、行動基準上も明確にしていこうという趣旨で、例えば人権尊重、従業員の健康への配慮、危機管理強化などを追加した。5月末に予定している当会定時総会でも、決議という形で行動基準の周知徹底を確認する。
(記者) 国内消費拡大には、インバウンド消費に頼らざるを得ない状況だが、今後どういった国からのインバウンド観光客が増えていくと予想するか、国内消費拡大では他に、どういった政策に期待しているか、お伺いしたい。
(会長) インバウンドについて、現状では、中国、韓国、台湾、香港で4分の3ほどを占めている。その意味では、タイ、マレーシア、ベトナムなど他のアジアの諸国と、欧米からもっと来てもらいたい。私も関与したが、観光庁の呼びかけで外国人観光客向けの広域周遊ルートを作った。お国柄に合わせて魅力を打ち出している。訪日外国人旅行者数は、2017年実績が2,800万人台で、これを2020年に4,000万人、2030年に6,000万人に増やす目標となっている、その分消費も増えると期待できるので、ぜひ実現したい。
国内消費の拡大では、シニアの消費拡大に期待したい。現状の少品種大量供給からシニアのニーズに沿った多品種少量の供給に切り替え、届け方なども新しい仕組みが出てくれば、まだまだ拡大可能ではないか。AIやビッグデータを活用した顧客ニーズ分析により、供給側から見たサプライチェーンを、お客様から見たデマンドチェーンにしていくなどの工夫も必要だ。
(記者) 会長ご自身はどんなモノやサービスに興味がおありになるか、お伺いしたい。
(会長) 健康や若さを保つ、心身共にリフレッシュできるようなもの。例えば旅行だろうか。必ずしも消費には直結しないが、いらないものをネットで売買して、毎日違った服を着るとか、毎日を違った生活にするようなサービスが、もっと出てくるのだろう。
(記者) 行動基準の中に、テロ、サイバー攻撃、自然災害などに備えた危機管理と情報セキュリティーの確保を徹底するとある。サイバー攻撃対応を加えたきっかけをお伺いしたい。また、ISACが組織内組織の形で立ち上がっているが、他業種では独立組織となっている例もあり、どのような方向を目指しているのか。
(専務理事) 自然災害であるとか、テロ、サイバー攻撃などに対して備えをすることに、社会的な関心が高まっており、しっかり取り組んでいくことを改めて確認したもので、特にきっかけがあったわけではない。サイバー攻撃に対しては、ISAC(Information Sharing and Analysis Center)という業界内での情報交換の仕組みを当会内に立ち上げ、2年余り活動してきた。組織形態は、今後を考える際のひとつの要素ではあるが、形態は何であれ、しっかり取り組んでいきたい。
(記者) 会長はそういう脅威を、実感しておられるのか、お伺いしたい。
(会長) 不透明な世界なので、何が起こるか分からない。備えは当然必要だと思う。三方よしの精神で、売り手、買い手のみならず、社会を意識して活動するのは、日本企業が過去100年、200年と実践してきたこと。それをしっかり意識することが大事だということを、リマインドしていると理解いただいたらいいと思う。
以上