会長定例記者会見(2022年7月20日)要旨

定例記者会見

2022年7月20日

はじめに、先日逝去された安倍晋三元総理大臣に心より哀悼の意を表する。
安倍元総理は、憲政史上最長の在任期間中、世界に誇りうる政治リーダーとして、内政面では、アベノミクスによる日本経済の再生、外交面では、日米同盟を基軸とした「地球儀を俯瞰する外交」を通じて、わが国の国際社会におけるプレゼンス向上に尽くされた。特に商社業界としては、世界各地で保護主義的な動きが広がる中、「自由で開かれたインド太平洋」構想を提唱され、自由貿易のリーダーとして、TPP11協定を始め、日EU EPA、日米貿易協定の早期発効に尽くされたことに、改めて感謝を申し上げたい。
岸田総理には、参議院選挙の大勝による安定した政治基盤の下、国内外に山積する重要課題について、不人気政策であっても国民の納得をしっかりと得た上で課題解決に向けた取り組みを力強く推進していただくことを期待する。

G7サミットについて。
自由、民主主義、人権、法の支配といった普遍的価値を共有するG7諸国の首脳が一堂に会し、ウクライナ危機の長期化によるエネルギーや食料の価格高騰、サプライチェーンの混乱に対し、G7として結束した力強い意思が示されたことを歓迎する。
今、コンセンサスをベースとした国際的な枠組みがなかなかワークしない中で、G7の役割は非常に重要であると考える。通商・外交における国際的な連携・協調に向けて、わが国が果たすべき役割はますます重要になっている。8月末には、わが国が開催を主導する第8回アフリカ開発会議(TICAD8)がチュニジアで開催され、来年5月にはG7サミットが広島で開催される。当会としても、会員企業一丸となって、政府省庁・関係機関、他業界・他団体と連携し、その取り組みを後押ししてまいりたいと考える。

ウクライナ情勢と日本のエネルギー政策について。
ロシアのウクライナ侵攻により、エネルギー安全保障の問題が顕在化したと考える。G7諸国の中でも各国の事情がそれぞれ異なる中で、ロシアへの経済制裁との整合性、カーボンニュートラルへの道筋とのバランスを踏まえた上で、どのようにエネルギーを確保していくのか。特に、経済を棄損しない形でのエネルギーの安全保障は、大きな問題として顕在化していると捉えている。
翻って、改めてわが国は資源のない国であることを再認識した。わが国のエネルギー⾃給率は約12%にとどまる。2050年カーボンニュートラルの実現を踏まえ、政府には、エネルギー源の多様化と、安定的かつできる限り安いコストでのエネルギー確保に向けた戦略を早期に示していただきたいと考える。今夏の電力需給ひっ迫状況を見ても、一刻の猶予もない状態であると認識する。
具体的には、一つは再⽣可能エネルギーの活⽤拡⼤である。送配電網については、特に政府主導でしっかりとした整備が必要であろうと考える。二つ目は、原子力発電所である。岸田総理は今年の冬に最大で9基稼働すると一歩踏み込んで表明された。原発の再稼働については、科学的な安全性が確保され、地元住民のコンセンサスを得られたものは進めていただきたい。その上で、原子力政策に関しては、再稼働のみならず、例えば新増設についての考え方、原子炉の寿命についての考え方、バックエンドについての議論も深めていただきたいと考える。
エネルギーを取り扱う商社業界としては、安定供給を担う責任の重要性に加え、何らかの要因でそれが途絶した場合の影響を総合的に勘案し、適切に対応していく必要がある。わが国のエネルギー安全保障にも関連する⾮常に難しい問題であり、引き続き、政府と緊密に連携していくことが重要であると考えている。

次に、円安と物価高について。
コロナ禍を背景に物流の混乱や運賃高騰が生じていた中、ロシアのウクライナ侵攻によって、エネルギー・食料などの世界的な需給バランスやサプライチェーンに一層の混乱が生じ、資源価格や輸送コストが高騰している。
一般的に、商品価格の高騰を通じた物価上昇は、実質賃金の低下を通じて、家計を圧迫し消費を抑制することにつながる。企業部門では原材料価格高騰分の価格転嫁に苦慮する様子が見られ、企業経営を圧迫する懸念が強まっている。
円相場は一時、1ドル=139円台と、約24年ぶりの円安水準にまで下落するなど、今春来の円安傾向に歯止めがかかっていない状況である。
これまで円安は、輸出面や海外資産の増加という面から日本経済にポジティブとされてきた。しかしながら、現在の円安は、供給サイドに制約がかかり、それによるさらなる物価上昇が起き、企業業績の押し上げ要因に必ずしもなっていない。
先行きに予断は許されず、為替相場の動向と併せ、各国の金融政策や物価対策を引き続き注視してまいりたい。

最後に、日本貿易会特別研究報告「デジタル新時代と商社」について。
商社各社がデジタル化によるビジネスモデル転換や新規ビジネス開拓に注力する中、当会は、デジタルは各社にとって「競争領域」であるのみならず、業界で知恵を結集して共通のプラットフォームを創り出す「協調領域」であると捉え、2021年4月に「デジタル新時代と商社」特別研究会を立ち上げた。
研究会には会員企業13社が参加し、各商社の共通課題やデジタル活用事例、協調可能な領域などについて1年間にわたり活発な意見交換や研究を重ねた。その研究成果をお手元の1冊の書籍にとりまとめ、7月12日に発刊したのでご一読いただければ幸いである。

質疑応答

(記者)ロシアのサハリン2運営に関する大統領令署名に対する受け止めは?

(会長)対ロシア経済制裁は、G7のコンセンサスに従っていることが重要であり、大前提となる。その上で、エネルギーについては、各国の事情に応じて対応することになる。日本政府は、早い段階から、わが国のエネルギー事情を踏まえサハリン権益を継続保有する方針を明確に示している。今回の大統領令は国際法上も国際商慣習上も非難されるべき決定であり、官民が連携し、ロシアのペースに乗らず、権益確保に向け適切に対応すべきと認識している。

ロシアという国は国際社会の通念や常識が通用しないことが改めて顕在化した。今後、事態が終息してもビジネスの判断は難しくなると基本的に受け止めている。

(記者)ビジネスの判断は難しくなるとのことだが、ロシアに投資する国は少なくなるということか?

(会長)事態がどういう形で終息するか分からず何とも言いようがないが、終息後のロシア政権がどうなろうとも、ロシアは戦後の国際的枠組みを全て壊したということを教訓として考えることになろう。

(記者)サハリン1もサハリン2と同じ受け止めか?

(会長)同じである。

(記者)ロシアに限らず投資はリスクを伴うが、中長期的には、どこでどのような投資を行うことになると考えるか。

(会長)商社はグローバルなサプライチェーンのさまざまなレイヤーにアクセスを有し、そのアクセスをインフラとして、いつの時代も社会課題に向き合い、対応してきた。その点は不変であるが、今や社会課題に対応する個社の戦略は多様化しており、どこでどのような投資やビジネスを行うかは各社各様である。

以上