会長定例記者会見(2024年11月20日)要旨
2024年11月20日
先週より報道されております通りペルーでAPEC、ブラジルでG20が開催されました。私は日本商工会議所で日本ペルー経済委員長、経団連ではブラジル経済委員長を務めておりますので、その関係で、直前に石破総理とお会いし、我が国とペルー、ブラジルを含むメルコスールとの経済関係についてご説明するとともに、メルコスールとのEPA経済連携協定の早期交渉開始についてお願いをいたしました。
メルコスールは、人口約3億人、GDP3兆ドルに迫る一大経済圏でありますし、鉱物、食糧資源の世界的な供給元であります。また、日系人コミュニティに支えられた歴史的なつながりも深く、約1000の日系企業が現地で活動しております。その中で特にブラジルは1895年に修好通商航海条約を締結後、来年でちょうど130周年という節目の年を迎えます。その間、日系人の存在も含めて非常に緊密な交流を行い、日系人コミュニティが約200万人という世界最大の日本の外にあるコミュニティになっております。先人たちが苦労してブラジルの経済発展に貢献し築いた信頼関係をベースに、多くの日本企業がブラジルに拠点を構えて多様なビジネスを展開しています。
日本は中南米随一の経済大国であるブラジルから多くの鉱物資源や飼料を輸入し、ブラジルへは自動車部品や機械などの工業製品を輸出する相互補完的な関係を築いております。
日本とブラジルがしっかりと連携すれば、グリーン、デジタル、ヘルスケア、資源、食料、人材育成などの分野で、これまで以上の大きな付加価値を創出できることを日本ブラジル経済委員会で議論し、その結果を、私とブラジル側の委員長でありますピメンタ・ブラジル日本経済委員会委員長(ヴァーレ社CEO)と一緒に、石破総理のもとにご報告に上がりました。
日本とブラジルは脱炭素分野での官民連携も強化しており、ISFMという持続可能な燃料とモビリティの組み合わせの枠組みを立ち上げております。これは5月に岸田総理がブラジルを訪問した時に、日本とブラジル間で合意したものです。具体的には、ブラジルのバイオ燃料とハイブリッドや航空燃料用のSAFなどの日本の先端技術を結びつけることで、カーボンニュートラルの実現に貢献していくという取り組みであります。
また、先日シンガポールにも訪問し、脱炭素の重要性についてシンガポールの政府関係者と議論してまいりました。ASEANを含むアジアではエネルギー消費が増加しており、地域全体の電力供給体制を整えるとともに、脱炭素化を進めることが必要です。日本が主導して立ち上げた多国間協力の枠組みであるAZEC(アジア・ゼロ・エミッション共同体)といった協力関係を強化し、域内でのルール形成、ファイナンスの構築、具体的なプロジェクトの推進につなげていくことが必要だと考えております。
日本は日本だけで脱炭素化を進められるわけではなく、世界の国々と共に、この脱炭素化の取り組みを進めていく必要があります。各国の経済状況や自然エネルギーの実情を考慮して、LNGやクリーンアンモニア、メタノールなどのクリーンなエネルギーの組み合わせや原子力発電の再稼働などを含む、適切なエネルギーミックスについて議論していくことが大事だと考えております。
最後に、前回この場でも触れましたが、日本貿易会はグローバルサウス諸国とのさらなる連携強化を目指し、10月31日に「インフラシステム海外展開戦略2025に代わる2030年を見据えた新戦略に向けた提言」を公表しました。提言では、グローバルサウスとの連携、海外高度人材の活用などを通じた人材交流、アジアを中心としたGXの推進、官民連携に関わる具体的な提言を行い、特に日本が得意とするライフサイクルを通じたグローバルサウス各国に対する貢献、相手国の社会課題解決、そして、その裨益を日本に取り込むことを目的に、新たなビジネスの創出に貢献できればと考えております。
質疑応答
(記者)米国大統領選で次期大統領がトランプ氏に決まりましたが、商社業界として次期政権とどのように向き合っていくかについての所見は?
(会長)日本は米国に対し過去五年間連続して、産業面での投資における国別投資残高が首位の投資国です。個社ごとに多少の差がありますが、商社業界としても米国は最大の投資国になります。それは、我々が投資を通じて現地で雇用を生み税収を生み出して、米国の各州で経済発展の効果を生み出しているということを意味します。日本企業が米国における重要な産業プレイヤーとして、米国化しているということをきちんと伝えていくことが必要だと思います。
さらに、メキシコやカナダに産業拠点を置いて米国市場に対して域内輸出を行っていることに関し、トランプ政権でも現状のような北米連携協定が維持されるのかどうかも注視していく必要があると思います。世界最大の市場である米国経済におけるプレイヤーである日本企業にとっては、米国でのビジネス拡大のチャンスでもあるため、経済政策の転換について注意を払いつつ、現地のプレイヤーやパートナーと一緒に仕事を作っていくことが重要だと考えています。
(記者)トランプ次期大統領政権下では、化石燃料へのシフトなどの政策転換が見込まれているが、脱炭素政策についての進め具合など今後商社業界は次期政権とどのように向き合っていくかについての所見は?
(会長)化石燃料に対する政策が少し後戻りする可能性は高いと思われます。一方、米国ではガスの利用が進んでおり、CCS(二酸化炭素回収・貯蔵)の技術は、米国が最も進んでいます。米国の中には環境対策に対して非常に感覚の鋭い企業も存在しますので、グリーン化のみならず、ブルー化の脱炭素化戦略を進めることも重要になると思います。
また、米国は勿論世界各国で、AIや自動運転等も含めたデジタルトランスフォーメーションの過程でデータの処理量が膨大に増えて、データセンターを中心にした電力消費が過去のトレンドとは異なる形で増えていくことが想定されます。この電力消費量の増加をどう賄うかを考えると、原子力の安全性を確保した利用も含めた、現在利用可能なエネルギー源を使っていくことが必要だと思います。米国内でも、再生可能エネルギーの開発、化石燃料のブルー化、原子力の安全利用がバランスよく進んでいくと思います。政権が変わったことで脱炭素化の道筋は少し変わるかもしれませんが、カーボンニュートラルの重要性は変わらないので、我々はカーボンインテンシティを下げながら事業を持続的に継続する努力を続けていく必要があると思います。
(記者)トランプ政権は保護主義色が強いと言われていますが、日本政府に米国との関係で期待をすること、どういった関係を構築してもらいたいかについてお聞かせ下さい。
(会長)日米関係が日本にとって最重要な二国間関係であることは間違いありません。経済面のみならず、安全保障や外交面でも最も重要です。東アジア地域の安定や、欧州や中東における紛争解決等に向け日米で緊密に連携していくことが必要であり、結果的に日本の国益に直結していくことになると思います。
経済界としても対米投資を通じた日本企業の米国化が進む中で、日本がどれだけ貢献しているかを経済活動や財界活動を通じて発信することが必要だと思います。そのためには、外交面や政治面で、緊密な二国間関係をさらに強固にしていただくことが重要だと思います。
(記者)米国周辺諸国であるメキシコ、カナダへの日本政府からの働きかけでの期待は?
(会長)今の政治的な地合いでは、米国が全ての産業を米国内に回帰させることが本当に合理的かどうかについて議論しないと、北米連携協定が米国の国益にかなうか否かの議論になりにくいのではないかと思います。全てをリショアリングし移民を排斥すると、インフレが進み米国の消費者にとって苦しい状況が生まれる可能性があります。その時に初めて、周辺諸国との役割分担について合理的な形で議論されるのではないかと期待しています。
(記者)今後、一般論として総合商社の米国投資は落ちることはないと予想しているという理解でよろしいか?
(会長)一般論で言えば、各商社の米国での投資先企業は、経済発展や人口増加に合わせて市場シェアを伸ばすために再投資をしていかなければなりません。その規模は年々大きくなっています。米国経済が順調に成長する中で、米国内で拡大再生産が起こり、それらの事業を持続的に成長させるための追加投資が必要になり、様々な周辺事業への投資拡大のチャンスも生まれます。各社はそれぞれの得意分野でプラットフォームを持っており、その分野ごとに、投資を拡大したり、新たな周辺事業参画の機会を得たりする可能性が生まれます。このような理由から、米国は今後も最も注力すべき市場だと考えています。
一方、米国が内向き化する中で、開かれた自由貿易や自由投資体制を必要とする国々と一緒になって進める仲間づくりをすることが必要だと思います。人口増加や人口ボーナス期を迎えて経済成長期にあるグローバルサウスの国々と協力して自由貿易体制を堅持していくために、日本は米国のみならず、グローバルサウスの国々との連携強化も必要だと考えています。特に中南米はこれから非常に注目が高いエリアだと思いますし、アジアと並んで中南米に対しても注目をしていきたいと考えています。
(記者)この一年は各国で選挙が実施された年でした。今年の振り返りと、来年に向けた商社業界の動向等について期待を含めてお聞かせください。
(会長)全てのG7諸国の選挙で与党が勢力を縮小し、野党が勢力を拡大しました。経済状況等への現状に対する不満が民意として現れてきていると思います。ただ、野党がその状況を改善できるのか、具体的かつ実践的な処方、提案が出ているかという点は疑問に思います。そういう意味では、来年を見通しにくい状況です。政治的に動揺が続いている先進国に比べ、経済発展を最優先としているグローバルサウスの国々の方が政治的に安定しており、人口ボーナスを活かして経済成長率がある程度高く目標設定されていますので、こうしたマーケットで日本企業がもっと活躍する余地があると思います。
グローバルサウス各国との連携強化、それを通じた自由で開かれた投資貿易体制に日本が旗振り役として参加することで、日本がむしろ彼らから学ぶ部分も多いと思います。かつては日本企業が人材育成、技術移転、現地の産業の高度化に貢献してきましたが、今や先進的な技術、特にIT、DXに関しては日本の方が残念ながら遅れているのではないかと感じています。例えば、日本ではさまざまな諸制度がアナログのままであり、かつ消費者が現金に対して強い信頼を持っているため、逆に電子マネーの普及が遅れています。その結果、消費を喚起するようなメッセージや仕組みを作るという動きに繋がっていないと感じます。
逆にグローバルサウスの国々では、既存のインフラがない分、一足飛びにデジタル化できるという有利さがあります。キャッシュレス社会が進む中で、銀行の支店網やキャッシュディスペンサーの必要性がどのように変わるのかという状況が、グローバルサウスの国々ではすでに起こっています。また、キャッシュのいらない世界が出来ると犯罪も減るというメリットもあります。我々は「リープフロッグ」と呼んでいますが、これは飛び石的に新たな技術に飛びつくことで、我々が経験したよりも倍速、3倍速ぐらいで成長していることを意味しており、グローバルサウスの企業から学ぶことも多いと思います。一方、グローバルサウスの国々の企業はまだまだ財閥系企業が多いので、日本の技術のみならず、サステナブルな企業経営のガバナンスに関する知見を提供することで、ウィンウィンの関係を構築できる機会は多いと考えています。グローバルサウスとの連携強化を進めるために、日本はもっとD&Iに対して寛容にならなければいけないと思います。
(記者)報道で何社かの新規取り組みを拝見していますが、コンテンツビジネスの海外展開への商社の取り組み意義についてのお考えがあれば伺いたい。
(会長)世界中のどこに行っても日本のアニメに対する海外の人たちの愛着を実感します。小さい頃から日本のアニメに囲まれて育ってきている人たちは日本に対する興味のレベルは高いですし、アニメのみならずJ-POPやキャラクターグッズ等、様々なコンテンツから派生したものに対し消費志向が高まっていると感じています。それをどのようにビジネス化するかは、会員各社のまさに腕の見せどころだと思います。
(記者)ビジネスとしては、有望になりそうだというような理解でしょうか?
(会長)配信事業等と比べた場合、どれくらいの規模になるのか、また、継続的に代金を支払ってもらえるメンバーシップのような仕組みをどのような形で作り上げていくかが重要だと感じています。コンテンツの売り切りにしない仕組みを作ることが大事だと思います。