2018年7月18日に開催された会長定例記者会見要旨

定例記者会見

2018年7月18日

皆さん、おはようございます。本日は最初に、平成30年7月豪雨で犠牲になられた方々に心から哀悼の意を表すると共に、被災され、不自由な生活を送られている皆さんに、お見舞いを申し上げたい。

今回は私にとって最初の定例記者会見となる。5月末に会長就任の会見をさせて頂いたので、まだ1カ月半だが、内外の政治経済、特に国際的な貿易環境をめぐる状況は目まぐるしく揺れ動いている。

世界の二大経済大国で、わが国とも経済的な結びつきの強い米国と中国が、制裁関税を発動し合うという状況に至ったことは、非常に残念である。この問題は、米中二国間にとどまらず、世界的な貿易の停滞につながり、更には投資などを含めた経済活動全般への悪影響が懸念される。両国間では、交渉が続いていると聞いているが、こうした異常事態が早期に解決されることを期待している。

米国がWTO脱退を検討などというニュースも、しばらく前であれば、それこそ荒唐無稽なフェイクニュースということになったと思うが、まんざらあり得なくもない雰囲気になってきているのが、本当に心配なところである。

一方で、多国間のルールに基づく、自由で公正な高いレベルの通商・投資ルールを広げていくための努力も着々と実を結んでいる。TPP11の発効に向けた日本の国内手続きが完了したこと、日EU EPAが署名されたことは、GDP規模でも貿易額でも、世界で大きなシェアを占める経済連携であり、非常に重要である。TPP11は、タイ、コロンビアなど新規に参加を表明する国も相次いでおり、早期発効とともに、さらなる拡大にも期待している。

最後になるが、日本企業が自由に貿易や投資活動を展開する上では、まだまだ制度上の障害が残っている。日本貿易会は、6月19日に、経団連、日本在外企業協会と共同で、「ベトナムとの社会保障協定の早期締結を求める」との要望を行った。企業が海外駐在員のコストとして負担する、年金など社会保険料の二重払い解消は、FTAやEPAではカバーされない。ベトナムでは日本企業全体で年間約31億円の二重払いが発生すると現地商工会が試算しており、早急な対応を日本の関係3大臣に対してお願いした。ちょうど5月30日には、来日したベトナム国家主席歓迎昼食会の席で、本件の必要性について、直接発言させていただいたところである。日本貿易会としては、このような活動を引続き行っていく所存である。

私からは以上です。

質疑応答

(記者) 貿易摩擦について、日本政府はどのような対応を取るべきか、米国に対する報復措置を行うべきかどうか、見解をお伺いしたい。

(会長) 米中の報復関税応酬は世界経済にとって良いことは何もない。日本にとっては自動車に対する追加関税の影響が大きいが、自動車輸入に安全保障への影響はあり得ないということを、地道に米国政府に対して主張していただきたい。やられたらやり返す制裁関税の応酬では、世界のリーダー国としての資格が疑われると思う。ここは粘り強く議論を重ねて、解決策を見出してもらいたい。

(記者) 米中の報復関税の応酬により、米国消費者への影響や、中国経済への影響も予想されている。米国経済及び世界経済の行方をどのように見ているか。

(会長) 良いことは何もないと申し上げたが、制裁関税の影響は二通りある。ひとつ目は、関税が上がることによる直接的な輸出入数量減で、これが最初に出てくる。米中の企業のみならず、両国に進出している他国の企業も同時に影響を受ける。ふたつ目は、関税引き上げにより物価が上昇し、これが消費低迷、企業業績悪化、経済成長鈍化へと連鎖し、最終的に世界経済全体に影響が広がっていく。実際に世界経済の停滞まで行き着くには時間がかかるが、一旦そこまで影響が拡大してしまうと回復にも時間がかかるので、この間接的な影響が出る前に解決の道を探ってほしい。

(記者) 貿易摩擦の日本企業と日本の消費者への影響をどう分析されているのか。

(会長) 輸入規制が発動済みの鉄鋼及びアルミについては、影響は軽微だ。日本の輸出品は、米国にとって必要で、かつ米国内では製造されていない品目が中心である。一方で、自動車は輸出規模が格段に大きい上、非常に裾野の広い産業で、日本の国内景気への影響に非常に強い懸念を持っている。米国との交渉で、自動車および自動車部品にかかわる関税については、ぜひ回避していただきたい。

(記者) 今後、制裁関税の対象が生活消費財にも広がると、中国もしくは米国に進出している日本企業への影響もさらに広がるのではないか。

(会長) 景気全般への不安や不透明さが増せば、日本企業の投資にも悪影響が及びかねない。メキシコには、自動車関連、その裾野産業、もしくは素材関係の企業が数多く進出しているが、NAFTAの行方がどうなるか分からないということで、当面、新規投資は様子見ということになる可能性もある。そうした動きが他の国にも拡大することが懸念される。

(記者) 西日本の豪雨は、日本経済に中長期的な影響を与えるのか。日本貿易会の支援活動は。

(会長) 中長期的な経済への影響としては、道路をはじめとする交通インフラの被害で物流が停滞し、生産や消費が低迷することが懸念される。被災者の皆さんの生活再建のためにも、一刻も早く、交通インフラ、通信インフラをはじめとするすべてのインフラが復旧することを期待している。被災地への支援活動については、会員各社が個別に取り組んでいる。

(記者) EUのGDPR(一般データ保護規則)について、日本企業への影響は。

(会長) 情報がビジネスの大きな基盤となることは、もはや疑いない。情報の移転に伴ってビジネスも海外に移転してしまうようなことも、大いに考えられる。個人情報をどのように保護していくのか、グローバルなルールをどう確立していくのかは大変重要なことで、日本も早急に対応が必要だと思っている。

(記者) GDPRの基準は、厳し過ぎるという意見もあるが、グローバルスタンダードになると思うか。

(会長) 現時点ではわからないが、あまり厳し過ぎると、経済活動の阻害要因にもなりかねないので、試行錯誤しながら、最適な基準を作っていく必要がある。

(記者) 次々と出てくる輸入規制の内容や影響が見えにくいと感じる。日本貿易会で明確化に向けた取組みができないか。

(会長) 関税は品番で管理されており、不明確ということはないと思う。むしろ「貿易戦争」という言葉が先走って、対立が煽られることの方が心配だ。世界経済のリーダーとしての自覚を持って、自制的な行動を取っていただきたい。

(記者) Society 5.0やデジタル社会の推進に向け、大手商社各社もシリコンバレーやイスラエルなどに拠点を構え、投資機会の発掘に努めているが、その分野で、日本国内の規制緩和が必要と考えていることがあるか。

(会長) 商社としてビジネスを進めていく上では、規制緩和の必要性はそれほど感じていない。商社としては、むしろ、ビジネスの方向性、スタートアップ企業を見極める力をどう獲得していくか、人材をどのように育成していくのかというあたりが目下の関心事だと思う。

(記者) 貿易摩擦が過熱し、経済全般への悪影響が懸念される中、企業としては、どんな対策を考えておくべきか。

(会長) 例えば、制裁関税が長期化するようであれば、その国へ投資して現地生産するといったことも考えられるが、投資を決めてしまった後に、関税が撤廃されれば、採算がとれなくなってしまうリスクがある。先が見えない、予測がつきにくいというのが、企業にとって最大の問題だ。したがって、できるだけ早く先行きを見極めることが必要かと思う。

以上