2018年5月31日に開催された会長交代記者会見要旨

交代記者会見

2018年5月31日

小林栄三名誉会長(前会長)

先ほど終了した定時総会において、日本貿易会会長の職責を中村新会長に無事引き継ぐことができた。私は、今後、名誉会長として日本貿易会の活動をバックアップしていきたいと考えている。

先の定例会見でも話した通り、私が会長を務めた2014年5月からの4年間は、政治・経済・企業業績とも、概ね順調に推移してきた。商社業界もこの流れに乗って、全体としては堅調な歩みを続けており、日本や世界の経済の中で着実に存在感を増しているものと思っている。

その中で、日本貿易会は、貿易や投資に関する政策提言活動、海外要人との懇談、日本の貿易や商社活動に関する調査研究、シンポジウムやセミナーの開催など多岐にわたる活動を展開してきた。

特に私の持論である「内なるグローバル化」の推進については、2年間にわたる特別研究会の成果を昨年秋に書籍として発刊。当会創立70周年記念シンポジウムの場で、その内容を披露したことが、大変印象に残っている。まだまだ不十分ではあるが、日本国内で外国人高度人材の活用を進めようという機運が高まり、制度も整備されつつあることは大変うれしく思う。

当会が設立したNPO法人「国際社会貢献センター/ABIC」の活動についても、おかげさまで、この4月に創立18周年を迎え、活動会員数も商社OBを中心に2,800名を超えている。その活動分野は、日本企業の海外進出支援、小学校から大学までの教育機関への講師派遣、在日留学生・外国人への支援など多岐にわたっているが、この間、地方創生・活性化への支援が広がり、累計37もの自治体と協力関係ができていることは、大変すばらしいことだと思う。

こうした活動を、無事執り行うことができたのも、ここにいるメディアの皆様方をはじめ、当会関係各位の絶大なる支援、協力があってのものであり、この場を借りして、厚く御礼申し上げる。

バトンを渡す中村新会長は、国際ビジネスにおいて大変豊かな経験を持っている。新会長のもとで、日本貿易会の活動が一層活発化し、貿易業界、ひいては日本経済のさらなる発展につながっていくことを祈念し、私の挨拶とさせていただく。

中村邦晴新会長

本日開催された日本貿易会定時総会で、小林前会長はじめ、理事、会員の皆様に推挙いただき、会長職を引き受けすることとなった。身に余る光栄で、会長としての責任の重さに身の引き締まる思いがする。

2014年から4年間、小林会長は、「つなぐ世界、むすぶ心~新たな英知で世界に貢献~」というキャッチフレーズを掲げ、傑出したリーダーシップを発揮され、様々な分野で充実した活動を展開してこられた。私も、この流れをしっかりと受け継いで、日本貿易会と商社業界がさらに発展していくよう、微力ながら全力を尽くして努力する所存である。

当会では、新会長が就任する際に、活動方針を分かりやすいキャッチフレーズにまとめて発表するのが慣例となっている。私もいろいろと考えた結果、「未来をカタチに 豊かな世界へ 日本貿易会」とした。

目まぐるしく変化する社会と経済の要請を的確にとらえ、革新的な技術などを活用することで、「まだ誰も、見たことも経験したこともない、すばらしい未来、持続可能な未来を、目に見えるカタチで実現していきたい。それを通して豊かな世界を創っていきたい」という思いを込めたものである。

グローバリゼーションの急速な進展は、世界経済の発展に大きく寄与する一方で、多くの地球規模の課題も生み出している。2015年に国連総会で採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」は、先進国も途上国も、政府、NGOそして民間企業も、すべてが協力して2030年までにやり遂げるべき17の国際的な目標を示した。その中には、例えば、「エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」「産業と技術革新の基盤をつくろう」「住み続けられるまちづくりを」などが含まれているが、これら17の目標の多くが、まさにわれわれ商社業界が日々行っているビジネスの延長線上にあるものである。

日本貿易会は、この3月に「商社行動基準」を改定し、本日の定時総会でも改めてその周知徹底と遵守を決議したところである。改定のポイントはいくつかあるが、一番重要な点は、SDGsの諸目標を念頭に置きつつ、商社が持てる機能をフル活用して、持続可能な社会の実現に向けて積極的に貢献していくことを、活動目標の根幹に据えたところである。

さまざまな国、地域、産業分野で、政府・国際機関・民間企業などと、幅広く協力しながら活動している商社にとって、パートナーシップの構築は得意とするところである。その機能を存分に発揮して、グローバルな課題解決に努力していくことで、目標達成の役に立てることが多々あると信じている。

一方で、商社が、縦横無尽にビジネスを展開していくためには、自由な貿易、投資環境の存在が大前提となる。近年、保護貿易主義や自国第一主義の台頭により、その大前提が揺らぎかねない状況にあることを懸念している。日本貿易会としては、従来から政策提言を積極的に行ってきたが、今後も、自由で公正、包括的かつ先進的で、高いレベルの通商・投資ルールの構築、具体的にはTPP11、日EU EPA、RCEPなどの経済連携協定の早期実現、内容と範囲の拡充を、各方面に訴えていきたいと思う。

この他、社会保障協定の締結国拡大や小林名誉会長が言及された「国際社会貢献センター(ABIC)」の更なる発展など、取り組みたいことはたくさんある。本日出席のメディアの皆様にも、ぜひ、日本貿易会の活動を理解頂き、一層の支援を頂いて、充実させて参りたいので、よろしくお願いしたい。

質疑応答

(記者) トランプ米政権による自動車の輸入関税引き上げ検討の動きをどう見るか。

(中村新会長) 鉄やアルミに続いて自動車の輸入関税が引き上げられれば、影響は非常に大きい。より深刻な問題は、いわゆる報復関税のような応酬が、世界的に起こりつつあることだ。

商社業界としては、自由で公正な貿易投資ルールが重要だと考えている。そうしたルールがあるからこそ、企業が自由にビジネスを拡大していけるし、それが日本および世界各国経済の発展、さらにはSDGsの目指す持続可能な社会の実現につながる。日本貿易会では、政府にも提言をし、自動車の輸入関税引き上げを官民連携して阻止したいと考えている。

(記者) 米国は本当に自動車関税の引き上げを実施すると思うか。

(中村新会長) 率直に申し上げて、分からない。25%の自動車輸入関税は、日本だけが対象ではないはずで、メキシコや欧州など含めると、影響は計り知れない。NAFTAの行方にも大きく影響する。

(記者) 現地生産拡大など、商社業界の対応についてお伺いしたい。

(中村新会長) 対応策としては、現地生産拡大が考えられるが、輸入関税上乗せの適用期間にもよる。生産拠点は、短期間に建設できないし、完成した頃に関税が元に戻っていれば、投資回収も厳しくなる。これらを考えると、現時点では現地生産拡大に慎重にならざるを得ない。

(記者) 日本企業の進出が進んでいるメキシコでの自動車現地生産への影響はどうか。併せて、順守が徹底されていない新卒採用ルールへの見解、及び商社業界の対応についてお伺いしたい。

(中村新会長) 1点目の質問については、NAFTAの行方に加え、今回の追加関税問題の見通しがつかなければ、新規投資の判断は難しいと思う。

2点目の質問については、商社を含め、しっかりと順守している企業も多いので、実態をしっかり調査した上で、課題の本質、メリット、デメリットを見極めた上で対応していく必要がある。

(記者) アマゾン(Amazon)などプラットフォーマーの台頭に対抗した商社の生き残り戦略についてお伺いしたい。

(中村新会長) 先進的な技術やシステムを活用したビジネスモデルの立ち上げは、1つの業界で完結せず、様々な業界にクロスオーバーしていく。例えば、自動車業界でCASE(コネクティビティ=接続性、オートノマス=自動運転、シェアード=共有、エレクトリック=電動化)がトレンドと言われるが、これらは従来の自動車業界内で完結せず、IT業界や金融などとのクロスオーバーが出てくる。商社はあらゆるビジネスを展開し、あらゆる産業分野に深く関与しており、まったく異なる業界の人たちをつなぎ合わせる接着剤のような役割を担うことにより、新たなビジネスモデルをつくっていくだろう。こうした機能を発揮する上で、どこで、どんなことが起きていて、将来どうなるかという商社の情報収集能力が役立つ。

(記者) 商社でイノベーションを支える人材戦略についてお伺いしたい。

(中村新会長) 商社を支えているのは人材であり、新事業を創造できる人材の育成、人材への投資が重要。各社は、そのためのキャリア(中途)採用を積極的に行っており、今後人材の流動性はもっと高くなるだろう。

(記者) 明日「同一労働・同一賃金」に関する最高裁判決が出るが、商社業界の課題は。

(中村新会長) 商社の仕事は多様であり、事業を作り育てる仕事など、仕事の時間軸も長くなっている。こうした状況下、ある瞬間、ある一面しか見ず、同じ労働だから同じ賃金という判断は適当ではなく、より長い時間軸で多面的に捉える必要がある。

(記者) 商社の定年再雇用者の処遇について見解をお伺いしたい。

(中村新会長) 一律ではなく、個々の社員が持っている能力と、需要と供給の関係で決まっていくべきものだと思う。加えて、定年のあり方自体も、人手不足や社会保障との関係の中で、社会的にも変化していくと思うので、これらを総合的に考えていくべきであろう。

(記者) 自由な貿易投資の環境を求める提言の具体的な方策について、これまでの実績と今後の予定をお伺いしたい。

(中村新会長) 最近の実績としては、TPP11の早期実現に関して、経済3団体と共同で提言書を作成し、首相に直接手渡して要望を伝えた。今後も他の経済団体と連携を取りながら、TPPのみならず、RCEP、日EU EPA、その他の広域経済連携を推進する活動を進めていきたい。

(記者) 金融機関やファンドの投資と比較した商社の投資の強みについてお伺いしたい。

(中村新会長) 海外で、初めて会う方などには、商社とは何か、インベストメントバンクなのかという質問を受けることがあるが、この違いははっきりしている。投資ファンドやインベストメントバンクのビジネスモデルは、投資資産を一定期間保有した後、その資産を売却してリターンを上げるのが基本だ。

一方、商社のビジネスモデルは、長期間、投資資産を持ち続け、周辺にもビジネスを広げていく。商社は、様々なビジネスを組み合わせることによって、事業のバリューアップを図ることができるし、それを支える人材も持ちあわせている。トレードから投資まで様々なビジネスを経験した豊富な人材により、広い視野で投資先のバリューアップを実現できるのが強みだ。

以上