会長定例記者会見(2023年11月29日)要旨

定例記者会見

2023年11月29日

まず、「イスラエル・パレスチナ情勢」について。
ガザでは、人道面からの憂慮が高まる情勢が続いており、11月29日まで戦闘休止期間が延長されたものの、本格的な停戦の道筋は見えてこない。また停戦をしたとしてもこの地域の戦後の絵姿を描くことができない限り紛争が再発し得ると感じている。

中東地域は、1970年代のオイルショック以来の構図が変わってきている。長年覇権を争ってきたサウジアラビアとイランが国交回復に合意し、従来からの湾岸(GCC)諸国とイランという単純な関係のみならずイスラエル、パレスチナを含む中東地域のダイナミズムが変わってきていると感じる。また、国によってロシア、イスラエル、イランとの距離感が微妙に異なってきており、アラブ諸国と一括りには出来ない状況になってきていると感じる。支援国のそれぞれの思惑が複雑に絡み合っており非常に難しい問題であるが、G7の議長国でもある日本は、外交的なイニシアチブを発揮し、関係各国と協力し、一刻も早い人道状況の改善、事態の早期鎮静化と平和的な解決に向けて外交努力を継続していただきたいと強く思う。

次に、「APEC首脳会議」について。
11月15日から17日まで、APEC首脳会議が米国・サンフランシスコで開催された。ウクライナや中東情勢への言及については、各国の見解相違から首脳宣言への明記が見送られたが、自由で公正な貿易・投資環境の構築、WTOの重要性の再確認、気候変動対策を含めた環境問題の取組みなど、幅広い分野についての首脳宣言が取り纏められたことを評価する。

また、APEC首脳会議に合わせて、中国との安定的な関係をつくる首脳外交が活発に行われ、11月15日には1年ぶりに米中首脳会談が行われた。4時間に及んだ会談直後の米中両国は、相当高揚感があった印象である。チャンネルが担保されたことを歓迎する。

また、11月16日に開催された日中首脳会談では、共通の利益を拡大する「戦略的互恵関係」を包括的に推進していくことが再確認された。「建設的かつ安定的な日中関係」の構築に向けて、対話の機会が確保できたことを歓迎する。
両国間には日本産水産物の輸入停止措置や処理水の問題など、まだまだ課題はあるが、日本政府には粘り強い交渉を続けていただきたい。
なお、全体的に今回中国が従来に比べ柔軟な対応をしてきたというのが率直な印象である。

次に、「COP28」について。
COP28が11月30日からUAE・ドバイで開催される。特に注目されるのが初めて実施される「グローバル・ストックテイク(GST)」において、政治的な合意が得られるかである。各国のコミットメントや奨励策などを含む政治的メッセージがどこまで引き出せるかが、最大のポイントになる。

一方、あくまで個人的見解だが、これまで再生可能エネルギー一辺倒であったEU、特にドイツではエネルギーセキュリティのみならず、エネルギー価格の影響が経済へボディーブローのように効いてきており、EUの再生可能エネルギーに対する見方が変わってきている印象を持つ。EUではデジタル化が進み、電力需要が伸びる可能性があり、経済への影響も考慮し、どのように現実的なトランジションを進めていくのか、という点が課題と認識している。こうした状況の中、アジアを牽引し得る立場である日本は、各国の事情に応じた現実的な対策が、結果的に脱炭素社会への近道であると訴え続ける必要があり、日本のイニシアチブを期待する。

なお、IEAが提唱した「2030年に再生可能エネルギーの設備容量を3倍にする」目標が主要議題となっている点については、日本では地域間の送電線網強化といった課題を解決しつつ、今後どう具体的に目標へ向けた取り組みを進めていくかが重要であると認識している。一方、再生可能エネルギー推進は、現状太陽光パネルや風力発電設備など、再生可能エネルギー設備シェアの過半を占める中国への依存を高めることにつながる。

最後に、お知らせについて。
既にご案内の通り、12月7日に当会会議室にて「2024年度の貿易収支、経常収支見通し」について記者発表を行う予定である。当会の貿易見通しは、マクロの見通しに加え、商社の営業部門や業界関係者へのヒアリングを基に、商品別に数字を積み上げて作成するユニークなもので、ぜひご出席いただきたい。

質疑応答

(記者)パレスチナ情勢複雑化、中国、グローバルサウスとの関係等の地政学リスクを勘案し、商社としてグローバルサプライチェーンを安定的に構築していくための懸念点は?

(会長)経済安全保障と自由貿易はトレードオフの関係。G7諸国も経済安全保障に注目しているが、原則は自由で開かれた法の支配に基づく自由貿易、投資体制の維持であると理解。その中で経済安全保障の概念として必要な分野に限定したスモールヤード・ハイフェンスの考え方で、どこまでサプライチェーンを強靭化出来るかが課題。一方、どの範囲で経済安全保障の概念を適用させるかは非常に難しく、国際的な情勢で刻々と判断が変わり得ることから、官民の距離感を一層縮めて日本政府の意向を正しく理解するとともに、米政府の経済安全保障に対する考え方を常にアップデートしていくことが必要。個別論では各々事情はあると思うが、ともすれば日本企業が過剰に自重する動きがあるので、ガイドライン、コンセンサスの中で出来るところは対応していく、というのが基本的な姿勢と認識。

(記者)地政学リスクに関し、パレスチナ情勢、日本郵船運航船の拿捕といった事案が発生している中で、現時点で商社、日本企業が調達ルートの変更、在庫の積み増し、航空貨物の利用増といった具体的な対策がどの程度顕在化してきているか?

(会長)個社の対策状況は把握していないが、例えばエネルギー関連では、単発的に限定的な地域でのリスクはあるものの、ホルムズ海峡が封鎖されるような大きな制約は想定しておらず、知る限りにおいて、供給網への影響はまだ出てきていないという印象。

(記者)来年の米大統領選が環境政策、地政学の動き等に与えるであろう影響についての現時点での見解は?

(会長)米国でも注目度は極めて高い。民主党か共和党か、という話ではなく、トランプ前大統領が再選するか否かが注目点。トランプ前大統領の特徴は、米国第一主義であること、物事を交渉材料として扱えるかどうかで捉えていると感じており、外交等でも従来の常識にとらわれない判断をされる可能性もある。従って、トランプ前大統領が再選した場合を想定したシミュレーションを予め行っておくことが必要という意見が多い。ただし、予見することは難しい。

(記者)再エネはエネルギーの安全保障の面でも効果があるという文脈で従来語られてきたと理解しているが、基礎的部品、設備系で中国製品が一定のシェアがあるということは、再エネについて、安全保障の面で効果があるという文脈では語れないということか?

(会長)再エネが安全保障の面で効果あるという文脈は不変で、再エネは自給率を上げるという観点で当然必要。また、コストも下がってきており、再エネを推進しないという選択肢はない。一方で、太陽光パネルや風力発電設備を中心に中国製品が現状大きなシェアを占めているという現実がある、との認識。

(記者)中国が再エネ関連の製品、資機材をレアアースのように外交上のツールとして使われる可能性は?

(会長)可能性はゼロではないかもしれないが、調達コストは上がる可能性はあるが、地政学的に調達が難しくなる製品、資機材はないとの認識。

(記者)日本貿易会会長としてではないが、先般、経団連としてウクライナ出張された際の面談先、面談時の印象、先方からの日本への期待等についてどのような印象を持たれたか?

(会長)面談先は外務省、経産省の発表をご参照いただきたい。今回のミッションは、来年2月19日の日本ウクライナ復興推進会議に向けてのワンステップの位置付け。先方の関係閣僚、商工会の方々、ビジネス界の方々との面談を行ってきた。先方からは、エネルギー、インフラ、住宅、医療、金属加工等の分野において日本企業への熱量の高い支援要請があった。一方、現状外務省の危険レベルがまだレベル4で駐在員も退避したままの状況であり、支援に取り組むのは相応に難しい状況。法整備等の課題を整理しつつ、今すぐ出来ること、中期的に考えていくべきこと、将来の投資も含めて長期的に考えていくべきことの分類の中で、政府に確保していただいている予算の活用も念頭に、情勢も注視しつつ、一歩ずつ支援を行っていく状況と認識。

(記者)現地滞在中に戦争のリスクをどのように感じたか?

(会長)極めて高いセキュリティ体制の下での訪問だったが、地域毎に状況に差があると思われるものの、滞在した場所においては見る限りは普通の生活が維持されていた印象。

(記者)来年の米大統領選について。バイデン現大統領の任期中にウクライナ危機等の地政学リスクが高まったことを勘案し、トランプ前大統領が仮に再選となった場合、前回の任期中と比べ地政学リスクのフェーズは変わるという認識か?

(会長)難しい質問だが、トランプ前大統領が現在ロシアに対してどう考えているかにつきると思う。状況に応じて、握れるところを握っていくというスタイルなので、予見は難しい印象。

以上