会長定例記者会見(2023年7月19日)要旨

定例記者会見

2023年7月19日

まず、「英国のCPTPP署名」について。
わが国にとってグローバルな戦略的パートナーであるとともに、重要な貿易・投資相手国である英国が、7月16日にCPTPP署名に至ったことを大いに歓迎する。また、2021年の加盟協議のプロセス開始以降、これまでの日本政府の英国との協議における粘り強い交渉努力を評価したい。

ロシアによるウクライナ侵攻が長期化し、比較的安定していた「ポスト冷戦」時代が終焉を迎えている歴史的転換点において、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を堅持することの重要性が一層高まっている。ハイレベルな貿易投資ルールが環太平洋を越えて広がり、CPTPPの枠組みのもと普遍的な価値観を共有する有志国の増加は、大きな意義を有すると考える。
また、今後の新規加入交渉の参考となる、適切な先例が確立できた点においても意義がある。

CPTPPは、関税の引き下げや、投資・サービスの自由化を進め、さらには知的財産など幅広い分野における高水準のルールを構築する多国間経済連携協定であり、自由な貿易と投資の推進を標榜する日本貿易会としても、世界貿易機関(WTO)を補完する重要な枠組みと位置付けている。無論、同時に、経済のブロック化傾向には、十分注意する必要があることも申し添えておきたい。
今後とも、自由で開かれた地域経済連携が一層強化されることを大いに期待するとともに、米国の復帰を目指して、引き続き日本政府のリーダーシップを期待したい。

次に、「ウクライナ復興支援」について。
甚大な被害を受けているウクライナ国民の生活インフラを速やかに復旧・復興させることは、世界全体にとっても非常に重要な課題である。6月21、22日に英国で「ウクライナ復興会議」が開催された。ウクライナの惨状に危機感が共有され、復興支援のための新たな拠出(総額600億ドル)が合意された意義は大きい。
また、22日には英国でわが国独自の取組みとして「日本・ウクライナ官民ラウンドテーブル」が開催された。日本が戦後の荒廃から発展を遂げ、東日本大震災などの自然災害を乗り越えてきた経験や知見に期待が寄せられている。
復興支援にあたっては、官民が連携して開発協力を推進していくことが不可欠である。ODAをより効果的・戦略的に活用するために、「オファー型」の協力を推進し、日本の強みを活かした支援策の提案が、民間資金の呼び水となりうるような制度設計が進められるべきであると考える。
一方、未だ戦争終結の糸口が見えない中で、民間企業にとっては、現地での安全が確保されていることが大前提となる。一刻も早く戦争のリスクを感じることのない事業環境が整うことを願っている。

最後に、「経済財政運営と改革の基本方針」について。
6月16日に経済財政運営と改革の基本方針、いわゆる骨太方針2023が閣議決定された。
「骨太方針2023」は、岸田首相の看板経済政策である「新しい資本主義」の考え方に沿ったものであり、特に次世代半導体・蓄電池などの戦略分野や、グリーン(GX)やデジタル(DX)といった高成長が見込まれる重点分野への政府投資を呼び水とした民間投資の拡大によって、日本の産業競争力の強化につながることを、大いに期待している。
また、財政運営に関して、膨張したコロナ関連の歳出の正常化を明記するなど財政健全化に向けた姿勢・目標を堅持する一方で、財政再建が重要分野への歳出拡大を妨げないことも明記されており、足元の「経済好循環の芽を潰さない」ことに重きを置いている点を高く評価する。
今後はそれぞれの施策を早期に着実に実行に移し、成長分野への投資拡大と労働市場改革を通じた構造的な賃上げなどによって「成長と分配の好循環」が実現することを期待している。

質疑応答

(記者)ウクライナ関連で、ロシアが黒海の輸送延長を停止したことにより、当面アフリカ諸国等への影響を懸念する。長期的に続いた場合の日本の物価や、商社のトレーディング事業への影響は?

(会長)食料を武器に使うという政治的手法は個人的には大変遺憾である。
現実問題として、ロシアのウクライナ侵攻後、小麦、コーン等の市況は高騰したが、しばらくして侵攻前に水準に戻っており、世界全体の需給は時間が経てば落ち着くものと理解する。今回のロシアの措置をマーケットはある程度織り込んでいるのではともみている。小麦については今年豊作が見込まれている国も多く、コーン、大豆も不作の話は特に聞いていない。
トルコが仲介に回っているという話も聞いており、時間がかかるとは思うが、一刻も早い合意再開を大いに期待する。

(記者)ウクライナ関連で、黒海経由での日本へのウクライナ産穀物輸入はほぼないと理解する。昨年のロシアによるウクライナ侵攻開始時と同様のマーケットを通じての影響に加えて、それ以外で懸念される構造的な影響は?

(会長)日本には黒海経由での輸入はほぼないと理解する。中東、アフリカの一部が直近で影響を受けると思われるが、前回の市況高騰の際に代替ソースを確保したはずである。心理的な影響はあるかもしれないが、パニックになるような状況ではない。

(記者)商社のビジネスで、ウクライナ産品を黒海経由で第三国向けに販売しているビジネスはあるか?

(会長)以前はあったが、昨年の侵攻開始後は扱っていないところもあると理解する。

(記者)中国の反スパイ法に関する見解は?

(会長)一般的に海外でビジネスを展開する中で身の安全が確保されるというのは大前提である。治安の問題は自分の行動をコントロールすることである程度防げる。何がスパイ行為なのかは法律的な見解は出されているとは思うが、何が境界線なのかが曖昧で極めて不透明と正直思う。我々がビジネスを行っていく上で、特に技術的な分野において障害になりうる。

(記者)今朝の西村経産大臣との懇談会でのトピックスを可能な範囲でお聞かせいただけるか?

(会長)きわめて率直かつオーソドックスな議論で大臣からは明快なお答えを頂戴した。話題としては、①カーボンニュートラルに関しては、環境への取り組みやルール作り、CO2削減への取り組みについて。②経済安全保障やクリティカルミネラル等も含めたサプライチェーンへの取り組みについて。③アジアのみならず南米、アフリカを含めたグローバルサウスへの対応について。④自由貿易、開かれた世界秩序、同じ価値観を共有する人たちとのアライアンスの重要性。⑤生成AIの活用による事務処理分野での働き方の変容について。⑥人材関連で海外からの人材受け入れ等がトピックスとなった。

(記者)クリティカルミネラル、レアアースに関して、サプライチェーンを分断させないために出来うることは?

(会長)ビジネスの観点から言うと、民間任せにしているとなかなか進みづらく、政府の支援は絶対不可欠である。個人的には日本のクリティカルミネラルに対する取り組みは遅れているように思う。経済合理性で正当化出来るかどうかは別にして、官民連携で進めていく必要がある。狙いどころはアフリカも勿論だが、カナダ、オーストラリアは相当重要になると思う。
価値観を共有できることに加えて、ルールを守るか守らないかという観点まで広げて考えても良いと思う。そうするとアジアやアフリカの一部は対象に入っている可能性がある。

(記者)クリティカルミネラルの分野で日本の取り組みが遅れているという点を具体的に教えてほしい。政府支援が少ないということか?カナダ、オーストラリアへの着手が遅れているということか?

(会長)一部の製造業を除き、我々商社のような民間企業が上流投資を検討する場合、新規投資の基準ははっきりしており、そこに当て嵌めるのが難しいという気がしている。採算ではなく、ボリューム的に押さえるべきという判断で動いている一部の製造業もあるが、まだ日本の民間企業全体の盛り上がりはそれほど強くないという印象である。
政府のさらに踏み込んだ支援が必要ということのみでなく、民間企業が及び腰という側面もある。

(記者)着手が早いのは中国か?

(会長)中国は自国内で資源を持ち、国外の権益も政治的に押さえに行くので我々とは動き方が違う。クリティカルミネラルは結構偏在している筈なので、各国は資源偏在状況を見ていると思う。

以上