会長定例記者会見(2022年9月21日)要旨

定例記者会見

2022年9月21日

はじめに、英国エリザベス二世女王陛下の崩御について。
エリザベス二世女王陛下は、英連邦王国の君主として70年にわたり在位され、連邦加盟国はもとより、国際社会の平和と繁栄に極めて大きな役割を果たされた。ここに謹んで哀悼の意を表する。

まず、8月27、28日にチュニジアで開催されたTICAD8について。
アフリカの地で、日本側関係者と現地各国首脳や高官が一堂に会し、投資促進や産業人材育成における連携の重要性などを再確認した共同文書「チュニス宣言」を採択することができ、成功裡に閉幕したと評価する。
アフリカ諸国は多くの課題に直面しており、足元では、ロシアのウクライナ侵攻により、食料をロシア・ウクライナからの輸入に依存している多くの国で、食料危機が懸念されていると認識している。
岸田総理は演説で「日本はアフリカと共に成長するパートナーでありたい」と述べられたが、TICADのテーマの一つである「人間の安全保障」に関する課題の解決に向けて、わが国が果たすべき役割は大きいと考える。
当会の会員企業の多くも、今回のTICADに合わせて脱炭素化やインフラ開発などで協力する覚書をアフリカ側と交わしている。さまざまな課題の解決に向け、商社としてもこれまで以上に活躍の場があり、これから貢献が求められるのではないかと認識している。
日本政府には、是非、官民連携によるアフリカビジネスの一層の推進を後押ししていただきたいと考える。

次に、9月8、9日に米国で開催されたIPEF閣僚会合について。
このたび、参加14ヵ国全ての関係閣僚が対面で議論し、「貿易」「サプライチェーン」「クリーン経済」「公正な経済」の4分野での正式な交渉入りが合意に至ったことを歓迎する。
地政学リスクが顕在化し、サプライチェーンの強靭化の重要性が増す中で、インド太平洋地域の各国が競争力を維持・強化し、成長を続けていく上で、米国がこの地域の経済的枠組みに深く関与することは、極めて重要であると認識している。
IPEFは、マーケットアクセスがないという指摘があり、実効性向上が今後の課題と考える。貿易分野ではインドが現段階での参加を見送っており、今後の交渉を通じてどのようなメリットを示すことができるかが問われていると認識する。
日本政府には、今後のルール作りなどにおいて主導的な役割を果たし、多様性、包摂性を尊重しながら、開かれた、かつハイレベルな枠組みを目指していただきたい。中でも、脱炭素化については、性急な化石燃料からの脱却が難しいアジアの実態を踏まえて、わが国が、アジアと米国の橋渡し役となることが期待されていると考える。
また、自由で公正な貿易ルールに基づいた多国間貿易体制のさらなる強化に向け、引き続き、米国のCPTPP復帰を粘り強く働き掛けていただきたい。日本貿易会としても、より開かれた市場の実現のため、現場感覚に基づき積極的に提言を行ってまいりたい。

次に、日本のエネルギー政策について。
主要先進国の一員として、わが国が再エネを中心としたエネルギーミックスに移行し、カーボンニュートラルを実現することは、必達の目標である。
まず、再エネを最大限活用するため、ボトルネックの解消、例えば送配電網の強化などが喫緊の課題と認識しているが、これには巨額の設備投資が必要であり、民間だけでリスクを取るのは非常に困難である。こうした再エネ導入の基盤となるインフラ拡充は、政府の主導的役割が期待される分野の一つであると考える。
他方、再エネが化石燃料に置き換わるには一定の時間を要するため、計画性を欠いた化石燃料比率の引き下げでは、経済や国民生活に大きな影響を与えかねない。温暖化ガス排出の極小化と両立させるためには、原子力発電所の稼働が不可避であり、岸田総理が言及された通り、安全性が確認された原発の再稼働は着実に進めていただきたい。
また、既存炉の運転延長やリプレイス、次世代型革新炉の開発・建設、さらにはバックエンドまで含めた燃料サイクルなど、原子力エネルギーの長期的戦略に関する議論を早急に進めていただきたいと考える。
必要なエネルギーが得られないことが、脱化石燃料を遅らせるという反作用を招くことはあってはならず、カーボンニュートラルに向けたエネルギー政策には、安全保障の視点も踏まえて、日本のエネルギーセキュリティの観点も忘れず、十分な実現可能性を備えたロードマップが求められていると認識している。

最後に、日本貿易会月報について。
9月号では、当会会員企業がダイバーシティ&インクルージョンの一環として積極的に取り組む障がい者雇用の施策を取り上げている。また、当会の貿易動向調査委員会委員長が分析した「2022年上半期の日本の貿易動向と今後の注目点」と題したレポートを掲載している。ご一読いただければ幸いである。

質疑応答

(記者)8月の貿易収支が単月で過去最大の赤字となったことに対する受け止めは?
また、円安傾向に対する受け止めは?

(会長)日本企業は生産拠点を海外にシフトし、海外投資からリターンを獲得するモデルに転換しており、円安により輸出が促進され貿易収支が改善するという構図は崩れつつあると認識している。
円安は基本的に日米金利差の影響によるものと認識している。米国の金融当局は物価上昇を抑え込む姿勢を明確にしており、他方、日本の金融当局に金利を上げる選択肢はおそらくない。これ以上の急激な円安が望ましくないことは明らかだが、政策判断は非常に難しいと思う。

(記者)商社の物価上昇への対応は?

(会長)物価上昇や円安の影響を考えると、個社ごとの対応は難しい状況だと思う。商社業界としては、円安の背景にある米国金利上昇が、米国だけでなく、欧州、中国も含めた世界経済にどのような影響を及ぼすかが最大の関心事であり、注視していきたい。

(記者)再エネの最大限活用に向けて政府に期待するところは?

(会長)送配電網を例に挙げると、メッシュ型の欧州と異なり日本は焼き鳥の串のような型であり、ボトルネックが起きやすい。周波数の違いの問題もある。整備には兆円単位の費用を要し、民間だけでは対応できないため、再エネ導入の基盤となるインフラは政府主導で整備していただきたい。

(記者)日中国交正常化50周年を迎えるが、経済安保の面を含め、中国との向き合い方は?

(会長)日本と中国は経済的結び付きが大きく、デカップリングはできないので、白黒ではなく、バランスをどう取るかということと認識している。経済安全保障の観点では、商社はサプライチェーンを通じて関与できる役割があると思う。

(記者)サハリン2の状況に対する受け止めは?

(会長)日本政府より最初の段階から明確に権益を守る方針が示される中、権益が維持されることとなり、エネルギー安全保障の観点から評価している。新会社の(株主間協定の条件等の)具体的な枠組みはこれから構築されると理解している。

以上