会長定例記者会見(2022年11月30日)要旨

定例記者会見

2022年11月30日

まず、G20とAPEC首脳会議について。
先日、G20とAPECの首脳会議が相次ぎ対面で開催された。私もABAC日本委員として、バンコクで4年ぶりに対面開催されたAPEC関連の会議に参加した。 両首脳会議とも岸田首相が出席され、米国・バイデン大統領、中国・習近平国家主席、韓国・尹鍚悦大統領をはじめ多くの首脳と対面で議論が行われたことは、ポストコロナに向けた大きな一歩として意義のあるものだった。
ロシアのウクライナ侵攻をめぐる立場の違いから、首脳会議に先立つ閣僚会合では共同声明の採択が見送られてきたが、今回のG20、APECが共同声明の発出までこぎつけたことは、コンセンサス型の国際的な会議体の維持という観点から高く評価されるべきと考える。
また、岸田首相と米国、中国、韓国など主要国の首脳とのバイでの面談・対話が実現したことは同様に大変意義があった。
来年、APECは米国、そしてG7は日本が議長国を務める。日本政府には、米国と緊密に連携し、あらゆる課題に対して、国際協調を促すイニシアチブを取っていただきたいと考えている。

続いて、 COP27について。
先日、COP27がエジプトで開催された。気候変動への対応は世界の最優先課題であるが、自国優先の動きが目立ち、2030年排出削減目標の達成が難しいとされる中での開催となり、各国の揺るぎのない結束した協調が改めて問われた会議となった。
最大の焦点となった気候変動の「損失と被害」に対する資金支援について、国連の枠組みの中で立場や事情の異なる国々が歩み寄り、途上国などを対象とする新たな基金創設が決定されたことは、一定の評価ができるのではないかと考える。
来年のCOP28に向けて具体的な内容が検討されているが、気象災害など温暖化の影響は世界中で顕在化しており、真に支援を必要とする国・地域に必要な資金を迅速に提供できる仕組みの構築が求められる。
また、産業革命前からの気温上昇を1.5度以内に抑える目標については、昨年のCOP26で採択した「グラスゴー気候協定」の内容が改めて成果文書に盛り込まれ、石炭火力の段階的削減および非効率な化石燃料に対する補助金の段階的廃止を進めることが再確認された。多くの国がエネルギー危機に直面している現況において、一定の調整力が発揮されたものと理解するが、温暖化防止に向けては、今後より一層踏み込んだ努力が求められることになると考える。
なお、日本政府は、パリ協定6条に基づく国際的な温室効果ガス排出量取引の円滑な実施に向けた協力体制づくりを呼び掛け、60超の国・地域・機関が参加する「6条実施パートナーシップ」を立ち上げた。引き続きリーダーシップを発揮していただきたい。
長期的に再エネを中心としたエネルギーミックスに移行し、カーボンニュートラルを実現することは必達の目標である。他方、経済活動や国民生活を維持するためには、安定的にかつ価格競争力のあるエネルギーの調達が課題であり、この2つのバランスをしっかり担保していくことが重要と考える。商社業界としても、気候変動問題を最優先の経営課題として捉え、途上国のエネルギートランジションに向けた技術・資金両面での支援など、事業活動を通じた課題解決に主体的に取り組んでまいりたいと考えている。

次に、自由貿易・投資体制の維持、拡大の重要性について。
足元ではコロナ禍やロシアのウクライナ侵攻が、自由貿易・投資の阻害要因となっているが、多国間の自由貿易・投資体制を脅かす動きは、それ以前から存在していた。 国家間対立に起因した相互の関税強化や貿易規制がその典型であり、WTOのルール形成や紛争処理機能の低下がそれに拍車をかける形になっている。
日本貿易会では「サステナブルな世界の構築」を標榜しており、自由貿易・投資体制はリソースの効率的な配分を促す観点からも欠かせない基盤であるとの認識から、政府と同様一貫して推進の立場である。
根幹となるWTOの改革は喫緊の課題であるが、当面はCPTPP、RCEP、IPEFなどの多国間協定・枠組みにおいても、可能な限り多くの参加を得ることでアジアを包摂する自由貿易・投資圏を形成することが望まれる。
政府には、多様性を尊重する、開かれた、かつハイレベルな枠組み形成に向けて、引き続き、リーダーシップを発揮していただきたいと考える。

最後に、お知らせについて。
既にご案内の通り、12月8日に当会会議室にて「2023年度わが国貿易収支、経常収支見通し」について記者発表を行う予定である。当会の貿易見通しは、マクロの見通しに加え、商社の営業部門や業界関係者へのヒアリングを基に、商品別に数字を積み上げて作成するユニークなもので、ぜひご出席いただきたい。

質疑応答

(記者)中国におけるゼロコロナ政策に対する抗議活動をどう受け止めているか。

(会長)ゼロコロナ政策はサプライチェーンへの影響が非常に大きい。世界経済はサプライチェーンの相当部分をまだ中国に依存しているので、サプライチェーンを通じた影響は相当大きいのではないか。
抗議活動については、規模感など詳しい状況は分からないが、個人的には、北京、上海、広州という大都市で同時に起きていることや、大学が中心となって若者が参加していることなど、これまであまりなかった動きに驚いている。やはりロックダウンが生活に影響し、フラストレーションがあるのではないか。今後の動きを注視したい。

(記者)中国のゼロコロナ政策による現地ビジネスへの影響は。

(会長)日常のある程度流れているビジネスはリモートベースでカバーできているが、顧客と共に新たなビジネスを作っていくところは難しいだろう。短期的なオペレーショナルなところは対応できるが、長期化した場合の影響は相当大きいと思う。

(記者)米国経済の先行きをどう見ているか。

(会長)FRBはインフレを抑え込むことに主眼を置いているので、ソフトランディングできるかどうかによって全く違うシナリオになる可能性があり、その点を最も懸念している。オーバーキルがメインシナリオになるかどうかが、今後1~2年の世界経済への影響を見通す上での最大のファクターではないか。

(記者)政府のカーボンプライシング導入に向けた制度案をどう受け止めているか。

(会長)GXを推進する上での財源の問題やCO2排出削減の観点から、形はどうあれ、カーボンプライシング導入は必然的なものと認識している。政府には、キャップ&トレード、つまり、キャップとの過不足分の取引をどうするかについて、有効に機能するしっかりした制度設計を行っていただきたい。

(記者)カーボンプライシングのビジネスへの影響は。

(会長)商社はグローバルに電力などエネルギー分野のビジネスを展開しており、国内だけでなく海外各国の制度に対応した上で競争力のあるエネルギーを調達している。CO2についても、短期的には各国の制度設計の影響を受けるかもしれないが、中長期的には各国の制度に対応する形でビジネスを強化していくことにつながる機会として捉えている。また、各社ともCO2削減の技術的なところに相当注力しており、新しいビジネスモデルができることを期待している。

記者)エネルギー価格の見通しは。

(会長)国際価格については、石油はロシアによるウクライナ侵攻前の水準に下がってきているし、ガスも落ち着いてきている。冬場を迎え、一時的な、あるいは一部地域での価格上昇はあるかもしれないが、大きなトレンドとしては落ち着いていくだろう。国内の電力価格については、価格設定の制度設計にフラジャイルなところがあり、政府もサステナブルな制度への見直しを検討していると認識している。

(記者)円安の状況をどう受け止めているか。

(会長)日本は輸入依存度の高いエネルギーと食料のダブルで円安のパンチを受けたが、政府のターゲットを絞った対策により価格はある程度抑え込めたのではないか。企業としては予見できないほど大幅かつ一方的に円安が進行するシナリオは避けてほしく、今後の日銀の金融政策を注視している。
商品・サービス価格にせよ、賃金にせよ、日本は先進国の中で圧倒的にコストが安い。根本的には、ビジネスモデル変革やイノベーションにより、どれだけ日本の経済力や生産性を上げていけるかという問題であり、危機感を持っている。

以上