会長定例記者会見(2023年9月20日)要旨

定例記者会見

2023年9月20日

最初に、過去数週間にモロッコで地震、リビアで水害と大規模災害が発生し多数の犠牲者が出ている。その他にも世界各地で自然災害が多発し、多くの人的・経済的被害が出ている。お亡くなりになられた方々には心からお悔やみ申し上げるとともに、被災された方々にお見舞い申し上げる。

まず、「G20インド・ニューデリーサミット」について。
先日、主要20カ国・地域首脳会議がインド・ニューデリーで開催された。
ロシアのウクライナ侵略をめぐる各国の立場の違いから、首脳宣言の採択が危ぶまれていたが、国連憲章を遵守し、ウクライナにおける公正かつ永続的な平和を実現することの重要性が再確認され、首脳宣言が採択されたことは非常に意義がある。

世界経済、食料安全保障、気候・エネルギー、環境など、国際社会が直面する喫緊の課題について議論が行われ、気候変動関連では、2030年までに再生可能エネルギー能力を世界全体で3倍にする取り組みに努めること、また途上国が気候変動対策など地球規模の課題に対応できるよう国際的な金融機関の融資能力の大幅な向上に取り組むことなどで合意したことを歓迎する。

今回は、債務問題などを抱える新興・途上国などグローバル・サウスの国々への支援や、アフリカ連合(AU)を正式なメンバーに加えることで合意したことなどが特徴的であった。特に、グローバル・サウスの存在感が増してきている印象を持ち、その中で議長国でもあったインドのリーダーシップが非常に印象的であった。

次に、「対中関係」について。
前提となる米中関係では、決定的な対立を回避すべく、ここに来て米中が互いに歩み寄る兆しがあることに注目している。
米中関係は、技術覇権や貿易摩擦、安全保障等における利害が根底にあり、劇的に改善することは無いと思うが、これ以上のエスカレーションを避けるための努力の姿勢が少し見えてきたのではないか。今年11月に米国が議長国を務めるAPECがサンフランシスコで開催されるが、ここで米中トップ会談が行われるのかどうかが注目される。
日本政府には、引き続きG7議長国として、米国と緊密に連携し、あらゆる課題に対して、国際協調を促すイニシアチブを取っていただきたい。

米中関係の不安定化は両国だけに止まらず国際社会を不安定化させる。日本政府には、これ以上の分断化、米中関係の先鋭化を避けるための外交的努力を続けていただきたい。世界が中国と、米中、日中がデカップリングに進むことは現実的ではない。日中両国が経済的にも人的な交流の面からも切り離すことの出来ない関係であることは明らかである。

懸案となっている福島原発処理水に関しては、政府が科学的データに基づき国内外に向け安全性を発信してきた。「安全」の上にある「安心」に向け関係者への説明努力も続けられているが、そのような中、中国による日本産水産物の全面的輸入停止という非常に極端な対応が行われたところである。これは中国が政治的、外交的なカードとして切ってきたという側面もあろうが、先日のG20でもこの中国の極端な対応について賛同する国があまり出てきていないことは非常にプラスであったと思う。
政府には、科学的なエビデンスによる安全性を丁寧に訴えると同時に、モニタリングデータを逐次公表するなど透明性を高めて国際社会の理解と賛同を得る努力を続けていただきたい。

最後に、「GX推進戦略」について。
7月末に政府からGX推進戦略が発表された。気候変動問題への対応とともに、エネルギー安定供給を確保し、同時に経済成長も損なわないという非常に困難な目標を達成するためのまさにミッション志向の経済産業政策と言える。これをグランドデザインとして2050年のカーボンニュートラル達成に向けGXを一段と加速させる必要がある。

一方、同戦略はカーボンプライシングやその基盤となるタクソノミーなど制度設計の詳細はこれからである。日本の国際競争力維持のためには、海外の他制度のもとでのカーボンプライスと一定の互換性を備えることも必要になるであろう。日本政府のこれからの詳細設計を注目していきたい。

また、2050年のカーボンニュートラル達成は、簡単なものではなく非常にチャレンジングであると言った方が良いかもしれない。産業構造の変化によるエネルギー需要の変化の可能性にも目を向けなければならず、特に生成AIの爆発的な普及に伴う電力需要増などが新しい要素として加わってきた。GX戦略にこうした変化が十分に落とし込めていないのではないかとも思われ、その意味でもう一段加速して進める必要があると考えている。

また、同戦略ではGX経済移行債を活用して脱炭素分野への先行投資を集中的に行い、短期間でGXを加速させるプランも盛り込まれているが、短期的にもう一段加速した形でのGX推進に政府のイニシアチブを期待している。

質疑応答

(記者)冒頭発言にあった「グリーンをもう一段加速する」というのは、具体的にはどういうことか?

(会長)ただ単にカーボンをなくせば良いという話ではない。冒頭発言でも触れた電気自動車の普及の度合、デジタル化といった要因がそれほど考慮されずに今のロードマップがあるような気がしている。そういう中で、経済を棄損せずに安価なエネルギーを確保した上で、という話になると、色々な合わせ技が必要となる。単に風力などの再エネを動かせば良い、という話ではない。日本の場合、制度の整備、原子力の再稼働、水素、新エネ、CCUS、等に加えて、ある程度の化石燃料も含めて合わせ技でやらないといけない。デリケートな問題も多々あると思うが、逃げないで取り組む必要がある。処理水の放出は、一歩前進だと思う。もう一つ重要なのは、トランジションファイナンスの枠組みをどう整備していくかだ。随分議論が進んできているが、複合的な施策を官民一体で進めていく必要がある。

(記者)GX推進と関連するかと思うが、最近の原油高についてと今後の見通しは?

(会長)個人的な意見になるが、2050年までの通過点として2030年を見ると、現実的に2030年代中盤から後半までは化石燃料の消費はグローバルに伸びると思われる。民間サイドでどういう手が打てるかだが、今、石油などの化石燃料の上流に投資をすることは非常にハードルが高い。日本企業のみならずメジャークラスでも上流投資が減っている。需要が伸びていく一方で、民間での投資が落ちている中で誰が投資出来るかというと、中東産油国の国営石油会社、あるいは、ロシア等になる。供給はどうしてもそれらの国々に依存せざるを得ないといういびつな構造になってしまう。現実問題としてカーボンニュートラルを将来達成しなければならないというのは間違いないが、その通過点の10年、20年先をどう考えていくかという点が難しい。官民でこの状況について考えるとともに、国際的な議論もしていかないと、何かあると原油高が続くという状況になる。

(記者)中国の水産物の全面輸入禁止以外での商社のビジネスへの影響は?

(会長)水産物の件は象徴的な話だと思う。この件が外交的なカードだとすると、落としどころはあるはずであり、トレード面ではあまり大きな問題だとは思っていない。一方、先端技術などの経済安全保障やサプライチェーンについては、代替調達先も含めて見直す必要がある。

(記者)中国経済の見通しは?

(会長)これから1年の一番のリスクファクターの一つが中国。消費、輸出、直接投資のいずれも顕著に鈍化/頭打ちの状況。加えて地方の不動産の債務超過が続いており、中国が減速するリスクはある。一方、中国の経済政策は選択肢をまだ残している。決定的になる前にあらゆる政策を打ってくるだろう。ただ、やはり世界全体を見ると、中国が一番心配な状況である。

(記者)ウクライナ情勢の見通しは?変化の兆しは感じているか?

(会長)少なくとも短期的にロシアが停戦の交渉テーブルにつくとは考えにくいため、短期で戦争が終結するとは考えにくい状況。ただ、少し気が早い話ではあるが、ウクライナ復興需要をどのように取り込むかという点が西側諸国で議論になっているのは間違いない。ウクライナ側から日本も含めた西側諸国に対する要望も来ている。戦争が短期に終結することは難しいが、戦争後の復興への取り組みは大きな課題の一つである。

以上