会長交代記者会見(2022年5月31日)要旨

定例記者会見

2022年5月31日

小林健名誉会長(前会長)ご挨拶

本日はお忙しい中、日本貿易会の会長交代会見にご出席いただき、感謝申し上げる。

本日午前に開催した第98回定時総会にて國分文也丸紅株式会社取締役会長が日本貿易会の代表理事、会長に就任することが正式に決定した。私は、今後、名誉会長として当会の活動をサポートしていく所存である。まずは私より、2年間の在任期間を振り返りつつ、退任のご挨拶を申し上げる。

2年前に会長に就任した際、わが国をはじめ世界中が新型コロナウイルスによる未曽有の危機に直面した状態であった。コロナの感染拡大は、ヒトとモノの往来を制限し、経済活動の停滞をもたらすなど、世界経済に大きな打撃を与えた。コロナへの初期対応を巡っては、いくつかの地域・国において自国優先主義が台頭したが、ワクチンの開発・普及、供給体制の構築、急速なデジタル化の進展もあり、世界は今や、「ウィズコロナ」を前提とした社会経済活動へ移行し、この危機を乗り越えつつある。

また、地政学の面では、米中の覇権争いの先鋭化、ミャンマーのクーデター、タリバンによるアフガニスタン制圧、ロシアによるウクライナ侵攻など、さまざまなリスクが顕在化し、国際情勢の複雑さや不確実性が増す中、各種資源・原材料の供給懸念による価格高騰、サプライチェーンの混乱といった課題にも直面した。

経済および通商面においては、サプライチェーンの強靭化が重要性を帯びる中、RCEP協定発効、英国・中国・台湾のCPTPP加盟申請、IPEF(インド太平洋経済枠組み)の始動など、多国間貿易システムへの回帰・強化の動きもあった。

環境問題については、地球規模で解決すべき共通課題で協調の姿勢が見受けられ、特に、気候変動関連では、昨年開催されたCOP26において、立場や事情の異なる国々が歩み寄り、「1.5度目標」に関する合意が得られ、世界は低・脱炭素化社会への移行に向けて大きく前進した。

私は、就任時に「未知の時代を切り拓く 日本貿易会」というキャッチフレーズを掲げたが、このような状況下、まさに今まで経験したこともないような未知のファクターを切り拓くとの信念の下で、日本政府や各国の通商関連機関とも連携し、自由貿易・投資体制の維持・発展、自由な企業活動を支える環境整備に向け、積極的な提言活動等に取り組んできた。

また、世界がDXによるデジタル化社会、脱炭素によるカーボンニュートラル社会への移行に向けて大きく前進する中、商社がどのような責務を果たしていくべきか、さまざまな検討を行ってきた。SDGsをテーマとする商社シンポジウムを開催したほか、脱炭素社会の実現を目指す政府省庁、他団体との連携を進め、さらには、特別研究会「デジタル新時代と商社」を立ち上げ、デジタル化社会の実現に向けて商社がどのように対応していくべきかを議論した。

加えて、商社パーソン、中でも、シニア人材に社会で一層活躍していただくプラットフォームとして当会が創設した「国際社会貢献センター(ABIC)」 の活動を通じ、コロナ禍の制約がある中でも、政府・地方自治体、中小企業、教育機関、留学生支援組織などへの支援を活発に行った。

バトンを引き継いでいただく國分会長には、豊富なビジネス・財界活動の経験に裏打ちされたリーダーシップを存分に発揮いただき、引き続き、自由で開かれた貿易・投資の枠組みの維持・拡大やビジネス環境の改善、わが国を取り巻く諸課題の解決に向け、取り組んでいただきたい。

最後になるが、関係各位の多大なるご支援に対しまして、この場をお借りして、厚く御礼申し上げる。メディアの皆様方におかれては、コロナ禍もあり、定例記者会見のほとんどをリモートで開催するなど、色々とご不便、お手数をお掛けしたが、ご理解、ご協力を賜り、心より感謝申し上げたい。また、國分会長に対する変わらぬご支援のほどよろしくお願い申し上げる。

國分文也会長ご挨拶

本日開催された定時総会において、小林前会長をはじめ、理事、会員の皆さまにご推挙いただき、会長職をお引き受けすることになった。日本貿易会は、設立から70年を超える歴史を有する業界団体であり、大変名誉なことと受け止めるとともに、その職責の重さに身の引き締まる思いがする。

当会では、新会長が就任する際、活動方針をキャッチフレーズにまとめて発表するのが慣例となっている。

過去2年間、小林前会長は「未知の時代を切り拓く 日本貿易会」というキャッチフレーズを掲げられ、コロナ禍によりビジネスモデル、社会の仕組み、人々の生活の在り方が激変する中、傑出したリーダーシップで柔軟かつダイナミックに変化に対応され、当会の活動をけん引してこられた。私もこの流れをしっかりと受け継ぎ、日本貿易会と商社業界のさらなる発展を期して、微力ながら全力を尽くしていきたい。

私もいろいろとキャッチフレーズを考えた結果、「ともに築こう、サステナブルな世界を 日本貿易会」とした。これは、健全な企業活動を通じてすべての人が豊かさを感じられる社会を理想とし、その持続可能性を高めることを目指すものである。「サステナブル」の本質は単に環境問題にとどまらず、人権問題や企業統治、デジタル社会への移行など、より幅広い社会課題を含む。そして、そこでは自由な貿易・投資ができる環境が欠かせない。ヒト、モノ、カネといった有効な資源を最も必要とされるところに効率よく行き渡らせること、それこそが経済成長とサステナブルな世界の共存を支える基盤となると考える。そして、これはわが国が掲げる自由貿易・投資体制の推進という基本政策と一致するものと言える。

今日、相次ぐ地政学リスクの顕在化により国際情勢は緊張が高まっている。通商面でも、米中が覇権を争う構図に変化はなく、さらに各国のロシアへの経済制裁が強まる中、従来のサプライチェーンが機能不全となり、貿易や投資の自由化・円滑化の流れを阻害するような動きも見られる。このような時だからこそ、グローバルに自由な貿易、投資ができることのありがたみ、価値が再認識されていると考える。通商・外交における国際的な連携・協調に向けて、わが国が果たすべき役割はますます重要になっていると認識する。当会としても、会員企業一丸となって、政府省庁・関係機関、他業界・他団体と連携し、その取り組みを後押ししていきたい。

小林前会長をはじめ、歴代会長の皆さまが積み上げてこられた成果をしっかりと受け継ぎ、自由で公正な貿易・投資環境の維持・発展やビジネス環境の改善に向けて、より積極的な政策提言等に取り組んでいくので、皆さまには引き続き、一層のご支援を賜りますよう、よろしくお願いしたい。

質疑応答

(記者)在任中を振り返り、最も印象に残っていることは?

(小林名誉会長)日本貿易会の機能の一つである政府に対する提言活動が挙げられる。日本貿易会会長として政府の諮問機関にも参加しており、経済・通商面での政策提言に注力した。コロナ対応については、科学的根拠に基づく判断の重要性を訴えた。有効な飲み薬が出てくれば、ウィズコロナでの社会経済活動が常態化するだろう。また、地政学リスクが顕在化する中、G7唯一のアジアの国、アジア諸国を代表する国という日本の立ち位置を深く真剣に考えることの重要性を痛感し、さまざまな提言を行った。例えば、IPEFにおける日本の役割への期待は大きく、通商面で活躍できる道が大いにあろう。

(記者)新会長としての抱負は?

(國分会長)商社業界はあらゆる業界、地域へのアクセスを有するという機能により社会課題に対応し、解決に貢献しながら、日本の経済成長と共に発展してきた。商社の機能に変わりはなく、ヒト、モノ、カネの自由な動きに制約がある今こそ、会員企業一丸となって、さまざまな形で政府等への政策提言、情報発信を行っていきたい。

(記者)EUのロシア産石油の禁輸合意、ロシア産エネルギー脱却の流れに対する受け止めは?

(國分会長)日本政府もG7諸国と連携してロシア産エネルギーからの脱却に取り組む方針と認識しており、今回のEUの合意を評価したい。権益については、日本政府はエネルギー安全保障の観点から基本的に守るという明確な方針を示しており、G7でもコンセンサスを得ていると認識している。サハリンプロジェクトに限らず、民間としても政府と連携・協調し、役割を果たしていく。

(記者)食料安全保障についての考え方は?

(國分会長)食料不足は世界的な問題であり、ウクライナのロジスティクスを含め大変な危機にあると認識している。人道問題に直結する食料の安全保障は切実な問題である。食料はエネルギーとは性格が異なり、禁輸等の制裁とは一線を画すべきグローバルな問題と理解している。

(記者)提言活動でやり残した事項は?

(小林名誉会長)提言すべきことはすべて提言してきた。コロナ対応については、一貫して科学的根拠に基づく判断を求め、特に通商面で水際措置の早期緩和を要望した。エネルギー政策については、基本計画に則した原子力利用の早期の検討開始を要望した。通商国家である日本にとって友好国との協調も含め経済安全保障は大事であり、法制化は提言が実ったものと認識している。今後、法律の実装過程でも提言していくことになろう。

(記者)今後注力したい提言事項は?

(國分会長)通商関連ではIPEF、CPTPPなど地域経済連携の枠組みや経済安全保障などの環境整備、環境関連では資源が少なく選択肢が限られる中での2050年カーボンニュートラルに向けた政策などに優先度を置いて、提言をまとめていきたい。

以上